ヒメエゾボラ(英語表記)Neptunea arthritica; arthritic neptune shell

改訂新版 世界大百科事典 「ヒメエゾボラ」の意味・わかりやすい解説

ヒメエゾボラ (姫蝦夷法螺)
Neptunea arthritica

エゾバイ科の巻貝。殻の高さ11cm,幅7cm,太い紡錘形で厚くて堅固。巻きは6層。初めの巻きは乳頭状で,その後は膨らみ,瘤状の結節の列があるが,個体によりほとんど明らかでない場合や,著しくてひれ状突起になることもある。殻色は褐色から紫褐色。体層は大きく円く膨らむ。殻口は広く卵形内面は紫褐色で細いすじがある。水管溝は短く開いている。ふたは革質で厚く黒褐色。本州の三河湾以北に分布し,潮間帯下の岩礁に多い。北海道に多く,通称ツブ。壺焼きなどにして食用にするが,唾液腺テトラミンを含み,これに中毒すると酒に酔ったようになることがあるので,この貝をネムリツブともいう。したがって料理では唾液腺を取り除く。エゾボラN.polycostataマツブ,カラフトエゾボラN.eulimataシオツブといい,いずれも食用にするが,これも唾液腺にテトラミンを含んでいる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒメエゾボラ」の意味・わかりやすい解説

ヒメエゾボラ
Neptunea arthritica; arthritic neptune shell

軟体動物門腹足綱エゾバイ科。普通本種を特にツブ (本来は巻貝の意) という。殻高 9cm,殻径 5.5cm。殻は太い紡錘形で褐色ないし紫褐色であるが,殻表は通常よごれて灰白色となっている。螺層は円錐形状に高く,肩に角があり,ここで結節となるが,発達して鰭状になったり,逆に消失していることもある。殻口は大きく,内面は紫色。ふたは黒褐色,革質で厚い。核は下端にある。産卵期は5~7月 (水温 13~14℃) で,25~50個の黄色の革質の卵嚢を重ねて産む。肉は食用となるが,唾液腺にテトラミンを含んでいるため,多く食べると中毒し,酒に酔ったようになるのでネムリツブともいう。房総半島以北の本州,北海道や日本海,朝鮮半島などの寒流域の潮間帯から水深 100mの岩礁にすむ。日本海に分布する型はチョウセンボラ N.arthritica cumingiとして区別されることがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒメエゾボラ」の意味・わかりやすい解説

ヒメエゾボラ
ひめえぞぼら / 姫蝦夷法螺
whelk
[学] Neptunea arthritica

軟体動物門腹足綱エゾバイ科の巻き貝。東北地方以北、北海道、オホーツク海沿岸に分布し、潮間帯下の岩礁から砂地にすむ。また、日本海、朝鮮半島、華北にも分布し、地方による個体変異が著しい。殻高90ミリメートル、殻径50ミリメートルぐらいの太く短い紡錘形で、殻は硬く厚く、各層はよく膨らみ、肩に結節や稜(りょう)ができる個体もある。蓋(ふた)は革質で厚く卵円形で、黒褐色。殻色も淡褐色、濃褐色、縦縞(たてじま)様の模様のある個体などがある。殻口内は黄褐色ないし暗緑褐色で、つやがある。ツブと俗称される種の一つである。

[奥谷喬司]

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百科事典マイペディア 「ヒメエゾボラ」の意味・わかりやすい解説

ヒメエゾボラ

ツブとも。エゾバイ科の巻貝。高さ11cm,幅7cmに達する。褐〜紫褐色,汚れて汚白色の個体も多い。殻の肩には普通こぶ状突起,まれにひれ状突起が並ぶ。ふたは厚い革質で黒褐色,下端に核がある。本州の三河湾以北〜北海道,朝鮮半島,沿海州の潮間帯付近の岩礁にすむ。食用にするが,唾液(だえき)腺に毒を含み,それを除かないと中毒する。
→関連項目ツブ

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栄養・生化学辞典 「ヒメエゾボラ」の解説

ヒメエゾボラ

 [Neptunea arthritica].バイ目バイ亜目エゾホラ属の巻貝.食用にされる.

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世界大百科事典(旧版)内のヒメエゾボラの言及

【魚貝毒】より

…症状は激しい嘔吐,口や手足のしびれなどで,死亡率も高い。
[ヒメエゾボラ]
 この肉食性の巻貝の唾液腺にあるテトラミンが原因物質で,中毒症状は頭痛,悪寒,眠気などである。近縁種のエゾボラモドキの唾液腺にもテトラミンがある。…

【ツブ】より

…壺から転じたことばで丸く膨らんでいる巻貝の意。とくに北海道,東北地方太平洋岸の潮間帯下の岩礁にすむヒメエゾボラをいう。エゾボラをマツブ,カラフトエゾボラをシオツブ,モスソガイをベロツブ,シライトマキボラをトウダイツブなどという。…

※「ヒメエゾボラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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