ブーダン(読み)ぶーだん(その他表記)boudin フランス語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブーダン」の意味・わかりやすい解説

ブーダン(地質)
ぶーだん
boudin フランス語

硬くてもろい地層と流動性に富む地層との互層にしばしばみられる変形構造の一種で、地層面に平行な引張(ひっぱり)によって前者が引きちぎられ、その間を後者が流動してきて埋めたような形態をなす構造。互層の組合せには、砂岩・泥岩互層や、石英片岩・泥質片岩の互層などがあり、いずれも後者が相対的に流動性に富む。引きちぎられた地層の中には層面に直交する伸張節理がほぼ等間隔に発達するが、角が引きずりによってやや丸みを帯び、断面で見ると連なったソーセージ状を呈するため、この名がある(ブーダンはフランス語でソーセージの意)。腸詰構造、ブーディン、ブーディナージュともいう。

 三次元的にみると、先の伸張節理は褶曲(しゅうきょく)軸と平行なことも多く、広域応力場を反映しているため、構造解析の手段としてしばしば用いられる。相対的に硬い地層がほぼ直交する二方向でブーダンが形成されると、正方形長方形に分かれたブロックが整然と並ぶため、その見かけから「板チョコ構造」とよばれる構造ができる。

[岩松 暉・村田明広]


ブーダン(Eugène Boudin)
ぶーだん
Eugène Boudin
(1824―1898)

フランスの画家オンフルール船員の子として生まれる。20歳のとき、同じノルマンディー地方のル・アーブルで画材店を開き、イザベー、トロワイヨンミレーなど、店に訪れる画家たちの作品を展示するとともに、彼らから助言と励ましを受けた。1850年、市の奨学金を得てパリに出て学ぶが、しばしばノルマンディーに戻り、海や空など自然の様相を直接描いて、そこに自らの真に進むべき道をみいだした。58年、当時17歳のモネと出会い、戸外の制作へと促したことが後の印象派の形成に少なからぬ役割を果たすことになる。波や雲など刻々と変化する自然の情景海辺行楽など、同時代的情景に対する愛好、戸外での制作、自由で慣習にとらわれないスケッチ風の技法など、彼の作品は印象派の先駆けをなすものであった。ドービルで没。

[大森達次]


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改訂新版 世界大百科事典 「ブーダン」の意味・わかりやすい解説

ブーダン
Eugène Boudin
生没年:1824-98

フランスの風景画家。ノルマンディー地方の海辺の町オンフルールHonfleurに船乗りの息子として生まれる。水夫や出版社の事務員として働いたあと,友人と画材店を開き,この地方を訪れる画家たち(トロアイヨンConstan Troyon,イザベーEugène Isabey,クチュールThomas Coutureなど)の作品を飾った。1850年にル・アーブルの芸術家協会の奨学金を得て3年間パリで学ぶが,ほとんど独学であった。彼の好んだのはフランドルやオランダの画家だったが,何よりも自然の風景,とりわけ海と空から直接に多くを学ぶ。58年ル・アーブルでカリカチュアを展示していたモネの才能を発見し,この若者に油彩と戸外制作を教えたことが,後の印象派の形成に決定的な役割を果たすことになる。彼自身も,それまでにフランスにわずかしか存在しなかった〈海景画〉という分野を確立し,海と空の移ろいやすい光の状態を描いた。
執筆者:


ブーダン
boudin

強く変形した変成岩や堆積岩にみられる構造体で,相対的に流動しやすい岩層と流動しにくい岩層との互層(何枚もの重なり)が層状構造に直角に圧縮されて,流動しやすい岩層が層流状に流動したために,流動しにくい岩層が引きちぎられ,短冊型ないしレンズ状の断面を示す不連続体となったものをいう。砂岩とケツ岩の互層の場合には,ケツ岩が流動し砂岩が引きちぎられてブーダンをつくる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブーダン」の意味・わかりやすい解説

ブーダン
Boudin, Eugène

[生]1824.7.12. オンフルール
[没]1898.8.8. ドービル
フランスの風景画家。初め父の書店に勤め,その窓に自作の絵を展示し,J.ミレーに見出されて画家を志した。その他 T.クーテュール,G.クールベ,C.コローらと親交をもった。戸外での制作を尊重して,北フランスの海辺の風景を多く写生し,コローによって「海の画家」と呼ばれた。少年時代のモネは彼に師事しており,印象派の先駆者とされる。 1874年の第1回印象派展に出品,96年レジオン・ドヌール勲章を受章。主要作品『トルビルの海水浴』 (1869,オルセー美術館) ,『ビルフランシュの停泊地』 (96) 。

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世界大百科事典(旧版)内のブーダンの言及

【印象主義】より

…独立した自然をさまざまな様相でとらえたバルビゾン派は,自然観察の側面で印象派に影響を与えた。しかしなんといっても直接に若き彼らを励まし導いたのは,クールベ,ドービニー,ヨンキント,ブーダンらである。クールベはアカデミーと世論に対する戦いぶりで範を示し,また歴史画,神話画,宗教画といった伝統的ジャンルを離れた現代的主題を印象派に教えた。…

【外光派】より

…また明治中期の日本洋画の一派。フランスの場合は二つあり,一つは1850‐60年代にアトリエから戸外へ出て外光のもとで制作しはじめたコローなどバルビゾン派の一部や,ブーダンなどル・アーブル地方の海辺で終始戸外で制作して印象派の先駆となった画家たちである。いま一つは,1880年代以後,印象派が評価をうけてから,従来のアカデミックな描写や表現に印象派風の外光描写をとりいれた折衷画派をさす。…

【モネ】より

…幼いとき一家はル・アーブルに移り,海に親しんで成長する。またカリカチュアを好み,町の名士たちの姿を描いていたところを画家ブーダンに発見され,油彩と戸外制作の手ほどきを受けて風景画家の道を歩むことになる。19歳のとき,親の反対を押し切ってパリに出,グレールM.G.C.Gleyreのアトリエやアカデミー・シュイスに通い,後の印象派のグループと親交を深める。…

※「ブーダン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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