血管収縮作用をもち、脊椎(せきつい)動物の視床下部に働いて飲水行動を引き起こすアンジオテンシンの生成に関与するプロテアーゼで、腎臓(じんぞう)の傍糸球体細胞、下垂体、顎下腺(がくかせん)などでつくられる。血中濃度は食塩摂取量が多いと低下する。ヒトのレニンはまず406個のアミノ酸からなるプレプロレニンとして合成され、N末端のプレペプチド23残基を切り離してプロレニンとなり、さらに43残基のプロペプチドを切り離して最終的に340残基のレニンとなる。分子量はヒトでは約4万で、糖タンパク質である。アンジオテンシノーゲンのアミノ末端から10および11番目のロイシンとバリンLeu-Val(ブタではLeu-Leu)の間のペプチド結合を切断してアンジオテンシンⅠとする。これはさらに、アンジオテンシン変換酵素により、カルボキシ末端からヒスチジル‐ロイシンHis-Leuを切り離されてアミノ酸8個のアンジオテンシンⅡ(Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe)となり、平滑筋収縮作用を現し、強い血管収縮による血圧上昇をもたらす。レニンは活性部位にカルボキシ基(カルボキシル基)をもち、アスパラギン酸(酸性)プロテアーゼに分類されているが、至適pHは中性ないし弱酸性(pH5.5~6.0)である。放線菌がつくるペプスタチンに強く阻害される。
[野村晃司]
『国府達郎・山本研三郎編『レニンと高血圧』(1986・メディカルトリビューン)』▽『日本比較内分泌学会編『ホルモンハンドブック』(1988・南江堂)』▽『三浦謹一郎編『プロテインエンジニアリング』(1990・東京化学同人)』▽『村上和雄・堀比斗志著『遺伝子工学から蛋白質工学へ』(1990・東京大学出版会)』▽『平田結喜緒編『血管分子生物学』(1995・メディカルレビュー社)』▽『荻原俊男他編『実地診療におけるレニン・アンジオテンシン系抑制薬の手引』(1995・医薬ジャーナル社)』▽『日和田邦男他編著『レニン・アンジオテンシン系と高血圧――レニン発見100周年を記念して』(1998・先端医学社)』▽『稲上正他著『わが国における循環調節ペプチド・因子研究のサクセスストーリー』(1999・日本臨牀社)』▽『日和田邦男他編『ACE阻害薬のすべて』(1999・先端医学社)』▽『伊藤貞嘉・堀正二編『アンジオテンシン変換酵素阻害薬と臓器保護』(2001・医薬ジャーナル社)』▽『日和田邦男編『高血圧研究の歴史』(2002・先端医学社)』▽『伊藤貞嘉著『腎と高血圧――レニン・アンジオテンシン系抑制薬の意義』(2003・メディカルレビュー社)』
主として腎臓の傍糸球体細胞から放出される一種のタンパク質分解酵素で,高血圧の発症あるいは維持に重要な役割を果たすものとして注目されている。1898年ティゲルシュテットR.Tigerstedtらはウサギの腎臓の水抽出液に血圧を上げる作用のあることを見いだし,この物質をレニンと命名した。ところがその後の研究により,レニンそのものには血圧を上げる作用はなく,レニンがタンパク質分解酵素として働いて血清タンパク質からつくられるアンギオテンシンが血圧を上げる作用のあることが明らかとなった。さらにこのアンギオテンシンにはアミノ酸10個から成るアンギオテンシンⅠと,これからアミノ酸1個がはずれアミノ酸9個から成るアンギオテンシンⅡ,アミノ酸8個のアンギオテンシンⅢの3種類あり,このうち血圧を上げる活性が最も強いのはアンギオテンシンⅡであることが明らかとなった。このようにレニンの働きによって血清タンパク質からつくられるアンギオテンシンⅡにはきわめて強力な血圧上昇作用があり,これが高血圧の発症あるいは維持に関与しているのではないかと考えられてきた。1934年ゴールドブラットH.Goldblattはイヌの腎動脈を狭めることによって高血圧をつくったが,このとき腎臓から血中に多量のレニンが放出されることが示され,この種の高血圧は血中レニンが上昇するために起こるものと考えられるようになった。またアンギオテンシンⅡの生理作用として血管壁に直接働いて血管を収縮させ血圧を上げるほかに,これがアルドステロン分泌刺激ホルモンとして副腎に働くことも明らかとなった。
現在レニン-アンギオテンシン系の関与がかなり確実であると考えられている高血圧には,腎血管性高血圧,悪性高血圧,レニン分泌性腎腫瘍による高血圧などがある。その他の高血圧にもレニン-アンギオテンシン系が関与しているかどうかには,まだ多くの議論がある。
最近このレニン-アンギオテンシン系を抑制することによって高血圧を治療しようとする試みがある。β遮断薬にはレニン分泌抑制作用を示すものが多いが,これが降圧機序として働いているかどうかには疑問がある。そこでアンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換に関与する変換酵素の作用を阻止することにより昇圧物質アンギオテンシンⅡの生成を妨げて降圧を図ろうとする薬(変換酵素阻害薬)が開発され,臨床に用いられつつある。またアンギオテンシンⅡの作用とその受容体部位において遮断する薬(アンギオテンシン・アナログ)もつくられているが,まだ実用には供されていない。
→高血圧
執筆者:海老原 昭夫+関原 久彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
基準値
0.5~3.0ng/mℓ/時(早朝安静空腹臥位)
高血圧症や浮腫性疾患などをチェック
図に示すように、レニンは腎臓から分泌されるホルモンで、血圧を上昇させる役割があります。
また、肝臓から分泌されるアンギオテンシノゲンという糖蛋白をアンギオテンシンに分解して血圧を上昇させ、さらには、このアンギオテンシンが副腎からのアルドステロンというホルモンの分泌を促進して、血圧を上昇させるように働きます。
すなわちレニンは、レニン自体のほかにアンギオテンシン-アルドステロンに作用することで血圧を上昇させるのです。
したがって高血圧症や
検査値からの対策
異常値がみられたら、薬物を服用している場合は、投薬を中止して2週間以上たってから再検査をします。入院患者では、同じ日に時間をかえて、3回以上採血して日内変動を調べます。
腎動脈の
■レニン・アンギオテンシン-アルドステロン系の概要
疑われるおもな病気などは
◆高値:アルドステロンが低値→アジソン病、21-水酸化酵素欠損症など
アルドステロンが高値→腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、うっ血性心不全、肝硬変など
◆低値:アルドステロンが低値→循環血漿量の増大、甲状腺機能低下症など
アルドステロンが高値→原発性アルドステロン症、原発性副腎過形成など
医師が使う一般用語
「レニン」
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…このホルモンは,遠位尿細管でのNa+の再吸収を促進する。なおアルドステロンは,副腎皮質に対する種々の刺激によって出るほか,腎臓の糸球体旁装置から分泌されるレニンを介して分泌が調節されている。 カリウムイオンK+は,Na+とは裏腹に行動する。…
…プロゲステロンを分泌するので,胎児ではプロゲステロンからコルチコステロン,アルドステロンが合成される。(13)レニン‐アンギオテンシン系のホルモン 腎臓の旁(ぼう)糸球体細胞はレニンという酵素を分泌する。これは血中のアンギオテンシノーゲンに働いて,アンギオテンシンIというアミノ酸10個のものを切り離す。…
※「レニン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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