ヘモクロマトーシス(読み)へもくろまとーしす(その他表記)Hemochromatosis

家庭医学館 「ヘモクロマトーシス」の解説

へもくろまとーしす【ヘモクロマトーシス Hemochromatosis】

[どんな病気か]
 肝臓かんぞう)、心臓(しんぞう)、膵臓(すいぞう)などの臓器に鉄が過剰(かじょう)に沈着(ちんちゃく)し、その臓器の機能障害を生じる病気です。沈着した臓器によって、それぞれ肝硬変(かんこうへん)、心筋症(しんきんしょう)、糖尿病がおこります。
[症状]
 三大症状は肝硬変、糖尿病、皮膚の青銅色の着色です。これらは、それぞれ鉄が沈着した臓器の症状です。肝臓では組織の線維化(せんいか)を経て、やがて肝硬変となります。
 うっ血性心不全(けつせいしんふぜん)、不整脈(ふせいみゃく)、手指・膝(ひざ)・腰の関節炎(かんせつえん)、性欲減退(せいよくげんたい)などの症状もみられます。
 肝硬変の20%に肝がんの合併がみられます。最悪の場合、肝不全(かんふぜん)、糖尿病性昏睡(とうにょうびょうせいこんすい)、心不全などで死に至ることもあります。
[原因]
 遺伝性(いでんせい)(原発性(げんぱつせい))のものと、後天性(こうてんせい)(続発性(ぞくはつせい))のものがあります。
 遺伝性のヘモクロマトーシスは、6番染色体(せんしょくたい)にある遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)が原因です。
 後天性ヘモクロマトーシスは、鉄分の過剰摂取(かじょうせっしゅ)や、頻回かつ大量の輸血透析とうせき)時の溶血(ようけつ)によっておこります。
[検査と診断]
 血清鉄(けっせいてつ)とフェリチンが高い値を示すのが特徴です。肝生検(かんせいけん)で採取した肝組織の鉄染色(てつせんしょく)により、肝細胞の鉄沈着を証明することが診断に役立ちます。
 腹部のCTやMRIによる画像診断が肝臓の鉄沈着の判定に役立ちます。
 遺伝性の場合は、遺伝子診断が可能です。
[治療]
 基本は体内から鉄分を除去することです。そのため、瀉血(しゃけつ)(1回に200~500mℓの血液を抜きます)と鉄キレート剤の筋肉注射(きんにくちゅうしゃ)が行なわれます。
 同時に糖尿病、肝硬変の治療も行なわれます。
[日常生活の注意]
 飲酒、特に赤ワインは鉄分が多く、肝硬変の進行を促進するので、避けるようにします。

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内科学 第10版 「ヘモクロマトーシス」の解説

ヘモクロマトーシス(その他の代謝異常)

定義・概念・分類
 体内に鉄が過剰に蓄積する状態を鉄過剰症(iron overload)という.鉄過剰症には,全身に鉄が蓄積して鉄量が増加する絶対的鉄過剰症と,体の局所に鉄が沈着する相対的あるいは局所的鉄過剰症が含まれる.なお,へモジデローシス(hemosiderosis)は,鉄過剰症と同義語として用いられることが多い.
 全身性の鉄過剰症によって臓器の障害が発現する病態をヘモクロマトーシスとよぶ.その際に明らかな基礎疾患がない場合は,特発性ヘモクロマトーシス(idiopathic hemochromatosis)とよぶ.その原因は遺伝的な代謝異常にあることが明らかにされているので,遺伝性へモクロマトーシス(hereditary hemochromatosis)とよばれることの方が多い.
 へモジデローシスは鉄がおもに細網内皮系に沈着した病態であり,ヘモクロマトーシスは鉄が実質細胞に沈着し,種々の臓器障害をきたす病態である.特発性すなわち遺伝性ヘモクロマトーシス以外のへモクロマトーシスは二次性あるいは続発性へモクロマトーシスとよばれる.二次性へモクロマトーシスは,へモジデローシスが重症化するか,ヘモジデローシスに何らかの因子が加わることによって,実質細胞にも鉄の沈着が起こったものである.表13-6-2に鉄過剰症の分類を示す.[高後 裕]
■文献
Bacon BR, Adams PC, et al: Diagnosis and management of hemochromatosis: 2011 practice guideline by the American Association for the Study of Liver Diseases. Hepatology, 54: 328-343, 2011.Adams PC: Hemochromatosis. In: Zakim and Boyer’s Hepatology A Textbook of Liver Disease, 6th ed, pp1127-1144, Elsevier, Philadelphia, 2012.
戸田剛太郎:ヘモクロマトーシス.肝臓病学(井廻道夫,熊田博光,他編).pp350-361,朝倉書店,東京,2006.

ヘモクロマトーシス(全身性代謝疾患に伴う二次性心筋症)

b.ヘモクロマトーシス(hemochromatosis)
 ヘモクロマトーシスでは心筋への鉄の沈着によって左室肥大,拡張,収縮不全を生ずる(図5-13-25).鉄沈着の原因としては,遺伝性鉄代謝異常,肝硬変,繰り返す輸血などがあげられる.[磯部光章]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘモクロマトーシス」の意味・わかりやすい解説

ヘモクロマトーシス
へもくろまとーしす
hemochromatosis

血色素症、血色素沈着症ともよばれ、肝硬変、糖尿病、皮膚色素沈着を三大主徴とする疾患で、鉄代謝異常により体内に多量の鉄が沈着するためにおこる。原因不明の特発性のものは遺伝的素因が関与し、遺伝形式は常染色体顕性遺伝とされており、消化管よりの鉄の吸収が亢進(こうしん)している。続発性のものは多量の鉄の経口摂取、または頻回の輸血などが原因となる。鉄の過剰摂取の原因としては、鉄剤の長期摂取、ぶどう酒の長期多飲、鉄鍋(なべ)使用などがあげられる。鉄の沈着は肝臓、膵臓(すいぞう)、睾丸(こうがん)、心筋、皮膚におもにみられ、肝硬変、糖尿病、睾丸萎縮(いしゅく)、心不全、黒みがかった皮膚の色が生じ、ブロンズ糖尿病とよばれることがある。男性に多く、男女の比は10対1で、男性では40~50歳代、女性では閉経期以後に多い。血清中の鉄が上昇し、不飽和鉄結合能は減少している。確定診断には、肝臓、皮膚、消化管粘膜の生検によってヘモジデリン(血鉄素)の沈着を証明する。治療には瀉血(しゃけつ)および鉄のキレート剤デスフェリオキサミンの投与が行われる。

[高橋善弥太]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘモクロマトーシス」の意味・わかりやすい解説

ヘモクロマトーシス
hemochromatosis

血色素症,血色素沈着症,青銅色糖尿病。全身,特に膵臓,肝臓,皮膚などに鉄が過剰に沈着して,皮膚が青銅色を呈し,肝硬変,糖尿病,心不全,性腺機能低下などを伴う疾患をいう。中年以降の男性に多く,腸からの鉄の吸収が高まる場合 (特発性) と,他の疾患に合併する場合 (2次性) とがある。

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栄養・生化学辞典 「ヘモクロマトーシス」の解説

ヘモクロマトーシス

 血色素症,青銅色糖尿病,ブロンズ糖尿病ともいう.先天性の鉄代謝異常で,鉄が組織に沈着し,血清の鉄含量が増加する疾患.その結果皮膚がブロンズ色にみえる.肝硬変,糖尿病を併発する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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