日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ベッヒャー(Johannes Robert Becher)
べっひゃー
Johannes Robert Becher
(1891―1958)
ドイツの詩人。ミュンヘンの裁判官の家に生まれる。学生時代から詩作を始め、表現主義運動の代表的雑誌『アクチオーン』への寄稿や、詩集『滅亡と勝利』(1914)などによって、市民社会に反抗する若い文学世代の旗手となった。また早くから政治意識に目覚め、第一次世界大戦に反対して、1917年には独立社会民主党に加入し、スパルタクス団を経て19年には共産党員となった。彼の歩みは、ドイツのプロレタリア革命文学の消長と問題性を体現するものであった。ワイマール共和制期には反逆罪で逮捕されたりしながらも、28年に結成されたドイツ・プロレタリア革命作家同盟の中心人物として活躍する。このころの作品に詩集『ぼくらの時代の人間』(1929)や、ソ連の社会主義建設をたたえた叙事詩『偉大な計画』(1931)などがある。ナチス時代にはモスクワに亡命して反ナチス運動に従事するかたわら、自伝小説『別れ』(1940)などを書いた。45年東ドイツに帰り、文化行政面の各種の要職を務め、数多くの詩作品のほかに『詩の擁護』(1952)、『詩の原理』(1957)などの文学論も著した。
[山口知三]
『篠原正英訳『ベッヒャー選集』全10巻(1953・光文社)』▽『高原宏平訳『ぼくらの時代の人間』(1955・創元社)』