翻訳|ribosome
細胞に普遍的に存在する直径150~300Åの微粒子からなる細胞小器官で,細胞質内のタンパク質合成の場となっている。その構成がRNA(リボ核酸)-タンパク質複合体であるところからこの名がある。遊離した状態で存在するものと小胞体の膜に付着したものとあり,おもに前者は細胞質内に存在するタンパク質を,後者は分泌タンパク質を合成している。細胞1個当り少ないもので103個,多いもので106個含まれる。大腸菌には約1.5×104個含まれ,重量にして約25%に当たる。
リボソームは原核細胞と真核細胞とで大きさや形態,また構成成分であるリボソームRNA(rRNAと略記)およびリボソームタンパク質(rタンパク質と略記)が異なり,明らかに区別される。真核細胞の色素体やミトコンドリアにみられるリボソームも原核細胞のリボソームに近い性質をもち,それぞれの細胞小器官に欠かせないタンパク質合成を行っている。この事実はこれら細胞小器官の起源を考えるうえで重要である。リボソームは,いずれも大亜粒子と小亜粒子が対になった構造をとり,低濃度のマグネシウムイオンMg2⁺の存在で亜粒子に解離し,高濃度で会合する。原核細胞の大腸菌リボソームは沈降係数が70s,分子量は2.7×106である。解離した大亜粒子は沈降係数50s,分子量1.8×106で,34個のタンパク質(L1~L34)が23S rRNA(分子量1.2×106)1分子と5S rRNA(分子量4×104)1分子に結合している。小亜粒子は沈降係数30s,分子量0.9×106で,21個のタンパク質(S1~S21)が16S rRNA(分子量0.6×106)1分子に結合する。真核細胞のリボソームは,酵母細胞から高等動植物まで大きさが多少大きくなるが,おおむね沈降係数80s,分子量4×106とされている。解離した大亜粒子は沈降係数60s,分子量2.7×106で,40種以上のタンパク質分子が28S rRNA1分子,7Sあるいは5.7S rRNA1分子および5S rRNA1分子と結合している。小亜粒子は沈降係数40s,分子量1.3×106で,30種以上のタンパク質分子が18S rRNA1分子と結合する。大亜粒子の28S分子と7Sあるいは5.7S分子および小亜粒子の18S分子のrRNAを支配する遺伝子群が核小体のDNA(rDNA)上に連鎖した状態で数百個位置している。このrDNAからrRNA前駆体への転写と各rRNAへの加工の制御機構の解明が目下盛んにすすめられている。またrRNAとrタンパク質の集合形成を実験系で段階的に結合させ,機能を備えた再構成リボソームをつくる研究も成功している。
リボソームの構成と構成成分に関する知見,電子顕微鏡像の違いは,生物の系統進化を知るうえで重要な手がかりを与えるもので,とくにrRNAの塩基配列の比較は原核生物の分類に大きな変革をもたらした。すなわち16S rRNAの相同性の比較から,従来の原核生物を真正細菌と古細菌archaebacteriaに分けることが提唱されている。メタン細菌,高度好塩菌,嫌気性好熱菌などが古細菌で,その他の生化学的性質の共通性から真核生物の起源とする説がある。
執筆者:腰原 英利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
細胞内に存在する,タンパク質とRNAとの複合顆粒で,生体内でのタンパク質合成の場を形成している.高等生物では,細胞質中の小胞体に付着して存在し,細胞をホモジネートするとミクロソーム分画中に含まれてくる.粒子量は4.2×106 で,1.4×106 と2.8×106 の二つのサブユニットからなり,マグネシウムイオンの関与により一つに凝集している.細菌では大きさがやや小さく,2.5×106 で70 Sの沈降定数を示し,やはり二つのサブユニットからなっている.大きいほうは50 S,小さいほうは30 Sの沈降定数を示す.とくに細菌ではこのリボソームの研究が進み,30 Sリボソームサブユニットは16 S RNAと約21種類のタンパク質から成り立っており,mRNA上の遺伝情報の読み取り装置としてはたらいている.この21種類のタンパク質は分離精製され,試験管内で再構成することができる.このとき,16 S RNAを中心にして21種類のタンパク質は,ある結合順序に従ってリボソームを構成することが明らかにされた.また,おのおののタンパク質の役割を調べてみると,そのうちの一つのタンパク質の変化が細菌の薬剤耐性の性質を変えたり,もう一つのタンパク質の変化で,タンパク合成の際のミスコーディングを促すことも明らかとなっている.50 Sリボソームサブユニットは,23 S RNA,5 S RNAと約34種類のタンパク質からなっており,ペプチド結合生成装置としてはたらいている.高等生物のリボソームの構造と機能も詳細に調べられている.真核細胞質のリボソームは80 S粒子を基本単位として60 Sと40 Sのサブユニットからなる.
40 S(18 S rRNA & 33 proteins)+
60 S(5 S,5.8 S,28 S rRNA & 49 proteins) → 80 S
機能的にリボソームはタンパク合成の場であり,メッセンジャーRNA,アミノアシル転移RNAと結合し,タンパク合成の際にはリボソームが何個もつながってポリソームを形成する.タンパクの生合成には,このほか種々のタンパク性因子が関与することが明らかにされているが,ペプチド結合を形成するペプチジルトランスフェラーゼ作用は,リボソームの大サブユニットに備わった酵素活性によっている.[別用語参照]翻訳(遺伝情報の)
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…リボソーム粒子に含まれるRNAで,細胞内に最も多量に存在するRNA成分である。リボソームribosomeは直径15~20nmの粒子状で,タンパク質の合成を行う細胞内の工場にたとえられる。高等動植物から細菌までのすべての細胞に存在し,葉緑体やミトコンドリアにも,それらに固有なリボソームが存在する。…
…DNA上の遺伝情報に基づいてタンパク質を合成する過程で,種々の重要な役割を果たす。高等動植物からバクテリアまでのすべての細胞に存在し,その分子の種類はバクテリアについてさえ,1000種類程度は存在するが,機能的にはメッセンジャーRNA,リボソームRNA,転移RNAなどに大別できる。一部のウイルスには,遺伝子本体としてDNAの代りにRNAをもつものがあり,RNAウイルスとしてDNAウイルスから区別される。…
…精子中のヌクレオプロタミンnucleoprotamine,染色体のヌクレオヒストンnucleohistoneはそれぞれ塩基性タンパク質であるプロタミンおよびヒストンとDNAとの複合体の例である。RNAとの複合体の代表例は,タンパク質合成をするリボソームである。【柳田 充弘】。…
※「リボソーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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