家庭医学館 「バッド・キアリ症候群」の解説
ばっどきありしょうこうぐん【バッド・キアリ症候群 Budd-Chiari Syndrome】
血液は心臓を中心に循環していますが、肝臓(かんぞう)に入った血液は肝静脈(かんじょうみゃく)から肝臓の外に出て下大静脈(かだいじょうみゃく)に集められ、心臓にもどります。したがって、肝静脈や下大静脈がなんらかの原因で閉塞(へいそく)すると、肝臓をめぐる血流全体(循環系(じゅんかんけい))が障害され、肝臓のうっ血(けつ)(血液が滞(とどこお)る状態)や門脈圧亢進症状(もんみゃくあつこうしんしょうじょう)をおこします。これがバッド・キアリ症候群(しょうこうぐん)です。
原因がはっきりしない場合を原発性(げんぱつせい)バッド・キアリ症候群(しょうこうぐん)、肝腫瘍(かんしゅよう)、炎症、腹部外傷(ふくぶがいしょう)、赤血球増多症(せっけっきゅうぞうたしょう)、経口避妊薬(けいこうひにんやく)の使用など、原因が明らかな場合を続発性(ぞくはつせい)バッド・キアリ症候群(しょうこうぐん)といいます。
この症候群は比較的まれなものと考えられてきましたが、超音波検査の普及にともない、報告例が増えています。経過からみると急性型と慢性型とに分けられ、日本ではほとんどが慢性型で、下大静脈の閉塞(へいそく)ないしは狭窄(きょうさく)によるものです。
[症状]
急性型では腹痛(ふくつう)、吐血(とけつ)、肝腫大(かんしゅだい)(腫(は)れ)、腹水(ふくすい)がみられ、ときに重篤(じゅうとく)な経過をたどります。これに対し、慢性型は数週~数か月という経過のなかで軽度の腹痛や肝臓の腫大が生じるようになりますが、腹痛は現われないこともあります。
下大静脈閉塞の症状として腹部や胸部の静脈の怒張(どちょう)(皮膚(ひふ)に血管が盛り上がってみえる)、下肢(かし)の浮腫が生じます。門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)の症状は必発で、腹水、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)がみられるようになります。
[検査と診断]
肝硬変(かんこうへん)の場合とは異なり、腹水が高度の場合でも、血中アルブミン値はそれほど低下せず、肝臓自体の障害を示す徴候(ちょうこう)はあまりみられませんが、腹部などの静脈の怒張が著明になります。
超音波検査(ちょうおんぱけんさ)では下大静脈の閉塞や血栓(けっせん)がみられます。また、超音波ドップラー法という検査を行なうと、下大静脈、肝静脈に通常とは逆方向の血流がみられます。静脈からカテーテルを入れて、下大静脈・肝静脈造影法(かんじょうみゃくぞうえいほう)で、これらの血管系の閉塞が証明されれば診断が確定します。
[治療]
門脈圧亢進症と血管の閉塞に対する治療が行なわれます。続発性の場合は、原因疾患の治療も必要です。
下大静脈閉塞では、門脈圧亢進症状が出現する以前に治療することが重要で、手術が行なわれますが、専門医がいる医療機関を選ぶべきでしょう。
[日常生活の注意]
原因となる病気(この項目のどんな病気か)があればもちろん、血栓症をおこすような病変があり、静脈の怒張や腹痛がある場合は、この病気を一応念頭において検査を受けるべきでしょう。
生存期間は閉塞部位によってちがいます。肝(かん)がん合併もまれではありませんから、自分でからだの変化に気をつけ、定期的に検査を受け、医師の指導を受けるようにしましょう。