改訂新版 世界大百科事典 「マルメロ」の意味・わかりやすい解説
マルメロ
marmelo [ポルトガル]
quince
Cydonia oblonga Miller
バラ科の落葉高木。花は淡紅色,5月上・中旬に新梢の先端に1花ずつ開花する。葉は卵形または長円形で,裏面に細毛を密生する。果実はセイヨウナシ形または円形で,秋に黄色に熟し,果皮には白い細毛が密生する。カリンと類似するが,葉裏および果皮に細毛があり,葉縁に鋸歯がないので簡単に区別できる。イランからトルキスタン地方の原産で,ヨーロッパでの栽培は古く,ギリシア・ローマ時代から行われた。中国へは中央アジアを経て10世紀ころに渡来し,日本へは1634年(寛永11)に初めて長崎に渡来したといわれる。明治以降,欧米からいくつかの品種が導入されているが,現在の栽培品種は果実がセイヨウナシ形になるスミルナが大部分である。長野県諏訪地方はマルメロの特産地だが,この地方では導入されたときからマルメロをカリンと誤称し,現在でもその名称が定着している。果実は果肉が硬いので生食に適さない。ジャム,ゼリー,ようかん,砂糖漬などの菓子原料や果実酒の材料に利用される。乾果はせき止めの薬として利用された。部屋や乗用車内において芳香を楽しむこともある。また盆栽や庭木にも利用する。欧米ではセイヨウナシの矮性(わいせい)台木に利用される。
執筆者:志村 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報