ミトコンドリア(その他表記)mitochondria

翻訳|mitochondria

デジタル大辞泉 「ミトコンドリア」の意味・読み・例文・類語

ミトコンドリア(mitochondria)

《ギリシャ語で、糸と粒の意の合成語》すべての真核生物の細胞質中に存在する、糸状または顆粒かりゅう状の細胞小器官。内外二重の膜に包まれ、内部にクリスタとよばれるひだ状突起がある。呼吸およびエネルギー生成の場で、電子伝達系トリカルボン酸回路などに関与する酵素群をもち、一連の反応によりATP(アデノシン三燐酸りんさん)の合成を行う。細胞の核とは別にDNA(デオキシリボ核酸)をもち、独自に分裂によって増殖する。糸粒体。糸状体。コンドリオソーム
[類語]細胞細胞膜細胞壁細胞質原形質単細胞核酸リボ核酸デオキシリボ核酸遺伝子染色体性染色体組織胚珠胚乳胚芽

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共同通信ニュース用語解説 「ミトコンドリア」の解説

ミトコンドリア

細胞内にある小さな器官の一種で、細胞の働きに必要なエネルギーを作る。細胞の核には両親から受け継ぐDNAがあるが、ミトコンドリアは母親だけから受け継ぐ独自のDNAを持つ。科学捜査のほか、古い人骨から採取されたミトコンドリアDNAは人類の起源などの研究対象にもなっている。

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精選版 日本国語大辞典 「ミトコンドリア」の意味・読み・例文・類語

ミトコンドリア

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] mitochondria ) 生物のほとんどすべての細胞質中に存在する糸状に並んだ顆粒状構造の細胞小器官。蛋白質とリン脂質が主成分。細胞内代謝に重要な役割を果たしている。糸状体。糸粒体。コンドリオソーム。プラストゾーム。〔癌(1955)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「ミトコンドリア」の意味・わかりやすい解説

ミトコンドリア
mitochondria

真核細胞の代表的な細胞小器官。単数形はmitochondrion。肝細胞では約2500,植物細胞では100~200あり,その数は呼吸の代謝レベルを反映している。形はその名がmito(糸),chondria(粒)を意味するように一般的には幅0.5μm,長さ1~数μmの桿状で,時として分枝したり,椀状のものが出現するが,同じ種の細胞に関しては,比較的定形である。高濃度にタンパク質,リン脂質が含まれるので周囲の細胞質より屈折率が高く,生細胞でも位相差顕微鏡で観察できる。またヤヌス緑Bで特異的に染色されるほか,チトクロムオキシダーゼに対するナジNadi反応や,コハク酸デヒドロゲナーゼに対するテトラゾリウム塩還元反応を利用して組織化学的に染色して検出することができる。

 電子顕微鏡による観察から,厚さ50Åの内外二重の膜系からできており,なめらかな外膜がミトコンドリアを包み,内膜は内部に向かって棚状構造(クリスタ)を形づくっていることがわかる。外膜は細胞質の小胞体膜と脂質の交換をしており,酵素群の分布が小胞体膜と似ている。これに対して内膜はミトコンドリア固有のものであり,電子伝達系因子を結合し,ATPを合成する構造として多くのF1因子が内側から基質(マトリックス)へ突出している。内膜の内外には電子伝達系の働きでつくられたH⁺の濃度こう配があって,このポテンシャルエネルギーによってADPと無機リン酸とからATPが合成される。内膜に囲まれた基質には可溶性酵素からなるクエン酸回路TCA回路)の働き,脂肪酸のβ酸化にかかわる諸酵素が含まれている。ミトコンドリアは各種の細胞質成分に対して能動輸送を行っており,例えば選択的にK⁺,Ca2⁺,PO43⁻などのイオンを蓄積し,ADP/ATP,NAD/NADHなどの補酵素,さらに細胞質の酵素とミトコンドリア酵素は膜によって局在性が保たれ,膜系の内外で互いに調節しあっている。なおミトコンドリア膜を透過可能なのは,α-グリセロリン酸ジヒドロキシアセトンリン酸ピルビン酸,リンゴ酸,クエン酸,アスパラギン酸,グルタミン酸で,透過不可能物質としては長鎖脂肪酸,マロニルCoAアセチルCoAオキサロ酢酸,ATP,ADP,NAD⁺,NADH,α-ケトグルタル酸などが知られている。

