翻訳|Eurasia
アジアとヨーロッパを含む大陸。地球上最大の陸域であり,全陸地面積の約2/5を占め,人口も世界の約3/4を有する。ユーラシアは本来,大地形(地質)区分名であり,地形学的には太平洋側の列島群を除いた大陸地域を指すが,現在の地質学的構造や生物相からすると,大西洋側ではイギリス諸島,太平洋側では日本やフィリピン,インドネシアなどの列島やその周辺の縁海部をも含めてとらえるのが適切である。本項ではユーラシアの自然について,とくに構造発達史の観点からの形成史を中心に述べる。なお,超大陸パンゲアの分裂を論ずる場合には,北アメリカと一連であったころはローラシアLaurasiaの主体をなす大陸部分のみを指すことになる。しかし東アジア部分に関しては,プレートテクトニクスによる説明がまだ十分でないため,しばしばあいまいなまま古地理図上でユーラシアと一括されていることが多い。またインド半島は地形上ユーラシアに結びついているが,地史学的発達史からみて,第三紀以降を除きゴンドワナ大陸の一部として別格に扱われることが多い。
ユーラシアには世界の最高峰エベレストを含む大山脈のヒマラヤをはじめ,その西方延長としてザーグロス山脈,カルパチ山脈,アルプス山脈,北方ではロシア内のウラル山脈,中国・旧ソ連国境にほぼ沿った天山-崑崙-アルタイ山脈,シホテ・アリン山脈,チベット高原など大山脈が存在する。いずれも変動帯に属し,ユーラシアの形成に大きくかかわっている。青蔵高原はユーラシアに対してインドプレートが衝突して生じた隆起帯であり,平均高度4500m,地殻の厚さは70kmにも達している。こことヒマラヤ周辺からは,東へ黄河と長江(揚子江),南へはメコン,サルウィン,イラワジ,インダス,ガンガー(ガンジス)など世界の第一級河川が源を発している。一方,天山-アルタイ山脈からは,レナ,オビ,エニセイなど北極海への,あるいはアムールのようにオホーツク海への大河が発し,ヨーロッパ・アルプスからはライン,ドナウなど著名河川が流れ出ている。またユーラシア大陸には古い地質時代に起源をもつ大きな内海ないし湖が多くみられる。黒海,カスピ海,アラル海,バルハシ湖,バイカル湖がその代表で,おおよその傾向としてこの順序に古い歴史をもつ。黒海は地中海と連絡しているが,大局的にみればその地中海自体もテチス海のなごりである。
ユーラシアの北極海側は第四紀の大氷河時代に広く氷床に覆われた場所で,その後の気候の温暖化に伴い融氷がすすみ,現在では各地にフィヨルドや迷子石をはじめとする氷食地形や氷河堆積物を残している。氷冠や氷帽がとけたあと,アイソスタシーの原理によった地盤の著しい隆起も認められ,とりわけスカンジナビア半島周辺ではそれが著しい。
超大陸パンゲアが約2億年前に分裂した後,南方のゴンドワナ大陸のうちアフリカ・アラビアプレートは北上してユーラシアプレートとゆるく衝突し,その境界にアルプス山脈,ザーグロス山脈を代表とする新生代の褶曲山脈を形成した。最後にインド大陸がいちばん強く衝突してユーラシアプレートの南縁にもぐり込んだため,前面のテチス海の堆積物をまきこんで厚い地殻のヒマラヤ-チベットの高地を形づくった。オーストラリアプレートはまだユーラシアには達していない。ユーラシアと太平洋プレートとの間はいわゆる縁海と弧状列島の複雑な集合体で,東南アジアではインドシニアIndosiniaなどの小剛塊をはさみながら変動帯を形成している。
古生代末(~中生代初め)のバリスカン造山運動期ならびに古生代前半のカレドニア造山運動期の産物である褶曲帯が,ユーラシアの地体構造としては古い山脈群を構成している。そのうちウラル山脈の地史学的役割は大きく,おそらくかつてはユーラシアを東西に2分する海域を形成していたものとみられるが,まだ十分解明されていない。同様に,天山-アルタイ山脈群,中国大陸内部についても研究が不十分である。しかし,最近の調査結果を総合すると,天山-アルタイ山脈群以南のユーラシアは単一のプレートではなく,多くの剛塊や小剛塊とそれらの間をうめる変動帯の複雑な集合体であり,かつて1949年に小林貞一が提唱したヘテロゲンheterogen(いくつかの古い小剛塊とそれらにはさまれる変動体とのモザイク状集合体)の様相が一段と明らかになってきた。ただし,これらの小プレートの起源や運動経過に関しては,今後の詳細な研究を待たなければならない。
