新約聖書の一つ。後80年ころにパレスティナまたはシリアのユダヤ人キリスト教徒の間で成立した。イエスの誕生・幼時物語(1~2章)を別にすると,大きな構成は《マルコによる福音書》を踏襲しているが,適宜それをイエスの長大な〈訓話〉(山上の垂訓=5~7章,弟子派遣の訓話=10章,たとえ話集=13章,教会規則=18章など)を挿入して中断している。その結果,物語性よりも,イエスの教説の組織的叙述が特徴となっている。イエスは旧約預言を成就し,モーセ律法に勝る〈義〉を宣言し,要求するメシアとして描かれる。その背後にはキリスト教律法学者(13:52参照)のグループが存在し,著者もその一員であると考えられる。十二弟子の一人のマタイを著者とする古代教会以来の伝統には,あまり信憑性がない。
執筆者:大貫 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…まず,世界の終末の恐怖は,《ヨハネの黙示録》4章による獅子・牛・人・鷲の四つの生物および24人の長老たちに取りかこまれ,御座(みくら)に座すきびしい神の姿(ローマ,サン・パオロ・フオリ・レ・ムーラ教会のモザイクなど)に〈最後の日〉の審判者を象徴させ,その後,中世を通じて行われるが,ことにロマネスク時代にその作例は多く,すぐれた大構図を生んでいる(フランス,モアサックの彫刻,12世紀初め)。また,寓意的作例としては,《マタイによる福音書》25章32~33節の〈羊飼い,羊とヤギとを左右にわかつ〉図(ラベンナ,サンタポリナーレ・ヌオボ教会の一モザイク,6世紀)があり,後に西ヨーロッパで〈審判図〉に伴ってしばしば取り上げられる〈賢き処女と愚かな処女〉(《ロッサーノ福音書》の写本画,6世紀)があるが,しかし,この時代,すでに直接にこの主題を取り扱った〈最後の審判〉図の試みが東方で行われていたことは,コスマス・インディコプレウステスの《キリスト教地誌》(バチカン所蔵写本)の中の一図によってうかがいうる。簡単な構図で,最上段にキリスト,次段に天使群,第3段に使徒群,最下段には小さくよみがえった人々(頭部のみ)が階段式に配列されている。…
…〈山上の説教〉ともいう。《マタイによる福音書》5~7章の通称で,この部分は5章1節と8章1節の状況説明によって,〈山上で〉語られたイエスの説教とされているためこう呼ばれる。この場合,〈山〉は当時のユダヤ教においては,旧約聖書が伝えるシナイ山での律法授与のできごと(《出エジプト記》19章以下)以来,神からの啓示と律法が与えられる聖なる場所と考えられていた。…
…後2世紀以後の呼称で,イエスの言葉と業(わざ)を相互に連関させ,その死にいたるまでを叙述する文書を指す。最古の《マルコによる福音書》は後70年ころ,《マタイによる福音書》と《ルカによる福音書》が80‐90年,《ヨハネによる福音書》が100年ころの成立と考えられる。〈……による福音書〉という語法には,元来一つであるべきイエスの救いの〈福音〉を異なる複数の視点から表現するものという意味が含まれる。…
…1世紀半ばの,イエスの十二弟子の一人として数えられている人物(《マルコによる福音書》3:18,《マタイによる福音書》10:3,《ルカによる福音書》6:15など)。ただし《マタイによる福音書》は彼を〈取税人〉と呼び,さらに《マルコによる福音書》2章14節のレビなる人物と同一視している(9:9)。…
※「マタイによる福音書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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