ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンとともに四大プラスチックの一つ。プロピレンCH3CH=CH2の重合した重合体(ポリマー)で、いまのところいちばん軽いプラスチック(比重0.82~0.92)で、軟化点も高く加工性もよい。代表的な熱可塑性樹脂の一つである。略称はPP。
[垣内 弘]
プロピレンの重合をラジカル開始剤重合やイオン重合でのカチオン重合させると分子量の小さな軟らかいグリース状のものしか得られない。1954年イタリアのミラノ工科大学のG・ナッタは、トリエチルアルミニウムと三塩化チタンの複合固体触媒(ナッタ触媒)を用いて重合させると、分子構造的にはきわめて規則的な整然とした配列をもち、結晶性もよく軟化点170℃のポリマーの生成することをみいだした。この重合法は立体規則性重合という。
[垣内 弘]
ナッタ触媒以外の触媒でも先のようなポリプロピレンをつくることが可能である。ナッタ触媒を用いると立体配置をもったポリマーであるアイソタクチックのポリプロピレンが得られ、一般的な方法で重合させるとアタクチックポリマー、すなわち側鎖Rがまったく不規則に平面の上下に分布している構造のものが得られる。プロピレンをジエチルアルミニウムクロライド‐アニソール‐バナジウムアセチルアセトン複合系触媒を用いて重合させると、立体規則性ポリマーであるシンジオタクチックポリプロピレンが得られる。
[垣内 弘]
日本では年間約264万トン(2002)生産されている(四大プラスチック中では第2位)。機械的性質はポリエチレンより優れているが、酸素の存在下で光あるいは熱によって酸化劣化する欠点があるので、安定剤を必要とする。安価で汎用(はんよう)性に富み、これまでは二軸延伸ポリプロフィルムとしてフィルム分野、フラットヤーンカーペットなどの繊維分野、さらにコンテナ、弱電部品などの射出成形分野での利用が主であったが、現在はゴムおよびフィラー(充填(じゅうてん)剤)との複合物が自動車バンパー、その他の自動車部品、パネルなど、大型工業部品としての利用が広まっている。
[垣内 弘]
『高木謙行・佐々木平三著『プラスチック材料講座 ポリプロピレン樹脂』(1969・日刊工業新聞社)』▽『松本喜代一著『フィルムをつくる』(1993・共立出版)』▽『佐伯康治・尾見信三著『新ポリマー製造プロセス』(1994・工業調査会)』▽『井手文雄著『実用ポリマーアロイ設計』(1996・工業調査会)』▽『日本化学会編、今井淑夫・岩田薫著『高分子構造材料の化学』(1998・朝倉書店)』▽『エドワード・P・ムーア, Jr. 著、保田哲男・佐久間暢訳・監修『ポリプロピレンハンドブック――基礎から用途開発まで』(1998・工業調査会)』▽『小松公栄他著『メタロセン触媒でつくる新ポリマー――新製品の開発・生産性の向上』(1999・工業調査会)』▽『曽我和雄編『メタロセン触媒と次世代ポリマーの展望』(2001・シーエムシー)』
プロピレンの重合によって得られる熱可塑性樹脂。プロピレンの重合体には非晶性(アモルファス)のものと結晶性のものとがあるが,成形品として用いられるのは結晶性のポリプロピレンである。1953年にドイツのK.チーグラーはトリエチルアルミニウム-四塩化チタンAl(C2H5)3-TiCl4(いわゆるチーグラー触媒)を用いてエチレンを重合し,高密度ポリエチレンをつくることに成功した。イタリアのG.ナッタはこのチーグラー触媒の改良研究を進め,54年,トリエチルアルミニウム-三塩化チタンAl(C2H5)3-TiCl3(チーグラー=ナッタ触媒と呼ばれる)によってプロピレンが重合し,結晶性,高融点のポリプロピレンが得られることを発見した。この結晶性ポリプロピレンの発明は高分子における立体規則性重合の端緒となったもので,チーグラーとナッタはともに63年のノーベル化学賞に輝いた。工業化は1957年イタリアのモンテカチーニ社(現,モンテジソン社)で行われた。
プロピレンのようにビニル基CH2=CH-を有するモノマーは,重合すると,立体化学的に側鎖のメチル基が分子鎖に沿って規則正しく配列するものと,そうでないものに分かれる。従来のラジカル重合ではランダムに配向した非晶性のアタクチックポリプロピレンしか得られなかったのが,チーグラー=ナッタ触媒を用いると側鎖のメチル基がつねに一方向に配列した結晶性のアイソタクチックポリプロピレン(イソタクチックポリプロピレン)が得られるのである。なお側鎖が規則正しく交互に配向した結晶性のシンジオタクチックポリプロピレンも合成可能であるが,今日実用化されていない。従来のチーグラー=ナッタ触媒では,アイソタクチックポリプロピレン以外に若干のアタクチックポリプロピレンが副生し,溶媒を用いて除去する必要があったが,その後改良が進み,現在では副生アタクチックポリプロピレンがほとんどなくなり,また触媒量も1/10程度ですむようになったので,ポリプロピレンを無溶剤または気相重合でつくることが可能となった。
成形は押出しまたは射出成形法で行い,成形温度は210~270℃である。剛性,熱変形温度向上のため,ガラス繊維,充てん材などで強化されることもある。
アタクチックポリプロピレンは軟化点が80~90℃であり,接着剤程度にしか用いられなかったが,アイソタクチックポリプロピレンは,融点167℃と耐熱性が高く,成形品として有用である。実際,比重も0.9と最も軽いプラスチックであり,剛性,耐衝撃性,電気特性にすぐれている。ビールコンテナー,自動車用部品,文具,家庭用品,瓶,テレビやラジオのキャビネットなどに広く用いられている。物性上の問題点として耐候性の悪いことがあげられる。0℃以下の低温特性もあまりよくないが,少量のエチレン,ブチレンなどとの共重合によって改良される。ポリプロピレンフィルムはガスバリヤー性(気体を透過させない性質)があり,食品包装用に適しているほか,電気特性もよく,とくに誘電体損が低くコンデンサー用絶縁フィルムに適している。フィルムをスリットして得られる割繊糸,モノフィラメントなどの繊維は,重袋,カーペットの裏地などとして工業用あるいは産業用に用いられる。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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略称PP.プロペンの重合体で次の一般式で表される.
カチオン重合触媒では低分子量のポリマーが,チーグラー-ナッタ触媒では高分子量,高結晶度のイソタクチック重合体が得られる.イソタクチック重合体の分子量は10万~20万で,融点164~170 ℃,密度0.90~0.91 g cm-3.結晶性により性質は大きく支配されるが,イソタクチックの高いポリマーは,引張強さ,衝撃強度にすぐれ,耐熱性,耐屈曲疲労強度や電気的特性もよい.加工性はきわめてよく,射出成形用の汎用樹脂,フィルム,繊維などに広く用いられる.[CAS 9003-07-0]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…自動車の内装,衛生的なことから喫茶店の内装,虫・カビに強いことから防虫網,蚊帳,ろ布,水がしみ通らないのでデッキチェアおよび漁網に使われる。
[ポリプロピレン系]
イタリアのG.ナッタによって1955年に発明されたプロピレンが,立体的に規則正しく重合してできたアイソタクチック・ポリプロピレンを溶融紡糸して作った最も軽い繊維(比重0.91)。おもにマルチ糸に紡糸される。…
※「ポリプロピレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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