メリヤス
各種の編物機械によってつくられる編地をいうが,最近はニットknitという語を用いることが多い。名称は靴下という意味のスペイン語のメディアスmediasあるいはポルトガル語のメイアスmeiasからきたものとされている。日本へは16世紀後半から17世紀後半にかけて伝来した。ポルトガル,スペインからの輸入品の中に編物の靴下があったことから編物一般をメリヤスというようになった。江戸時代中期になるとメリヤスについての記録が多く,女利夜須,女利安,莫大小などと書きあらわされ,手おおいや足袋として使用されていた。これらは綿糸,絹糸,毛糸が用いられていた。
メリヤス工業は1589年手編物の栄えていたイギリスで牧師のW.リーがひげ針を用いた手回しの靴下編機を発明したことに始まる。1分間に600編目をつくることができ,そのころの手編の約6倍の編成能率であった。1775年にはイギリス人E.クレーンが経編機を発明,1849年にはイギリス人M.タウンゼンドがべら針を発明した。ひげ針を改良してつくられたべら針は今日でもメリヤス機械の80%を占めている。日本では1871年に西村勝三が機械を輸入して築地にメリヤス工場を設けたのがメリヤス産業の始まりである。その後,日清,日露戦争とともにメリヤス産業は軍需品としての靴下,手袋,シャツの生産へと発展した。大正時代には綿靴下,軍用手袋,裏毛上下肌着を中心に一般衣料品もつくられるようになり発展した。第2次世界大戦後ナイロン,アクリル,エステルなどの新しい合成繊維の発明と,編機の進歩とによって,メリヤス産業は急速な発展をとげ,編機は自動化,高速化,多様化,高品質化,エレクトロニクス化し,今日にいたっている。
メリヤス編地を構造別に大別すると,経(たて)メリヤスと緯(よこ)メリヤスの2種となる。緯メリヤス(横編,丸編)は編針に対し垂直に糸を供給し,つくられる編目を縦方向につなぎ合わせて編地が形成されている。糸の給糸方向の編目をコースcourseといい,針の植えられた垂直方向の編目をウェールwaleという。これは編目密度の単位とされている。編目組織としては平編,ゴム編,パール編があり,総称して3原組織という。これらの組織を応用して各種の変化組織(タック編,浮き編,添糸編,裏毛メリヤス,パイル,ペレリン編)があり,またゴム編組織の変化組織として両面編がある。経メリヤス編は,編針に対して平行の方向から多数の糸を供給し,一列を同時に編針に巻きつけるようにして編目をつくる。トリコット組織,ラッセル組織,ミラニーズ組織がある。経メリヤスの構造は開き目Ω,閉目,の2種がある。メリヤス地はループの連鎖でできる布地なので外力により容易にその力の方向に伸び,またもとにもどる伸縮性が大であり,多孔性で通気性に富む。編目の繊維構造によって柔軟性にも富む。ループの連鎖により構成されているため,織地のように裁断,縫製のみで製品がつくられるのでなく,編地の幅を変えたり,好みの場所へ接続させることができる。これはニット編機のファイン・ゲージ機の開発により織地と同じように軽量布が生産できるようになったためである。
→編物
執筆者:城川 美枝子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
メリヤス
めりやす
medias スペイン語
織物が経緯(たてよこ)の直線の糸でつくられているのに対し、メリヤス(ニット、編物ともいう)は、糸の屈曲による編目(ループ)の集合によって布状をなすものをいう。編目の構造からみて、横方向へ編成するもの(緯(よこ)メリヤス)と、整経して隣どうしの経糸(たていと)と編目をつくるもの(経(たて)メリヤス)とに分類される。手編といわれる編棒でつくるメリヤスは、すべて緯メリヤスである。
メリヤスの起源は非常に古く、エジプト・コプト織にもみられるが、機械でつくられるようになったのは1589年、ウィリアム・リーWilliam Leeが靴下編機を考案したのに始まる。これは手織(ており)機のように足踏みで動かし、手で編み上げる仕掛けで、現在の家庭編機の原型ともいえる。日本に伝来したのは江戸初期、ポルトガル人やオランダ人が来日したときに持ち込んだものが伝えられた。メリヤスという語はスペイン語のメディアスmedias(靴下の意味)がなまったものといわれる。日本では「莫大小」と書いてメリヤスと読み、意味は、大小なし、すなわちぴたりとフィットすることから出たことばである。最近はニットということばがメリヤス全製品に使われている。
