改訂新版 世界大百科事典 「メタリン(燐)酸」の意味・わかりやすい解説
メタリン(燐)酸 (メタりんさん)
metaphosphoric acid
化学式(HPO3)n。その形状から,ガラス状リン酸,氷状リン酸とも呼ばれる。微生物,昆虫類などに存在し,細胞中での核酸合成に必要なリンを供給していると考えられている。n=3,4のものが最も重要で,三メタリン酸,四メタリン酸などと俗称されるが,正しくはcyclo-三リン酸,cyclo-四リン酸という。すなわちPO43⁻の縮合のしかたが環状となっているのである。n=5,6,7などのものも分離されている。
ふつう無色ガラス状物質で,比重2.2~2.5。水に溶ける。エチルアルコール,アセトン,無水酢酸などにも可溶。これをメタリン酸Ⅰと呼ぶ。メタリン酸Ⅰを加熱すると加熱温度によって,それぞれメタリン酸Ⅱ,Ⅲ,Ⅳと呼ばれるものとなる。水溶液中では加水分解してオルトリン酸となり,この反応は加熱するか強酸の存在で促進される。硝酸銀によって白色のメタリン酸銀を沈殿する。
(1)オルトリン酸またはピロリン酸を加熱脱水する,(2)五酸化二リンを熱しながらオルトリン酸に溶解する,(3)リン酸二水素アンモニウムを熱分解する,などの方法でつくられる。いずれも種々の重合度の混合物として得られる。
メタリン酸塩
Na⁺,K⁺,NH4⁺等を含むオルトリン酸二水素塩を加熱脱水してそれぞれの塩が得られる。また,メタリン酸水溶液に陽イオンを加えれば生成する場合もある(Ca2⁺,Ag⁺,Pb2⁺,Mn2⁺等)。メタリン酸ナトリウム(NaPO3)nはリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の脱水縮合によって生成するが,反応温度,加熱時間,冷却速度などによって種々の形態のものが得られている。400℃以下ではマドレル塩Maddrell's saltと呼ばれる難溶性塩が得られる。ピロリン酸二水素塩Na2H2P2O7を経て500℃程度にまで熱するとcyclo-三リン酸ナトリウムNa3(PO3)3が生成する。無色の固体で,融点627.6℃,比重2.476,屈折率1.478。溶解度21g/100g(水)。水に溶かして結晶化すると6水和物が得られる。溶融してから急冷するとガラス状のメタリン酸ナトリウムとなる。これはグレアム塩Graham's saltと呼ばれ,重合した無限鎖高分子構造をもつ。同様な無限鎖構造はメタリン酸カリウムにおいてもみられる。吸湿性で水に易溶。水溶液はCa2⁺などと錯イオンを生成してイオン活性を封ずるので,工業用硬水軟化剤,助染剤などとして用いられる。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報