 ミトコンドリアはかなりの独立性をもった細胞小器官であって,細胞の成長,分裂に伴って自らも分裂増殖する。ミトコンドリアが自己増殖系であることは電子顕微鏡による動植物細胞の観察によって示唆されていたが,ミトコンドリアDNAの存在が明らかになり,ミトコンドリア遺伝子の情報発現,ミトコンドリアのタンパク質合成が知られるようになって広く認められるようになった。1963年にナスS.Nassらによってニワトリ胚の細胞のミトコンドリア内に糸状のDNAが存在することが電子顕微鏡による形態観察と組織化学的手法で証明され,1964年にはラックD.J.L.LuckとライヒE.Reichにより,アカパンカビのミトコンドリアに核のものとは比重を異にするDNAが存在し,DNAポリメラーゼ活性もあることが報告された。現在,多くの動物細胞のミトコンドリアから長さ5μmほどの環状DNA分子が分離されている。ヒトのミトコンドリアDNAは1万6569塩基からなり,そのすべての塩基配列が決定されている。その結果,ミトコンドリアのリボソームを構成する大小のRNAの遺伝子,ミトコンドリアの22種のtRNA遺伝子,タンパク質の遺伝子としてチトクロムb,チトクロム酸化酵素の一部,ATPアーゼの一部の遺伝子が位置すること,そのほか未知のタンパク質因子の遺伝子が少なくとも6個存在していることなどが明らかになった。このような遺伝子はどの生物種のミトコンドリアにもほとんど共通にみられるもので,ミトコンドリアが生物種を超えて同じ構造と機能をもっていることと関連づけられている。そこで,ミトコンドリアは真核細胞の誕生に際して,Paracoccusのような好気性細菌が細胞内に共生して細胞小器官になったとする説が出されている。それを支持する根拠としては,ミトコンドリア内のタンパク質合成系が,ミトコンドリアの小さなリボソーム上で行われ,細菌のタンパク質合成を阻害する抗生物質クロラムフェニコールやストレプトマイシンに感受性があるなど真核細胞細胞質の大きなリボソーム上で行われるタンパク質合成と異なっていること,また一部のアミノ酸に対する遺伝情報のコドンがミトコンドリアのDNAと核DNAとで違った組合せのものを使っていることなどである。しかしミトコンドリアが自己増殖系としては全く不完全で,核遺伝子に大部分を依存している点の説明がついていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミトコンドリア」の意味・わかりやすい解説

ミトコンドリア
みとこんどりあ
mitochondria

すべての真核細胞に存在する固有の細胞小器官。この語はドイツの細胞学者ベンダC. Benda(1857―1933)の命名によるもので、ギリシア語の糸mitosと粒chondrosを意味する語の複合語の複数形である。このため、糸粒体とよぶこともある。生きた細胞のミトコンドリアは、ヤヌス緑Bの50万分の1希釈液で青緑色に染色される。培養細胞を位相差顕微鏡で観察すると、ミトコンドリアの動きや形の変化がわかる。細菌類ではメソゾームがミトコンドリアにあたると考えられる。ミトコンドリアは直径0.5マイクロメートル、長さ2~3マイクロメートルの大きさのものが多い。電子顕微鏡で見ると、内外二重の膜に包まれた袋で、内膜から内方へ向かってクリスタとよばれるひだ状の隆起が櫛(くし)の歯のように突き出ている。クリスタとクリスタの間の部分はミトコンドリアの基質で、均質な物質からなる。基質に存在するクエン酸回路(クレブス回路)により得られた水素は、プロトン(H+)と電子(e-)に分かれ、続いて内膜に存在する電子伝達系により得られたエネルギーが、酸化的リン酸化の機構により、アデノシン二リン酸(ADP)からアデノシン三リン酸(ATP)を生成させる。生命活動に必要なエネルギー源としてのATPを供給する細胞の発電所として、ミトコンドリアはきわめてたいせつな細胞小器官である。そのほか、ミトコンドリアには二価陽イオンの取り込みと蓄積、冬眠動物に多い褐色脂肪からの熱発生、脂肪酸のベータ酸化および精巣、卵巣、副腎(ふくじん)のステロイドホルモン合成などの働きがある。ステロイド産生細胞のミトコンドリアは、管状ないし小胞状のクリスタをもっている。

