フェレーリ(読み)ふぇれーり(英語表記)Marco Ferreri

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェレーリ」の意味・わかりやすい解説

フェレーリ
ふぇれーり
Marco Ferreri
(1928―1997)

イタリアの映画監督、脚本家、俳優、プロデューサーミラノに生まれる。1950年から1951年まで、映画運動ネオレアリズモの理論的支柱であった、脚本家兼監督チェーザレ・ザバッティーニCesare Zavattini(1902―1989)とともに、ドキュメンタリー映画シリーズ『月刊記録』Documento Mensileを製作したのを契機に映画業界に入る。1953年、フェデリコ・フェリーニ、ミケランジェロ・アントニオーニ、アルベルト・ラットゥアーダAlberto Lattuada(1914―2005)、ザバッティーニらが監督した、ネオレアリズモの集大成作品であるオムニバス映画『都会の恋』L'amore in Cittàに、製作・脚本・出演で参加。1954年、ラットゥアーダ監督『浜辺La Spiaggiaに製作と出演で参加し、またルイジ・マレルバとアントニオ・マルキAntonio Marchi(1923―2003)の共同監督作品『女たちと兵隊たち』Donne e Soldati(1954)では脚本を執筆し、準主役を演じた。

 1956年、スペインへ移る。スペインの喜劇作家ラファエル・アスコナRafael Azcona(1926―2008)と知り合い、共同で脚本執筆を開始する。1958年、アスコナが発表した同名小説の映画化である、監督第一作『アパート』を発表し、現実をあるがままにとらえようと試みた、1950年代初頭のイタリア・ネオレアリズモとは異なる映画表現を実践した。『少年たち』(1959)、『車椅子』(1960)を監督したのち、オムニバス映画『豊かなる成熟』(1961)の一編「不貞」を監督し、イタリア映画界に復帰した。

 イタリア映画における長編第一作『女王蜂』(1963)は、子供が欲しくてしかたない妻の欲望を受け止めきれない夫の物語である。性がロマンティックな恋愛の結果である以前に生殖行為であるという認識は、『人間の種子』(1969)、『ひきしお』(1972)において反復される。

 食欲に溺(おぼ)れる人間のさまを赤裸々に描く『最後の晩餐(ばんさん)』(1973)で頂点に達する、フェレーリ特有のグロテスクな表現は、人間の本能のおぞましさをさらけ出す一方、常識という名の固定観念を打破する力を秘めている。たとえば、『歓(よろこ)びのテクニック』(1965)では、人間の欲望はゴム人形にも向けられる。そして、人間の子供同様に愛されるチンパンジーが登場する『バイバイ・モンキー コーネリアスの夢』(1978。ビデオ・タイトルは『バイバイ・モンキー 摩天楼ラプソディ』)は、規範的な核家族枠組みから逸脱した現代人の姿を、エンパイア・ステート・ビルから墜落した映画『キング・コング』(1933)の怪物になぞらえて表現したと高く評価され、1978年度カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞した。その後発表された『ピエラ 愛の遍歴』(1983)、『未来は女のものである』(1984)は、新しい命を生み出す女性への憧憬(しょうけい)と賛美に満ちており、家族という永遠の謎(なぞ)について、優しさに満ちた独自の見解を示している。

[石田美紀]

資料 監督作品一覧

アパート El pisito(1958)
少年たち Los chicos(1959)
車椅子 El cochecito(1960)
豊かなる成熟~「不貞」 Le italiane e l'amore - L'infedeltà coniugale(1961)
女王蜂 L'ape regina(1963)
歓びのテクニック Marcia nuziale(1965)
女と男と金 Oggi, domani, dopodomani - L'uomo dei 5 palloni(1965)
ハーレム L'harem(1967)
人間の種子 Il seme dell'uomo(1969)
ひきしお Liza(1972)
最後の晩餐 La grande bouffe(1973)
バイバイ・モンキー コーネリアスの夢 Ciao maschio(1977)
マイ・ワンダフル・ライフ Chiedo asilo(1978)
町でいちばんの美女 ありきたりな狂気の物語 Storie di ordinaria follia(1981)
ピエラ 愛の遍歴 Storia di Piera(1983)
未来は女のものである Il futuro è donna(1984)
I LOVE YOU I Love You(1986)

『Tullio MasoniMarco Ferreri(1998, Gremese editore, Roma)』

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