一過性脳虚血発作(読み)イッカセイノウキョケツホッサ

デジタル大辞泉 「一過性脳虚血発作」の意味・読み・例文・類語

いっかせい‐のうきょけつほっさ〔イツクワセイナウキヨケツホツサ〕【一過性脳虚血発作】

脳の一時的な循環障害によるさまざまな症状。片麻痺へんまひ・手足のしびれ・失語・視力障害などがみられるが、数分間から24時間以内には消える。脳梗塞の前兆とされる。TIA(transient ischemic attack)。

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内科学 第10版 「一過性脳虚血発作」の解説

一過性脳虚血発作(血管障害)

定義・概念
 一過性脳虚血発作とは,1990年の米国国立神経疾患・脳卒中研究所による脳卒中の分類第3版(NINDS-Ⅲ)によれば,通常単一の脳血管灌流領域(左右頸動脈,椎骨脳底動脈領域)における局所神経症状を呈する短時間の発作で,脳虚血以外の原因が考えにくいものである.したがって,一過性脳虚血発作を診断名として用いる場合には局所脳虚血症状を認めたものに限定され,血圧低下による一過性全脳虚血を含めるべきでない.症状は通常2~5分以内に完成し,2~15分間持続し急速に寛解することが多いが,便宜上24時間未満に後遺症を残さず回復するものを一過性脳虚血発作とよぶ.NINDS-Ⅲ分類では,発作の持続が長いほどCT,MRIで梗塞巣が発見される可能性が高いとし,画像上の脳梗塞の有無には固執せず,その後の脳梗塞を予防するうえで重要であるとしている.
 一過性脳虚血発作(TIA)は新しい定義として“局所脳虚血,脊髄虚血または網膜虚血に起因する,一過性の神経脱落症状で,急性脳梗塞の発生を伴わないもの”が2009年に米国脳卒中協会から提唱されている.症状の持続時間は問わず,画像診断による梗塞の有無を重視している(Eastonら,2009).
病因
 発症機序として,微小塞栓説,血行力学説,脳血管攣縮説などが提唱されてきた.現在は,超音波ドプラ法などの検討から,その大部分はartery to arteryによる微小塞栓によるとする考えが支配的であるが,血行動態異常によるものや心原性塞栓,血液学的異常によるものなどが少なからず存在する.
1)微小塞栓説:
内頸動脈起始部などに生じたアテローム硬化巣(プラーク)ではその破綻により潰瘍が形成されることが多く,血小板血栓が付着しやすい.この壁在血栓が剥離すると,微小栓子として末梢の脳内小血管を閉塞し局所神経症状を呈するが,短時間のうちに粉砕,溶解してしまうため症状が回復するものと考えられている.抗血小板療法による有意な一過性虚血発作再発予防効果もこの説の大きな根拠となっている.
2)血行力学説:
脳主幹動脈に狭窄あるいは閉塞病変が存在すると脳灌流圧が低下するが,通常,脳血流は側副血行路により維持され,すぐには症状は出現しない.しかし,何らかの原因で全身血圧の低下が生じたり脳循環自動調節能(autoregulation)の障害がある場合には,側副血行により灌流が維持されていた領域で容易に脳血管不全(cerebral vascular insufficiency)となり,一過性に局所症状が出現すると考えられている.特に,Willis動脈輪閉塞症(もやもや病)では両側内頸動脈終末部の閉塞により大脳前半部血流は側副血行により保たれているが,過換気時には脳血管収縮のため血流が維持できず一過性脳虚血発作を生じると考えられる.疫学 欧米ではアテローム血栓性脳梗塞の25~50%,心原性脳塞栓症の11~30%,ラクナ梗塞の11~14%で,一過性脳虚血発作が先行する.わが国の平成12年の統計では,一過性脳虚血発作は,虚血性脳卒中のうち6.4%であった.
臨床症状
