日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ロビンソン(Joan Violet Robinson)
ろびんそん
Joan Violet Robinson
(1903―1983)
イギリスの経済学者。ケンブリッジ大学に学び、1931年同大学の経済学講師となり、1965年に夫E・A・G・ロビンソンSir Edward Austin Gossage Robinson(1897―1993)同大学教授引退後のポストを引き継ぎ、1971年まで務めた。彼女の業績はほぼ年代順に三つに分けられる。第一は、スラッファPiero Sraffa(1898―1983)の影響のもとに不完全競争の理論を創出し、E・H・チェンバリンの独占的競争の理論とともに、価格理論に新分野を確立したことである。第二は、ケインジアンとしての業績である。価格分析から所得分析に転じた彼女は、J・M・ケインズに師事するというよりは、R・F・ハロッドと同様、ケインズとともに『一般理論』(1936)の構築に参加し、その優れた入門書、研究書を著してケインズ革命の展開に尽くした。第三の、そして最大の業績は、ポスト・ケインジアンとしてのそれである。第二次世界大戦後、静学的短期分析から動学的長期分析に転じた彼女は、ハロッドとともにケインズ理論の長期化=成長理論化に努めた。そこではまず恒常的経済成長の諸条件を明らかにし、そこに独自の価値論を用いて技術革新の類型を導入し、さらにケンブリッジ型生産関数論を組み込んで、資本主義成長の不安定性を解明した。このプロセスにおいてマルクス経済学にも接近している。その現れの一つが、先進国はケインズ経済学的経済経営、開発途上国はマルクス経済学的・社会主義的経営という主張である。こうしてケインズ革命の本質が資本主義経済の不安定性の解明にあるとした彼女は、新古典派経済学が経済学の第二の危機を招くであろうと力説し、新しい経済学体系の確立を目ざした。
[一杉哲也]
『J・V・ロビンソン著、加藤泰男訳『不完全競争の経済学』(1956・文雅堂書店)』▽『J・V・ロビンソン著、杉山清訳『資本蓄積論』(1957・みすず書房)』▽『J・V・ロビンソン著、宮崎義一訳『経済学の考え方』(1966・岩波書店)』▽『J・V・ロビンソン著、宇沢弘文訳『異端の経済学』(1973・日本経済新聞社)』▽『J・V・ロビンソン、J・イートウェル著、宇沢弘文訳『現代経済学』(1976・岩波書店)』