教育施設を指すアラビア語。メドレッセとも呼ぶ。伝統的にはウラマーを育成するための高等教育施設をいう。初等教育にあたるクッターブ(学校)に対し,しばしば学院と訳される。法学を中心に,コーラン諸学,ハディース学,神学,言語学,古詩学などの教授が中心で,数学,天文学,医学,哲学などイスラムにとっては外来の学問も教授される場合もあり,イスラム世界に広く存在し,小さな町でも一つ以上,大都市では数十から100を超えるマドラサがあった。マドラサは大きなモスクそのものの場合もあり,またモスクの付属施設の場合もあった。授業はモスクの礼拝場でなされるのが普通であったが,場合によってはマドラサとしての特別の施設にモスクが付属することもある。大規模なマドラサになると数十名の教授に俸給を支払い,数百名から千名を超える学生に奨学金と寄宿舎を提供した。それらの財源は主としてワクフで,ワクフ自体は権力者の寄進の場合が少なからずあったが,ワクフの運用やマドラサでの授業内容は政治からある程度自立してなされていた。学生は一つのマドラサだけで勉学するよりは,師を求めて各地のマドラサを遊学するのが常で,ウラマーとして認められるまで10年から20年近くもかかった。イスラム世界に普遍的な制度としてマドラサが誕生するのは11世紀からで,セルジューク朝の宰相ニザーム・アルムルクが建設したニザーミーヤ学院やアイユーブ朝の創始者サラーフ・アッディーンらによる組織的な設立がみられた。
執筆者:後藤 晃
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原義は学問や教育の場,学校。イスラームの宗教諸学を学ぶには,広くその権威を認められた教師に師事しなければならない慣習が確立されていった。マドラサとして,この慣習が財政的に支援されることで,学術教育活動が効果的に促進されることになった。善行とされる寄進(ワクフ)によって財政支援がなされたことからも,伝統に則った効果的な教育活動の範型として,マドラサの創立は11世紀以降イスラーム世界各地に広がった。宿泊機能を伴う専用施設の形態をとることが多いが,モスクなど既存の公共空間を利用する形態も少なくなかった。教育を行う人物の専門分野や,そのときの政治や社会状況から,神学校(イスラーム)や法学校(イスラーム)(イスラーム法学校)などとも呼ばれるが,共通して高等レベルの宗教諸学が教育内容となっている。現代では,おもにアラブ諸国では学校という普通名詞として用いられているが,非アラブ・イスラーム諸国では現代の(世俗的)学校体系と対比して,宗教諸学も扱う伝統的教育の場という意味でこの呼称が用いられるので注意が必要である。
著者: 阿久津正幸
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イスラームの高等教育機関。法学,コーラン学,ハディース学などを教え,ウラマーを養成するイスラーム世界の教育制度の根幹。11世紀頃から各地に広まった。モスクとともにワクフ財源によって維持され,教授の俸給や学生への奨学金が支払われた。大規模なものになると学生も多く,数百からときに1000を超えた。セルジューク朝のニザーミーヤ学院などが有名である。
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…地域により多柱式(陸屋根をピアや柱で支持するアラブ型),4イーワーン式(中庭に面する各辺の中央にボールトを架けた前方開放形式のホール,すなわちイーワーンīwānをそれぞれ設けるイラン型),中央会堂式(大小のドーム,半ドームを大ホールの中心に架構したオスマン・トルコ型)などがある。(2)マドラサ ウラマー育成の高等教育施設で,構造としては,中庭に面した各辺の中央に,教場や礼拝場として使われるイーワーンを設け,その間に階上・階下ともに学生が起居する個室が配置される。(3)修道場(リバートribāṭ,テッケtekke,ハーンカーkhānqā,ザーウィヤzāwiya) 呼称はさまざまであるが,いずれもスーフィー(神秘主義者)が称名などの修行を行う修道場のことで,リバートは,元来は国境地帯につくられた砦をさした。…
※「マドラサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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