 症状は多彩であり,通常の脳梗塞で出現するほとんどの神経症候の要素が一過性脳虚血発作においても出現しうる.一過性脳虚血発作の主要症状を表15-5-5に示す.内頸動脈系と椎骨動脈系で症状が異なる.これらの症状のうち,構音障害および同名性半盲はいずれの系でも生じうるため注意を要する.また,一過性黒内障(amaurosis fugax)は同側内頸動脈系の症状で通常単独で生じることが多いが,わが国での頻度は欧米に比べて少ないとされる.上肢が不規則に震えるlimb shaking TIAとよばれる発作も内頸動脈系の症状として知られており,てんかん発作と区別する必要がある.内頸動脈系一過性脳虚血発作が80%,椎骨動脈系一過性脳虚血発作が20%といわれている.表15-5-6にNINDS-Ⅲ分類に記載された,非定型型一過性脳虚血発作症状および非一過性脳虚血発作症状を示す.臨床的にはあくまで脳梗塞前駆症状としての一過性脳虚血発作を見逃さないようにすることが必要であり断定はできないが,一過性脳虚血発作の可能性が残る症例に関してはpossible TIAとして慎重に経過観察することが重要である.
診断
 一過性脳虚血発作は診断が遅れると脳梗塞への移行のリスクが増すため,迅速な診断・評価が必要である.
 医師が発作中に居合わせることは少なく,その診断には詳しい病歴が最も重要である.診察所見では頸部雑音(bruit)は頸動脈狭窄を,網膜血管塞栓や15 mmHg以上の上腕動脈血圧の左右差は大血管病変を示唆する.画像診断では,頭部CTで一過性脳虚血発作の症例の32%,MRIで77%に病変がみられるという.また,頸部超音波検査により頭蓋外血管病変をチェックすることが重要であるが,わが国では頭蓋内の動脈硬化性病変も比較的多いとされ,MRアンギオグラフィ(MRA)で頭蓋内血管狭窄の有無を確認することも必要である.さらに血管狭窄が判明すれば,必要に応じて血管造影を施行し,単一光子放出型CT(SPECT),Xe-CTなどによる脳血流検査,さらには24時間血圧モニター(ABPM)による夜間降圧のチェックなどを行う.一方,心原性脳塞栓が疑われる場合には,Holter心電図,経胸壁あるいは経食道心エコー検査などを施行すべきである.また,若年者などで特に動脈硬化危険因子がみあたらない場合には凝固系特殊検査を行う.
鑑別診断
 片頭痛(定型的および片麻痺性),てんかんに留意すべきである.器質的脳病変では,脳腫瘍・慢性硬膜下血腫・血管奇形・多発性硬化症,そのほかに一過性全健忘,Ménière症候群,血圧低下に伴う失神(および失神前駆状態),過換気症候群,低血糖,ナルコレプシー,カタレプシー,ヒステリー,周期性四肢麻痺など,一過性単眼性症状を呈した場合には巨細胞性動脈炎・悪性高血圧症・緑内障・乳頭浮腫・眼窩および網膜の非血管性病変などがあげられる.
経過・予後
 一過性脳虚血発作は,脳梗塞の前駆症状と考えられ,約1/3が完成型脳梗塞に移行するといわれている.特に,一過性脳虚血発作の発作後早期に最も高い.特に,発作頻度が増加してくる,いわゆるcrescendo TIAでは内頸動脈の高度狭窄によることが多く,完成型脳梗塞に移行することが多い.
 TIA発症後の脳梗塞リスクを予測する尺度としてABCD2スコアが用いられている.age:年齢60歳以上1点,blood pressure:高血圧(収縮期血圧>140 mmHgまたは拡張期血圧≧90 mmHg)1点,clinical features:臨床症状;片側脱力2点,脱力を伴わない言語障害 1点,duration:持続時間;≧60分2点,10〜59分1点,diabetes:糖尿病 1点,の合計点で評価する.TIA発症後2日以内の脳卒中リスクは,ABCD2スコアが0~3点では1.0%,4~5点では4.1%,6~7点では8.1%であり,その点数が高いほど脳卒中発症リスクは高い(Johnstonら,2007).ABCD2スコアが4点以上では入院が勧められる.また,心房細動や頸部動脈狭窄が認められた場合はABCD2スコアが4点未満でも脳梗塞の発症リスクが高いとする報告もあり入院治療が望ましい.
治療・予防
1)危険因子の発見・管理:
