モデルビルディング(英語表記)model building

改訂新版 世界大百科事典 「モデルビルディング」の意味・わかりやすい解説

モデル・ビルディング
model building

経済システムの計量モデルを作ること。経済理論は,経済システムを連立方程式体系として記述する。たとえば国民所得,利子率,政府支出,貨幣供給量をそれぞれYrGMとし,消費関数投資関数,貨幣需要関数をそれぞれCY),Ir),LrY)で表すとき,ケインズ理論ではYCY)+Ir)+GMLrY)の連立方程式の解として国民所得,利子率が決まると考えられている。経済理論のこのような記述は定性的なものにすぎない。たとえば,上記のケインズ理論ではI′(r)<0といえるだけで,利子率が1%上昇したとき投資がどれだけ減少するかを示すことができない。この弱点を補うため,現実の統計データから計量経済学的手法を用いて経済理論の想定する連立方程式の各式の具体的な形を推計し,連立方程式を実際に(コンピューターを使って)解いたものがモデル(計量モデル)である。モデルを作ることによって定量的に経済問題を考えることができる。たとえば,国民所得を10兆円増加させるには財政支出を何兆円増加させればよいか,といった問題に答を与えることができる。また相反する二つの効果の存在のため明確な結論が経済理論では出せない場合でも,モデルを作ることによって二つの効果の実際の大きさを比較して明確な結論を出すことができる。現在,マクロモデルを中心に多くのモデルが作られている。マクロモデルの先駆としては,L.R.クラインが1950年に作ったモデルおよびゴールドバーガーArthur Stanley Goldberger(1930- )とクラインが協力して作ったクライン=ゴールドバーガー・モデル(1955)がある。日本の代表的なマクロ計量モデルとしては,経済企画庁経済研究所(現,内閣府経済社会総合研究所)の〈世界モデル〉の中の〈日本モデル〉があげられる。また,アメリカの代表的なマクロ計量モデルとしては,ペンシルベニア大学のワートン・スクールでL.R.クラインなどが中心となって作った〈ワートン・スクール・モデル〉やマサチューセッツ工科大学,ペンシルベニア大学などで作った〈MPSモデル〉がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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