ユーラシアのうち最も広大な面積を占めるシベリアを含めた旧ソ連領の地体構造も,いまのところプレートテクトニクスの立場からの理解が不十分であるが,古地磁気の研究に基づく古生代前半の海陸配置の復元からみると,中国のヘテロゲン域とともに赤道周辺ないしは南半球に存在していたことは確かで,従来のようなシベリアを北半球高緯度地帯に残したままのパンゲアの様相は考え直す必要がある。それに伴ってテチス海の起源も再検討されなければならず,ユーラシアの形成史はいっそう複雑になろう。いずれにせよ,これまでのプレートテクトニクス論による海陸分布復元は,日本を含めてユーラシアの地史を無視せざるをえない状況のまま論じられてきたものであり,アジアの立場からみればきわめて不十分なものであった。ヘテロゲン的プレートの形成史は,超大陸の分裂,移動,衝突というパターン以外に,小プレートの衝突,付加,癒合といったパターンを基調にしたグローバルテクトニクスの展開が要求される時期に達しているとみてよい。
古生物学的に付加型のヘテロゲン的性格が最もよく示されるのは,ゴンドワナ要素である三畳紀原始爬虫類の中国西部からの産出や,ゴンドワナとテチス要素とが交互して帯状分布するヒマラヤ-チベット地区である。旧来の比較的単純にわりきったゴンドワナとユーラシアの対立図式は再検討されるべきで,デボン紀腕足類にみられるような,蒙古地向斜における北アメリカ要素との共通性とか,日本のシルル紀,デボン紀化石群が中国南部とそれほど共通性がなく,むしろオーストラリアとの親近性を示すものが含まれていることなども同様の意味をもつ可能性がある。その点,中国,日本,オーストラリアに産するデボン紀後期の陸生大型植物Leptophloeumの分布は,気候など環境に鋭敏な植物についての共通性だけに,プレ・ゴンドワナ期のユーラシアないしはパンゲアの位置づけを理解するうえにたいせつな事実であると思われる。
天然資源としてとくに注目されるのは化石燃料関係で,旧ソ連にはデボン紀の炭酸塩岩貯油層を主体とする油田があり,また石炭紀の石炭層がドイツ,フランス,ベルギーにわたる領域ならびに天山-アルタイ山脈の旧ソ連側,中国東北部などに広く賦存する。中生代のテチス海に関連した中東域の大油田群の一部はユーラシアとの境界にも及んでいる。
楯状地のうち古期岩層の分布するシベリア平原や中国の小剛塊中にはダイヤモンドを産する鉱床がいくつかあり,ロシアのミールヌイ鉱床や中国山東省の巨大結晶産出地などが著名である。古いプレート上には,先カンブリア時代の縞状鉄鉱層が点在しており,蒙古地向斜やマレー地向斜,アルプス地向斜など地殻変動の著しい構造帯には,タングステンやモリブデン,スズをはじめとする種々の金属鉱床も多い。またオルドビス紀以降の各時代に,ユーラシアの各地に大型の蒸発岩類層が形成され,北アメリカ大陸とともに世界の大岩塩田地域となっている。
執筆者:浜田 隆士
ユーラシア大陸の生物相は,大陸の規模が大きく熱帯から寒帯,湿潤から乾燥までさまざまな気候条件を含むうえ,長い地史と複雑な地形とを反映してひじょうに多様である。なかでも,熱帯にかかるアジア側の南部とヨーロッパの主部を含む温帯以北では,生物相が大きく異なっている(動物地理区,植物区系)。前者の熱帯降雨林域は地球上で最も多様な熱帯生物群を有する地域となっている。大陸沿岸部や西太平洋の島々には多くの海生動植物が生息し,サンゴ礁やマングローブ林に代表される特徴的な生物構造がみられる。日本周辺では黒潮の影響が大きく,緯度の高いわりに豊富な生物相をうみ出している。東洋区(動物地理区の一つで,インド・南アジア地域)の固有動物には,皮翼目(ヒヨケザル),ツパイ目,ガビアル科,オランウータン,クジャク,ヤケイ,トビトカゲなどがある一方,有鱗目(センザンコウ),長鼻目(ゾウ),オナガザル科,ニシキヘビ科,アオガエル科などアフリカと共通のものも多い。インド亜大陸東部からインドシナ半島にかけての亜熱帯地域は,雨季と乾季の入れかわりのはっきりしたモンスーン気候が支配的で,乾季に落葉する雨緑林が発達し,さらにインド亜大陸に入るとより乾燥しサバンナ林が出現する。