一過性脳虚血発作の発症には動脈硬化の進展が深く関与しており,その危険因子の発見・是正が重要である.高血圧の管理,禁煙,冠疾患・不整脈・心不全・心臓弁膜症の管理,糖尿病の管理,高脂血症の管理,節酒(アルコール30g/日未満),適度な運動(少なくとも3~4回/週の30~60分),体重のコントロール(標準体重の120%以下)が重要である(Albersら,1999).
2)内科的治療:
 a)抗血小板療法:非心原性TIAでは抗血小板薬が推奨され,急性期ではアスピリン160〜300 mg/日,慢性期ではアスピリン75〜150 mg/日,クロピドグレル75 mg/日,シロスタゾール200 mg/日が初期治療として適切である.抗血小板薬の選択が患者の危険因子,コスト,耐性,臨床的特徴に基づいて行われる.
 b)抗凝固療法:心原性塞栓によると考えられるTIAではできるだけ早期に抗凝固療法を開始する.ヘパリンは部分トロンボプタスチン(APTT)を1.5~2倍になるように調節する.ワルファリンに移行する場合は,プロトロンビン時間INR(international normalized ratio)が2~3(高齢者では1.6~2.6)に達するまで通常4~5日の重複期間を設ける.非弁膜症性心房細動が原因と考えられるTIAでは,ヘパリンを使用せずにダビガトラン,リバロキサバンの経口投与を開始することも可能である.また,血行力学的機序によるcresendo TIAでも低流速での凝固系亢進が関与していると考えられるため抗凝固療法の適応となる.
3)外科的治療:
狭窄率70%以上の頸動脈病変によるTIAでは,頸動脈内膜剥離術(CEA)が適応となる.狭窄率50~69%の場合は年齢,性,併存症などを勘案しCEAを考慮する.狭窄率50%未満では,CEA,頸動脈ステント留置術(CAS)は推奨されない.心臓疾患合併,高齢などのCEAハイリスクの場合は,適切な術者によるCASを考慮する.内頸動脈閉塞および中大脳動脈閉塞,狭窄症でTIAを生じた場合は,頭蓋外-頭蓋内バイパス手術の適応を安静時脳血流,脳血管反応性検査を含め慎重に検討する必要がある.[棚橋紀夫]
■文献
Albers GW, Hart RG, et al: Supplement to the guidelines for the management of transient ischemic attacks. A statement from the Ad Hoc Committee on Guidelines for the management of transient ischemic attacks, stroke council, American Heart Association. Stroke, 30: 2502-2511, 1999.
Easton JD, Saver JL, et al: Definition and evaluation of transient ischemic attack: a scientific statement for healthcare profrssionals from the American Heart Association/American Stroke Association Stroke Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia; Council on Cardiovascular Nursing; and the Interdisciplinary Council on Peripheral Vascular Disease. Stroke, 40: 2276-2293, 2009.
Johnson SC, Rothwell PM, et al: Validation and refinement of scores to predict very early stroke risk after transient ischaemic attack. Lancet, 369
: 283-292, 2007.

