ワイスマン(August Weismann)(読み)わいすまん(英語表記)August Weismann

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ワイスマン(August Weismann)
わいすまん
August Weismann
(1834―1914)

ドイツの生物学者。フランクフルトアムマインに生まれる。ゲッティンゲン大学で医学を修め、しばらく開業したが、のちギーセン大学でロイカルトについて発生学や形態学を学ぶ。1863年フライブルク大学医学部私講師、1865年助教授、1873年に教授となり、死の数年前、引退するまで動物学を教えた。若い時代の研究は主として無脊椎(むせきつい)動物の発生であったが、視力を失ったため顕微鏡を使う仕事ができなくなり、思索的研究に転じ、発生・遺伝進化などに関する優れた哲学的考察を行った。とくに有名なのは、生物の生殖物質の連続性に関する生殖質説で、「有性生殖にあたり、生殖細胞が形成される際、父方からきた染色体(idantとよんだ)と母方からきた染色体とが還元される。そしてこれが精子と卵との合体で旧に復する。還元の際、遺伝子idoとよんだ)に組換えがおこる。したがってさまざまな遺伝子組合せをもった生殖細胞ができる。それゆえ同じ両親から産まれた子供の間に相違がみられても不思議はない」と主張した。また体細胞と生殖細胞とを区別して考え、前者におこった変異は絶対に遺伝しないとした。さらに生物の進化は自然選択だけによっておこるとし、ダーウィンの自然選択の原理の適用範囲を内部の生殖質まで広げた。この説を自ら「新ダーウィニズム」と名づけ、その後に大きな影響を与えた。主著には『生殖質』(1892)、『進化論講義』(1902)がある。

田島弥太郎 2018年12月13日]

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