日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ヒッポリトス(ギリシア神話)
ひっぽりとす
Hippolytos
ギリシア神話の英雄テセウスの子。青春のさなかにありながら、深くアルテミスを信仰していたヒッポリトスは狩猟を好み、山野を駆け巡って暮らしていた。そのため恋愛などにはまったく見向きもしなかった。テセウスの妻で彼の継母(ままはは)にあたるパイドラは、彼に不倫の恋をしかけるが拒絶され、テセウスに偽りの告げ口をして自殺する。それを信じたテセウスは、ポセイドンに息子の死を願った。ポセイドンは、トロイゼンの海岸で戦車を駆っていたヒッポリトスに海の怪物をけしかけたため、彼は驚く馬に振り落とされて死ぬ。一説には、アルテミスが医神アスクレピオスに命じて彼を生き返らせたともいう。またアテナイ(アテネ)やトロイゼンでは、彼は神として祀(まつ)られ、とくにトロイゼンでは、結婚前の青年男女が神前に頭髪を奉納する祭祀(さいし)があったと伝えられる。ローマの伝説では、馬車から転落したヒッポリトスをアルテミス(ディアナ)がローマ近郊のネミに運び、ウィルビウスVirbiusと名をかえさせて、神として祀らせたともいう。
ヒッポリトスの物語は、エウリピデスの『ヒッポリトス』、セネカの『パイドラ』、ラシーヌの『フェードル』に劇化された。
[伊藤照夫]