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六訂版 家庭医学大全科 「一過性脳虚血発作」の解説

一過性脳虚血発作(TIA)
いっかせいのうきょけつほっさ(TIA)
Transient ischemic attack (TIA)
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 一過性脳虚血発作(TIA)とは、脳に行く血液の流れが一過性に悪くなり、運動麻痺、感覚障害などの症状が現れ、24時間以内、多くは数分以内にその症状が完全に消失するものをいいます。脳梗塞(のうこうそく)の前触れとして重要です。

原因は何か

 大きく分けて2つあります。ひとつは血管の壁にできた小さな血栓(けっせん)が脳内の動脈に流れていく場合です。頭蓋骨外の頸動脈や椎骨脳底動脈(ついこつのうていどうみやく)のアテローム硬化病変がみられる部位から微小な血栓がはがれて、脳内の血管へ飛んで詰まり、症状が現れます。脳の血管が詰まると、その部分の組織の循環と代謝に障害が起こり、機能が停止します。脳の機能はそれぞれの部位で違うので、損なわれた部位により症状は違ってきます。血栓がその場所で詰まったままで、その組織の障害が元にもどらないほどの程度になると、脳梗塞と呼ばれる状態になります。

 しかし血栓が小さかったり血栓の詰まり方が弱いと、いったん詰まった血栓は自然に溶けて再び血液が流れるようになり、症状は消失します。この状態がTIAです。心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)心房細動(しんぼうさいどう)心筋梗塞(しんきんこうそく)などの心疾患が原因になる場合もあります。ごくまれに、線維筋形成不全症(せんいきんけいせいふぜんしょう)という血管の奇形や血管炎などが原因になることもあります。

 もうひとつは、血圧が急激に低下する場合です。もともと動脈硬化があることから太い動脈の狭窄(きょうさく)閉塞(へいそく)があり、これに全身の血圧の低下が加わり、脳への循環が悪くなる状態で、脳血管不全(のうけっかんふぜん)とも呼ばれます。

 TIAが臨床的に重要なのは、脳梗塞の前触れになるからです。TIAがあった場合、約10%が1年以内に、約30%が5年以内に脳梗塞を発症するとされています。

症状の現れ方

 TIAの発症は急激で5分以内に症状が完成し、2~30分(多くは数分)続きます。大脳へ行く血管系には内頸(ないけい)動脈系と椎骨(ついこつ)動脈系とがあります。内頸動脈系のTIAでは半身の運動麻痺、感覚鈍麻(どんま)失語症(しつごしょう)(言葉が言えない、理解できない)、片眼の視野障害などの症状がみられます。椎骨脳底動脈系のTIAではめまい構音障害、物が二重に見える複視、意識障害を伴わないで下肢の脱力のために転ぶドロップアタックといった症状がみられます。

検査と診断

 診断には頸動脈の超音波ドプラー検査が有用で、血管の内中膜の厚さや、動脈硬化の指標になるプラークの状態を調べます。血管の病変が原因のTIAでは、詰まりの源になる脳血管の病変を調べることが重要で、脳血管撮影を行い、その狭窄部位と狭窄の程度をみます。

 拡散強調画像MRIは急性期の脳梗塞の有無をみるのに有用です。頸部から血管の雑音を聴き取ることもあります。心疾患が疑われる場合には心エコー検査を行います。

治療の方法

 TIAは多くの場合、診察時には症状がおさまっているので、再発予防が重要です。そのためには脳梗塞の危険因子となる高血圧糖尿病脂質異常症の管理、禁煙指導、心疾患の治療、経口避妊薬の中止、運動指導などを行います。

 再発予防のための薬物治療としては、抗血小板薬であるアスピリンまたはクロピドグレルまたはシロスタゾールを用います。TIAの最後の発作から少なくとも1年以上は投与し、基礎疾患のある場合にはさらに長期にわたり投与します。心臓からの血栓が塞栓(そくせん)(詰まり)の原因の場合には抗凝固療法を行います。

 頸動脈の血管病変がひどく70%以上の狭窄がある場合は、頸動脈内膜剥離術(けいどうみゃくないまくはくりじゅつ)と呼ばれる手術が行われます。

病気に気づいたらどうする

 一過性の脳の循環障害の症状は、脳梗塞の前触れとして重要です。一過性の脱力、しびれなどの症状が現れ、TIAが疑われる場合は必ず受診して検査を受ける必要があります。

 一度TIAを起こした患者さんで、数日以内に脳梗塞を起こすリスクが高いのはどのような人かを予測する方法が提唱されています。スコア(得点)方式で、①年齢が60歳以上はスコア1、②血圧が140/90㎜Hg以上はスコア1、③臨床症状で片側性脱力はスコア2、構音障害(脱力なし)はスコア1、④発作の持続時間が60分以上はスコア2、10~59分はスコア1とします。TIA発症7日以内に脳卒中を発症するリスクは、スコアの合計が4、5、6の時にそれぞれ、2.2%、16.3%、35.5%とされています。スコアの合計が増すほどリスクは大きいので、脳卒中に至る可能性のある人はできるだけ早く治療を開始することが大切です。

