翻訳|mushroom
本来はキノコを意味する英語であるが、日本では欧米で栽培されてきたセイヨウ(西洋)マツタケ(標準和名ツクリタケAgaricus bisporus (Lange) Sing.)をさして使われる。また、シャンピニヨンchampignonとは、フランス語で菌類またはキノコを意味するが、日本ではマッシュルームと同義に用いられている。
[今関六也]
ツクリタケは、担子菌類、マツタケ目ハラタケ科に属する。傘は初め半球形で白色。普通、傘が開く前に収穫するので、成熟したキノコを見る機会は少ないが、成熟した傘は平たく開き、径10~15センチメートル、白から淡黄褐色を帯び、やや鱗皮(りんぴ)を有する。肉は厚くて白い。ひだは茎に離生し、初め白、しだいに桃色から暗褐色、やがて紫黒色になる。茎は長さ4~8センチメートル、径1~3センチメートル、太くて充実し、上のほうに膜質のつばがある。胞子紋は紫黒色。胞子は7~9マイクロメートル×5~7マイクロメートルの楕円(だえん)形で、担子柄の先端に2個ずつつく。
[今関六也]
マッシュルームは日本のシイタケ、中国・東南アジアのフクロタケとともに、世界の三大栽培キノコの一つ。生産量は第2位のシイタケの数倍に上り、第1位を占める。マッシュルームの栽培は初めフランスで開発されたが、その淵源(えんげん)は17世紀末に始まる。栽培が近代的軌道にのったのは、1890年にフランスの菌学者が純粋培養をした種菌(たねきん)の製造に成功してからである。当初はフランスの独占的事業であったが、ヨーロッパ全土からアメリカに広がってさらに発展し、今日では台湾や韓国でも重要な産業になっている。各国における生産量はアメリカ、フランス、台湾、イギリスと続き、そのほかではオランダ、韓国などが多いといわれる。日本でのマッシュルーム栽培は、大正時代、森本彦三郎によって伝えられた。明治の末に渡米した森本は、10余年間アメリカで栽培技術を学んで帰国し、1922年(大正11)京都市伏見(ふしみ)区桃山に赤れんが造りの菌舎を建てて事業化した。現在、マッシュルームは日本の各地で栽培され、2006年度(平成18)の生産量は2967トンで、岡山県の生産量が1208トンともっとも多い。
元来の栽培法は、馬小屋の厩肥(きゅうひ)を積んで発酵させ、これを栽培用の床(とこ)として種菌を接種するものであった。しかし、第二次世界大戦後の日本では、厩肥の入手が困難となったため、現在では、イネやムギの藁(わら)に硫安、石灰窒素、尿素、過リン酸石灰などを混ぜて積み、発酵熟成させてつくった人工堆肥(たいひ)を用いている。事業的には、温度や湿度が調節できる菌舎を建てたり、地下壕(ちかごう)や土蔵などの利用が進められている。栽培の床は、深さ20センチメートル、畳1枚ほどの木箱の中に堆肥を詰めたもので、これに種菌が植えられる。普通、床は、室内に40センチメートル間隔で棚状に配置される。種菌接種後、約40日で収穫が始まり、2か月ほど発生が続く。栽培品種には、ホワイト、クリーム、ブラウンの3種がある。
[今関六也]
夏から秋が自然の旬(しゅん)だが、栽培により一年中市場に出回る。ごく新鮮なものは生食がいちばん。薄切りにし、レモン汁をかけ、ドレッシングで和(あ)えてサラダにする。切り口が空気に触れると褐変するので、それを防ぐためには、すぐにレモン汁をかけるとよい。ほかにバター炒(いた)め、オムレツやピラフの具、クリーム和えなどにして料理の付け合せに。またミートソース、グラタン、肉の煮込み、スープなど各種の西洋料理に用いられる。中華料理では炒め物、スープなどのほか、マーチャン(ごま味)やナイユー(クリーム味)などの料理によく適する。保存食としては、薄切りの水煮缶詰、まるごとの水煮瓶詰などがあり、市販されている。栄養価はビタミンB1、B2などを含むが、全体的にとくに優れたものではない。
[星川清親]
『中村克哉編『キノコの事典』(1982・朝倉書店)』
キノコを意味する英語だが,日本では西洋料理に使われる白い栽培のツクリタケAgaricus bisporus (J.Lange) Pilátをさす。同様にフランス語のシャンピニョンchampignonも広くキノコを意味するのであるが,日本ではツクリタケのみをシャンピニョンと呼んでいる。ツクリタケは担子菌類ハラタケ科のキノコで,傘は5~10cm,最初球形,のち開いて平らとなる。表面は初め白色,のち淡黄褐色。肉は厚く,白色,空気に触れると淡紅色となる。ひだは茎に離生して密。最初は白色,ついで淡紅色,発育するにつれて褐色から紫褐色となる。茎は長さ4~8cm,径1~3cmで,白色,中実。幼時は基部が膨大するが,生長後は上下同大。白色で膜質のつばをもつ。胞子は広楕円形,大きさ6.5~9μm×4.5~7μm。2胞子型。ヨーロッパで開発された種類で,白色種,褐色種,黄色種などがある。フランス,オランダ,韓国,フィリピン,アメリカなどで盛んに栽培されている。栽培は厩肥(きゆうひ)または人工堆肥(わら100,米ぬか2.5,硫安2.5,過リン酸石灰1,消石灰1の割合で混合堆積し発酵させたもの)を用いて栽培舎内で行う。シロオオハラタケ,ザラエノハラタケなど近縁の野生種があるが,いずれも食用になる。
執筆者:古川 久彦
西洋料理には欠かせぬ材料で,スープの実,バターいため,肉との煮込み,グラタンその他に広く用いられる。生のものと水煮の缶詰とが市販されているが,味は生のほうがよい。傘が丸く,固く締まって弾力のあるものがよく,斑点の出ているものは味が落ちる。
執筆者:橋本 寿子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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「ツクリタケ(作茸)」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ところが今では菌といえば細菌を連想する人が多くなったが,これは誤りである。キノコは英語ではマッシュルームmushroom,フランス語ではシャンピニョンchampignon,ドイツ語ではピルツPilzという。
[食用キノコと毒キノコ]
人類とキノコとのつながりは,食用から始まったといえよう。…
…担子菌類ハラタケ目ハラタケ科の食用キノコ。名にマツタケとついてはいるがマツタケとは縁はなく,いわゆるマッシュルームと同属近縁のキノコである。ブラジルの野生の菌で食用にされているものを同地在住の日本人が持ち帰り,数年前から市販されるに至った。…
※「マッシュルーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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