メルトスルー(読み)めるとするー(その他表記)meltthrough

知恵蔵 「メルトスルー」の解説

メルトスルー

メルトダウン炉心溶融とも呼ばれる原子炉の重大事故の一つ。冷却系統の故障により炉心の温度が異常に上昇し、核燃料が融解すること。燃料大部分溶融し、圧力容器の底に溜まった状態をメルトダウンとし、高温により圧力容器の底が溶かされて燃料が容器の底を突きぬけることをメルトスルー(溶融貫通)と呼ぶ。メルトダウンを起こした例として、1966年のエンリコ・フェルミ炉事故(高速増殖炉・米国)や、79年のスリーマイル島原子力発電所事故(米国)、さらにメルトスルーに進んだ例としては86年のチェルノブイリ原子力発電所事故(旧ソ連)、そして2011年の福島第一原子力発電所事故などがある。
原子炉では、核燃料を融点の高い合金で被覆した燃料棒を多数並べ、一定の割合で安定して核分裂反応が進む臨界状態に置いて熱を生み出す。この熱で冷却材を加熱し、発生した蒸気タービンを回して発電機を動かす。原子炉の運転中に、この冷却材もしくは冷却材を液体に戻すための2次冷却水などの系統に何らかの問題が発生して、その機能が失われたり、炉心の出力が異常に上昇したりすると炉心が過熱する。この状態が続くと、やがて燃料棒が溶け落ちるなどして、重大な事故を引き起こす。制御棒などによって原子炉を停止させても、あるいは使用済みの核燃料であっても、放射性崩壊による熱によって、かなりの期間、高熱を発生しているので、冷却されなければ同様の事故につながる。
さらにメルトダウンが進み、核燃料が溶け落ちると、高熱により圧力容器や格納容器の壁を溶かして貫通して放射性物質が外に溢れ出すメルトスルー、俗にいうチャイナシンドロームの状態を引き起こす。また、溶融した核燃料によって格納容器の水が急激に沸騰し、水蒸気爆発を起こして放射性物質が大気中に飛散する。さらには、溶融した核燃料が容器の底部に集まるなどし、再臨界により暴走して核爆発に至る。いずれの事態であっても、環境中に重大な核汚染を招くことになる。
福島第一原子力発電所事故においても、地震と津波によって冷却系統の電源が失われ、冷却装置の配管が損傷するなどしてメルトダウンが起きた。核燃料は圧力容器を突き抜け、格納容器にも穴があくメルトスルーにまで至ったとみられる。この結果、周辺の土壌や海域に大量の放射性物質をまき散らし、暫定評価は最悪のレベル7という深刻な事故となった。メルトダウンは原子炉の状態を学術的に定義する用語ではなく、一般には、燃料の被覆管が損傷する炉心損傷や、燃料ペレットの溶融などを含むものと考えられる。原子力専門家らは、東京電力や原子力・安全保安院がこれらを切り離して呼び分けることで、被害状況を意図的に小さく見せようとしていたと批判している。

(金谷俊秀  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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