 ミトコンドリアは、核とは別に独自のDNA-RNA系をもち、構造タンパクを合成し、自己増殖能がある。すなわち、ミトコンドリアは生物の進化の初期に一種の微生物(細菌のような原核細胞)として他の細胞に入り込み、共生関係を生じたという仮説がある。

[小林靖夫]


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百科事典マイペディア 「ミトコンドリア」の意味・わかりやすい解説

ミトコンドリア

コンドリオソーム,糸粒体とも。真核生物細胞質内に広くみられる細胞小器官で,呼吸およびエネルギー生成を担う。大きさは普通0.5〜2μm,棒状〜球状,内外2層の膜と基質からなり,内膜は柵状に内側に突き出しクリスタを構成する。内膜はミトコンドリア固有のもので,ここに電子伝達系に関与する酵素群があり,ATP合成の場となっている。主成分はタンパク質,脂肪など。独自のDNAとタンパク質合成系をもち,真核細胞の進化の過程で,もともとは好気性菌であったものが細胞内で共生するようになってミトコンドリアが形成されたという説が有力である。
→関連項目クエン酸回路

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミトコンドリア」の意味・わかりやすい解説

ミトコンドリア
mitochondria

すべての真核細胞に多数存在する細胞器官。コンドリオソーム,糸粒体とも呼ばれた。糸状,粒状,ラケット状など,長さ 1~2μmの小体で,細胞の呼吸機能を担う重要な顆粒。有気的条件下ではヤヌスグリーンBで青色に生体染色されるが,無気的条件下では染色されないか,あるいは還元脱色される。電子顕微鏡的には表面は二重,厚さ約 4nmの単位膜で包まれ,内膜が内部の基質内に突出して多数のクリステ (櫛状構造。多くは動物細胞) やビライ (小毛構造。多くは植物細胞) を呈する。基質にはクエン酸回路や脂肪酸代謝に関与する酵素が存在し,また膜系には有気呼吸に必要な電子伝達系が局在し,細胞内呼吸すなわち細胞内エネルギー獲得の役割を果たしている。少量のデオキシリボ核酸 DNAも存在し,自己増殖能を有し,一部分の蛋白質はこれに基づいて合成されるが,ほかの多くの蛋白成分は核DNAの遺伝情報に支配される。進化的起源については,古く進化途上で,一部の小型の好気的原核細胞が,ほかの原核細胞内にもぐり込んでミトコンドリアに変化したという共生説 (寄生説) が有力視される。

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化学辞典 第2版 「ミトコンドリア」の解説

ミトコンドリア
ミトコンドリア
mitochondrion(単数形), mitochondria(複数形)

動物および植物細胞,微生物など好気的細胞に存在する微小(0.5~10 μm)な顆粒状の小器官.その大きさ,形は細胞や組織によって異なっているが,基本的には内外2層の膜と,それに囲まれた部分よりなる.ミトコンドリアの機能は有機物質の酸素による酸化(呼吸)のうち,トリカルボン酸サイクル,脂肪酸のβ酸化系および電子伝達系が内在し,また呼吸と共役する酸化的リン酸化反応系によってエネルギーを獲得する重要な機能を担っている.細胞内でミトコンドリアは頻繁に融合と分裂を繰り返している.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