ユーラシア温帯地域は,冬は温暖多雨で夏は乾燥する大陸南西部の地中海地域(オリーブ,ゲッケイジュに代表される硬葉樹林や冬緑型草本植物の多いステップ),東部の夏も多雨な地域(カシ類に代表される常緑広葉樹林が発達する照葉樹域)の暖温帯地域と,その北の多雨な地帯に広がるブナ,ナラ(オーク)類,カエデ類などの夏緑広葉樹が優占する冷温帯の混交林地域に区分される。これらの森林地帯は,現在ではその多くが耕作地となり人口も集中しているが,地史的にみると第三紀の温暖で湿潤であった時代に,北半球に広く連続的に分布していた植物群の後裔(こうえい)がみられ,とくに東アジア地域にはモクレン類,ヤマグルマ,スイセンジュ,カツラ,フサザクラなど多くの固有植物を残している。しかしヨーロッパ側の冷温帯域では,スカンジナビア半島を中心とする第四紀の氷河の影響が強く,比較的単純な生物相しか有していない。中国大陸南部からヒマラヤ,アフガニスタン,カフカスにつながる山地は,ユーラシア大陸の東西をつなぐ温帯系生物群の分布回廊として機能している。旧北区(動物地理区の一つで,ユーラシア大陸の温帯以北)の動物相は,前記のような東洋区との違いを反映して,東洋区とはほとんど共通のものを欠き,パンダ科,ジャコウジカ科,イワヒバリ科,サンショウウオ科,ニホンジカ,ツキノワグマ,タヌキ,キジ,カケスなど特有のものが多くみられる。
アラビア半島からイランに広がる乾燥砂漠は,さらにユーラシア大陸中央部のチベットからモンゴルの高地荒原,砂漠地域につながって,アカザ科,ヒユ科,イネ科などが多い乾燥地帯をつくり,ユーラシア大陸温帯域を東西に2分する形となっている。この乾燥地帯の北には,カスピ海沿岸から中国東北部に帯状に連続する黒土地帯のステップ草原が発達する。
ヨーロッパ北部からシベリアにかけての地域は,モミ属,トウヒ属,カラマツ属などの針葉樹にカバノキ属などの落葉広葉樹をまじえた亜寒帯針葉樹林がよく発達している。とくに寒冷で永久凍土層が形成されている東シベリアには,グイマツ(カラマツ属)を主とした落葉針葉樹林がある。このような寒冷地の植生は,第三紀の後半から第四紀にかけて発達してきたものである。北極海に面した北端地域は,森林の発達しないツンドラ地帯となっている。寒冷地の動物相には,氷河期に北半球に広く分布したなごりの要素が多く,モグラ科,ナキウサギ科,オオサンショウウオ科,トナカイ,バイソン,ビーバー,オオカミ,キツネ,ライチョウなどは旧北区と北アメリカにほとんど固有で,過去に両地域が陸橋で連結していたことを示している。
ユーラシアは,地質時代から歴史時代にわたる人類の発展にとっても重要な舞台となっており,とりわけ化石人類によるモンゴロイドの起源の解明と彼らの分散過程は,今後,世界の人類学上無視できないものとなろう。
執筆者:堀田 満+今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アジア、ヨーロッパの両州をあわせ一続きの大陸と考えたときに使用される呼称。「ユーラシア大陸」のごとく用いられる。付属島を含む面積は約5500万平方キロメートルで世界最大、地球の全陸地面積の36%に達する。人口は約33億で世界総人口の69%(1984)。アフリカ大陸ともスエズ地峡で地続きになっている。自然地理的にはヨーロッパとアジアを分ける理由はとくにない。地震や火山活動が激しい造山帯が縁辺部を囲む。
[久保田武]
ヨーロッパとアジアの総称。日本の歴史学界でこの両大陸を一つのものとする観点は遊牧草原史から出発した。明治期以来の文献学的蓄積を基礎に,第二次世界大戦前の大陸考古学調査の成果に加え,戦後には歴史観の解放が大きな契機となった。ユーラシア北方で東西に連続する草原地帯の文化・民族・歴史研究が展開され,同時に東西交渉史,文化交流史,イスラーム史,モンゴル帝国史の研究が緻密に発展して,必然的にユーラシアを総合的にみる視点が定着した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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