出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
Rn.原子番号86の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p6の周期表18族希(貴)ガス元素.安定同位体のない元素のため,原子量が与えられていない.質量数195~228までの同位体が知られている.すべて放射性.222Rn がもっとも安定で半減期3.8235 d.222Rn がラジウムから発生する放射性気体として一番最初に発見された(1899年,P. and M. Curie(キュリー)夫妻).1900年にE. Rutherford(ラザフォード)がトリウムから発生する放射性気体(220Rn)を発見しemanationとよんだ.同年,F. Dornが両者の発見を確認し,ラジウムから発生する気体をradium emanation,トリウムからのものをthorium emanationとした.引き続きF.O. GieselとA. Debierneが同様にアクチニウムから 219Rn(actinium emanation)を発見した.慣用名として 222Rn をエマネーションまたはラジウムエマネーション,220Rn をトロン,219Rn をアクチノンとよぶこともある.ラドンは天然に存在する三つの崩壊系列(ウラン,トリウム,アクチニウム)の中間に生成するので,これらの元素に伴って微量存在する.
さまざまな名称が提案されたが,IUPACは1923年にラドンを選択した.もっとも重い気体元素.融点-71 ℃,沸点-61.8 ℃.密度9.73 g L-1(気体,0 ℃),4.4 g cm-3(液体,-62 ℃).気体と液体は無色,無臭.固体は黄色から橙色(液体空気温度)のりん光を放つ.水に可溶,有機溶媒に易溶.近年まで化学的に不活性と思われていたが([別用語参照]希ガス化合物),F2 またはClF3との反応でRnF2,BrF5を溶媒としてNiF2の存在下250 ℃ でRnF4,RnF6などフッ化物をつくることが知られており,希ガス中でもっとも反応性に富むと考えられている.
医療用放射線源として用いられる.近年周辺の土壌・岩石あるいはコンクリートなど,建築材料からの建物内のラドンの蓄積が,吸入による内部被ばくの可能性として取り上げられている.旧科学技術庁委託の調査によると,わが国の屋内ラドン濃度平均値は15.5 Bq cm-3 と推定されており,諸外国の数値の数分の一から数千分の一と低いことから,危険性は少ないと判断されている.アメリカの屋内ラドン濃度平均値は48 Bq cm-3 で,タバコにつぐ第二位の肺がん発がん原因とされる.放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律施行令「同位元素の数量等を定める件」(平成17年改正)によると,222Rn の空気中の濃度限界3×10-5 Bq/cm3.[CAS 10043-92-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表0族に属する希ガス元素の一つ。1898年キュリー夫妻はラジウムの化合物の周囲の空気が放射性をもつことを見いだし,これをドルンF.Dornが1900年ラジウムから発生する気体によるものであることを明らかにした。さらにイギリスのE.ラザフォードら,F.ソディ,W.ラムゼーは,この気体が不活性ガスで,周期表中0族に属することを確かめ,ラジウムエマネーションradium emanationと呼んだ。またラムゼーはグレーR.W.Grayとともに比重の測定からそれまでに知られた最も重い気体であることを示し,ガラス管中で気体を液化するとリン光を発するのでラテン語のnitere(輝く)にちなんでニトンnitonと呼ぶことを提唱したが,1923年国際会議でラジウムから変脱生成するものということからラドンの名称が採用された。天然には,219Rn(アクチノンactinonともいい,Anと書く。アクチニウム系列),220Rn(トロンthoronともいい,Tnと書く。トリウム系列),222Rn(ウラン系列)の3種の同位体が存在する。このうち222Rnが普通にいうラドンであって,226Raのα崩壊によって生じ,最も寿命が長い。半減期3.825日で,α崩壊してRaAとなる。空気中,天然水中にはこのラドンが微量含まれている。またウラン鉱物中にも存在し,鉱泉,温泉,地下水などにも溶解している。最初に発見されたのもこのラドンである。
単原子分子からなる無色の気体。水,二硫化炭素,その他の溶媒に溶けるが,エーテル,アルコールなどの有機溶媒にとくによく溶ける。活性炭やシリカゲルに吸着されるが,加熱によって放出される。化学的にはきわめて不活性でほとんど化合物をつくらないが,フッ化物RnF2の生成が推定されている。化学結合のないクラスレート化合物としては2C6H5OH・Rnが知られている。ラドンはラジウム化合物から発生する気体を集めて得られるが,不純物として含まれる空気,水蒸気,二酸化炭素などを除き,液体空気などで冷やして固体として取り出す。ヘリウムが混在してもこれは気体で残る。γ線源として用いられる。
執筆者:中原 勝儼
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…エマナチオンともいう。天然に存在するものはラドンの同位体222Rn(ラドン),220Rn(トロン),219Rn(アクチノン)であり,その他人工的につくられたアルゴンの同位体37Ar,41Ar,クリプトンの同位体87Kr,キセノンの同位体133Xe,135Xeなどがそうである。キュリー夫妻は放射能の研究中,ラジウム化合物の周囲の空気が放射性を示すことに気づいたが,E.ラザフォードはこれが希ガス元素に属する放射性気体によるものであることを確かめ,これをラジウムエマネーションとよんだ(のちに,ラジウムから変脱生成するものだということでラドンの名称が与えられた)。…
※「ラドン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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