翻訳|hate speech
特定の民族、国籍、出身地などの属性に絡めて「きっと犯罪を起こす」「日本人をおとしめている」などと偏見や憎悪をあおる言動。内面化された差別意識が背景にある。インターネットで広がっており、特定民族の名誉と尊厳を「在日特権」などの差別的デマで傷つける投稿が目立つ。過去の例としては、1923年の関東大震災時に広まった「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言が挙げられる。これをきっかけに、多くの朝鮮人や中国人が虐殺された。
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人種、民族、宗教などの違いに基づき、特定の個人、集団、団体などを、差別的意図をもって攻撃、脅迫、おとしめる言動。「憎悪表現」「差別的表現」ともいわれ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の一種である。一般的な悪口とは異なり、明確な差別的意図に基づく暴言、暴力や差別的行為を助長・扇動する言動をさす。演説、デモ、街頭宣伝のほか、記述、ネット上やメールでの憎悪をあおる行為も含まれる。マイノリティ(少数者)に向けられることが多い。さまざまな定義があり、国連は「宗教、民族、国籍、人種、肌の色、家系、性、その他のアイデンティティの要素に基づき、個人や団体を軽蔑(けいべつ)または差別的な表現で攻撃する言動、記述、ふるまい」と定義し、日本の「ヘイトスピーチ対策法」(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」平成28年法律第68号)は「差別的意識を助長する目的で、公然と生命や身体などに危害を加えると告知したり著しく侮蔑したりするなど、地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」と規定する。
海外ではイギリス、フランス、カナダ、オーストラリアなどが刑法や人権法で規制し、とくにドイツは特定民族への中傷を禁ずる民衆扇動罪を設けている。日本では、2009年(平成21)の在日特権を許さない市民の会(略称、在特会)による京都朝鮮第一初級学校に対するヘイトスピーチをめぐる訴訟以降、社会問題として関心を集めるようになった。日本の刑法・民法の適用には直接的被害者を特定する必要があり、不特定多数を中傷するヘイトスピーチに直接適用するのはむずかしい面があった。このため国連の人種差別撤廃条約(日本は1995年に加盟)や人種差別撤廃委員会は日本に、差別助長につながる活動の禁止や処罰規定導入を求めていた。大阪市が2016年に発言者を公表する規制条例を設け、東京都は2018年に公的施設の利用を制限する条例を定め、川崎市は2019年(令和1)に初めて罰金(最高50万円)を科す条例を制定した。国は2016年に議員立法で、国や自治体に差別解消を求めるヘイトスピーチ対策法を制定したが、罰則や禁止規定は盛り込まなかった。こうした規制の動きに対し、行政や司法による発言内容の審査や処罰は、憲法が保障する言論の自由の侵害であると主張する声もある。
[矢野 武 2021年7月16日]
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