改訂新版 世界大百科事典 「ポリタイプ」の意味・わかりやすい解説
ポリタイプ
polytype
同じ化学組成をもつ物質が異なった原子配列を示す多形の一種で,同じ構成単位をもったものの配列順序のみが異なるものをいう。構成単位は原子の二次元的配列よりなる層状をなすものがほとんどで,それを層の方向に垂直に積み重ねていく際,積層順序の異なる多くの構造をつくる。格子定数は層内の2方向は同じであるが,積層方向は,単位層の整数倍になっている。積層方向の周期は最も長いものでは1500Åに達するものもある。ポリタイプをつくる物質にはSiC,CdI2,ZnSのように簡単な化合物から,天然に産する複雑な層状ケイ酸塩鉱物の雲母,クロンステダイトなどまである。積層順序の違いを表すため,球を最も密に充塡したような簡単な結晶構造をもっているものでは,球の積層順序を表すABCACB…などの記号,同じ積層順序の続く数で表す記号などがある。簡単には積層周期の数とポリタイプの示す結晶系の略号を組み合わせ,6H(H:六方晶系),15R(R:菱面体晶系)のように示す。積層順序の決定にはX線回折による方法が有効である。異なるポリタイプの結晶構造においても,ある原子のまわりの近接した原子の配列は変わらず,その自由エネルギーの差はほとんどない。しかし,一つのポリタイプを他のものに変化させるには,大きな活性化エネルギーを超える必要がある。長周期のポリタイプはらせん転位に基づく結晶成長の過程でできたとする説が一般的である。
執筆者:武田 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報