現在はメリヤスに都合のよい糸として、綿糸、毛糸、絹糸、化繊糸など、なんでも使われるが、一般に柔らかくふっくらして弾力ある糸が要求される。編機の編針には、ヒゲ針とベラ針の2種類あるが、現在の編機はほとんどベラ針である。ベラ針による編成順序を示すと、次のようになる。〔1〕針が上にあげられベラが開き、これに糸を補給する。〔2〕針が下に下げられるために、ループが上方に滑ってベラを閉じる。〔3〕針がさらに下げられてループを抜け出し、新しい編目を完成する。そして〔1〕のように針の上昇が始まり、次の糸が補給される。メリヤスのおもな用途をあげると、靴下類、肌着類、上着類、手袋類、帽子類その他となり、身の回りのほとんどに使われている。
[並木 覚]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
メリヤス
knit fabric; knitwear
莫大小,目利安などの字をあてる。ジャージー,トリコットなどを含めた機械編み布地の総称。名称は江戸時代初期に靴下をさすスペイン語の medias,ポルトガル語の meiasが転訛したもの。編糸のループで連続的に編成され,伸縮自在なことを特徴とする。緯 (よこ) メリヤスと経 (たて) メリヤスに二大分類され,さらに編針,編機,編方の変化と組合せにより,各種の編地がある。 (1) 緯メリヤス 編針の数に関係なく,1本の糸の横方向ループで編成された編地。手編の棒針編の組織にあたる。平編,ゴム編,パール編 (ガータ編) の3原組織を基礎に,各種変化の模様編がある。ジャージーもこれに類し,従来の緯編に織物の性質を加えた複合組織である。伸縮性が大きい,成形可能,柄物に適する,乱 (らん) が生じやすい,準備工程が簡易などの特徴がある。 (2) 経メリヤス 編針数と同数か倍数の各糸で縦方向にループを編成したもの。主として,トリコット,ミラニーズ,ラッセル各機械の基礎編地による。トリコットはプレーン編,アトラス編,コード編を原組織として,筬 (おさ) の数と運動の変化により各種変化組織を編成する。伸縮性が小さい,伸縮に方向性がある,乱は生じにくい,細糸で極薄編地が可能,成形不可能で裁断縫製を要するなどの特徴がある。設備に経費を要するが,量産に適し,コストは低くてすむ。
メリヤス
日本音楽の用語。 (1) 長唄の一分類 歌舞伎の舞台で俳優の色模様,髪すき,愁嘆などの演技に合せて,その抒情的な効果をあげるために黒御簾 (くろみす) の中 (下座) で独吟で演奏される短い長唄曲。三下りの曲が大部分であるが,本調子,二上りの曲もある。代表曲『黒髪』『明の鐘』『五大力』。 (2) 義太夫節の旋律名 長めの詞や立回りなどの動作に合せてあしらう三味線の旋律のこと。短い手の繰返しである場合とまとまった型として特定の名称をもつものがあり,舞台に情趣を添える。床で,あるいは陰で演奏され,胡弓や箏などが用いられることもある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
メリヤス
機械編みによる編物および編地。ニットとも。日本には16世紀後半から17世紀後半に伝えられ,莫大小,女利安などの字が当てられた。緯(よこ)メリヤスと経(たて)メリヤスがあり,一般に伸縮性がよい。緯メリヤスは1本の糸で1段ずつ横方向に編んだもので,平編み,ゴム編み,パール編みなどがあり,靴下,下着類などに用いる。経メリヤスは多数の経糸をからみ合わせて縦方向に編んだもので,トリコット,ラッシェル,ミラニーズなどがあり,服地,手袋などに用いる。
→関連項目編物|ジャージー|繊維工業|メリヤス編機|羊毛工業
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メリヤス
メリヤス
knitted fabric, medias
綿糸・毛糸などをループ状の編み目の集合により,より伸縮するように編み,表と裏と編み目が異なる織物.莫大小,目利安,女利安などと書かれる.メリヤス織は,下着,セーター,靴下などのニット製品に一般的に利用されている織り方である.商業的に,メリヤスは下着に,ニットはセーターに,ジャージは外衣に使われている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
世界大百科事典(旧版)内のメリヤスの言及
【編物】より
…4~5世紀前後のエジプト,コプト時代の遺跡からは指先の分かれた編みソックスや人形の帽子などが発見されている。これらはすべてメリヤス編である。中世以降はアラブがエジプト征服により技術を高め,8世紀には刺繡や編みの技術をイスラム文化とともに西欧に伝えたといわれる。…
※「メリヤス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」