日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マーシャル(Barry J. Marshall)
まーしゃる
Barry J. Marshall
(1951― )
オーストラリアの生理学者。1974年に西オーストラリア大学卒業後、王立パース病院、アメリカのバージニア大学教授を経て、1997年から西オーストラリア大学教授となる。ピロリ菌に関する一連の研究成果により、2005年、ウォーレンとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
従来、胃の中には強い酸があるため細菌類は生息できないと考えられていたが、1979年、王立パース病院の同僚であったウォーレンから、胃潰瘍(いかいよう)の患者の胃の幽門には螺旋(らせん)状の細菌が多数存在すると聞き、二人はこの細菌を培養して調べ始めた。しかしその細菌は他の細菌に比べて増殖速度が遅いことに気づかず、うまく増殖させられなかった。たまたま復活祭の休暇で数日間放置したところ、増殖してコロニーを形成しているのを発見した。
二人はこの細菌を「胃の幽門にいる螺旋状の細菌」という意味の「ヘリコバクター・ピロリ」と名づけ、胃潰瘍はこの細菌が発症させるものと予測した。1984年に、それを実証するために自らピロリ菌を飲んだところ、急性の胃炎になり、胃炎組織の中にピロリ菌が生息していることを証明した。この発見によって胃潰瘍、胃炎、胃癌(いがん)の原因はピロリ菌の感染であることがわかり、治療と予防に画期的な成果をもたらした。
[馬場錬成]