日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペスト(カミュの小説)」の意味・わかりやすい解説
ペスト(カミュの小説)
ぺすと
La Peste
フランスの作家アルベール・カミュの長編小説。1947年刊。アルジェリアのオランの町にペストが発生、外部から遮断された孤立状態のなかで、必死に悪と戦う市民の連帯と友愛の姿を年代記風に淡々と描く。病身の妻と引き離されながらも黙々と働き、最後に「人間のなかには軽蔑(けいべつ)すべきものよりも賛美すべきもののほうが多くある」と証言する医師で語り手のリゥー。「観念のために死を賭(か)ける、抽象的なヒロイズム」よりも具体的な「幸福」を求めてペストの町を逃れようとするが、やがて「ひとりで幸福になる」ことに疑問を抱いてリゥーに協力するランベール。かつて政治的殺人を犯した罪障感に悩み、「いい理由からにしろ、悪い理由からにしろ、人を死なせたり死なせることを正当化するいっさいのものを拒否する無垢(むく)の殺人者」たらんとしてリゥーに協力するが、ペストで死んでしまうタルー。作者の対ナチズム戦争体験をアレゴリックに表現し尽くした、第二次世界大戦後フランス小説最大のベストセラー作品。
[西永良成]
『宮崎嶺雄訳『ペスト』(新潮文庫)』