知恵蔵 「ミトコンドリア」の解説

ミトコンドリア

細胞のエネルギー代謝の中心をなす細胞小器官。長さ数nm(ナノメートル)の細長い二重膜の袋で、内膜はひだ状に折れ込んでクリステという突出部をもつ。クリステ上に並ぶ酵素群の働きで、糖分子の酸化エネルギーを用いてATPを生産する。1細胞当たり100〜200個あるが、肝細胞では2000個を超える。独自のDNAと遺伝暗号をもち、原始真核細胞内に共生的に寄生した好気性細菌が起源と考えられている。核の支配を受けず、卵の細胞質を通じて子孫に伝わるため、その塩基配列を比較して、母系の遺伝系列をたどることができる。この方法で人類の起源をたどった結果、行きついた20万年前の仮想の先祖女性は、ミトコンドリア・イブと呼ばれている。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「ミトコンドリア」の解説

ミトコンドリア

 細胞内の小器官で,酸化的リン酸化の主たる場で,細胞のATP合成にあずかる.その他,肝臓のミトコンドリアには尿素サイクル酵素の一部があり,副腎皮質のミトコンドリアにはステロイドホルモン合成酵素の一部が存在して,ホルモン合成の代謝経路の一部を担っている.進化の過程で,共生した微生物が残ったものとの仮説がある.独自のDNAをもち,増殖する.通常複数形のミトコンドリア(mitochondria)が使われる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のミトコンドリアの言及

【細胞】より

…また,真核細胞の著しい特徴は,細胞質の各種代謝機能が細胞質の部分構造と結びついて細胞小器官となり,分業化によって効率的に行われていることである。細胞小器官としてミトコンドリア,小胞体膜系と各種小胞ゴルジ体などがあり,植物細胞には葉緑体色素体,また,しばしば大きな液胞が発達していることなどは,原核細胞との大きな相違である。この相違は,真核細胞の起源を問題にするとき,説明されなければならない。…

【酸化的リン酸化(酸化的燐酸化)】より

…ブドウ糖1分子の完全酸化に伴って生成するATPの90%以上は酸化的リン酸化によって得られるものであり,この過程は生物のエネルギー代謝においてきわめて重要である。酸化的リン酸化の反応系はミトコンドリア内膜(細菌では細胞膜)に存在する。酸化還元のエネルギーをATP合成のエネルギーに変換する反応の機構は長い間のなぞであった。…

【腺】より

…細胞質の基底部に縦に多数の線条がみられるところから線条部と呼ばれる。電子顕微鏡で見ると,線条部の細胞では基底陥入がよく発達し,その間に多数のミトコンドリアが縦に配列している。線条はこのために生ずるものである。…

【DNA】より

…この構造はさらに複雑に折りたたまれて,いわゆる染色糸を形成するが,高次の折りたたまれ方はまだ十分に解明されてはいない。真核生物細胞には,核外にもミトコンドリア葉緑体中に小さな環状DNAが存在する。また細菌のDNA中には,IS(insertion sequence,挿入断片)や二つのISで挟まれたトランスポゾンtransposonという特殊な塩基配列があって,これらは低頻度でDNAの上を飛び移り,挿入や欠失などの突然変異を起こしている。…

【電子伝達系】より

…生体酸化還元反応における電子の移動が,一定の順序で電子の受け渡し(電子伝達)を行う一連の酸化還元酵素を経由して進行するとき,その酵素系を電子伝達系と呼ぶ。真核細胞のミトコンドリアや細菌の細胞膜に存在して呼吸に関与するもの(呼吸鎖)は,その代表例である。葉緑体や光合成細菌に存在し,光合成の過程に関与するものとともに,これらはいずれもATP合成系,すなわち生物のエネルギー獲得反応系の一部を構成している。…

※「ミトコンドリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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