 2週間以内に4回以上の発作がある場合、2週間以内に頻度、持続時間、重症度が急速に増している場合、心臓の異常が塞栓の原因と考えられる場合は、早期入院が必要です。

北川 泰久

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「一過性脳虚血発作」の解説

いっかせいのうきょけつほっさ【一過性脳虚血発作 Transient Cerebral Ischemic Attack(TIA)】

[どんな病気か]
 脳に行く血液の流れが悪くなって(脳虚血)、いろいろな神経症状が出現しますが、24時間以内(多くは20分以内)に自然によくなり、症状がなくなるものをいいます。
[症状]
 片側の手足や顔のまひなどの運動障害、しびれや感じ方が鈍くなるなどの感覚障害、ろれつが回らなかったり、ことばがでなかったりする言語障害、片方の目が見えにくくなる視力障害(一過性黒内障(いっかせいこくないしょう))、片側にあるものが見えなくなる視野障害(同名性半盲(どうめいせいはんもう))などいろいろです。
 一過性脳虚血発作を、すぐよくなったからと放置して治療をしなかった場合には、数年以内に20~30%が脳梗塞(のうこうそく)をおこすので、脳梗塞をおこす警告症状としてたいへん重要です。
 とくに、発作を何回もくり返したり、発作のたびに症状が強くなる、症状の持続時間が長くなるといったときは、それに引き続いて脳梗塞の発作をおこすことが多いので、要注意です。
 一過性脳虚血発作をおこしたときは、できるだけ早く、神経内科か脳神経外科の診察を受けて、医師の指示があったときは、入院して適切な治療を受けることが必要です。
[原因]
 脳の血液の循環障害のためにおこりますが、その原因は大きく分けて2つあります。
①脳の動脈に血栓(けっせん)が一時的につまっておこる
 脳梗塞をおこす警告症状です。脳の動脈の動脈硬化が進むと、その部位の血液の流れによどみができて、血栓ができやすくなります。そして、血管の壁にできた血栓がはがれて、その先の動脈の細い部分につまります。心臓や大動脈などの脳以外の部位に生じた血栓が、脳の動脈に流れてきてつまることもあります。
 幸いにも、つまった血栓が小さいと、短時間で自然に溶けて血液が再び流れるようになります(再開通)。
 血栓がつまると、その動脈から血液の供給を受けていた脳の部分のはたらきが障害を受け、その部分がつかさどっていた機能に応じてさまざまな症状が現われます。
 血管が閉塞(へいそく)していた時間が短いと、脳はまだ壊死(えし)をおこしていないので、血流の再開とともに再びはたらきだします。そのため、症状が消失するのです。
 このようなことをくり返していると、もとにもどれない変化が徐々に脳組織に生じてきて、そのうちに脳梗塞がおこります。
②急に血圧が下がるために、脳へ流れる血流量が減少する
 健康な人は、かなり血圧が下がっても脳へ流れる血流量が減少することはありません。
 俗に脳貧血(のうひんけつ)といって、神経のはたらきが一時的に異常になって血圧が下がり、脳への血流量が減って立ちくらみを感じたりすることもありますが、横になればすぐに回復します。
 長い間、高血圧を治療せずに放っておいたり、脳卒中(のうそっちゅう)をおこしたことのあるような脳動脈の動脈硬化が強い人は、健康な人では影響のない血圧の降下で、脳の血流量が減少して、脳の神経細胞が血液不足におちいり、いろいろな症状がおこります(脳循環不全症状(のうじゅんかんふぜんしょうじょう))。頭位や体位を変換したとき、たとえば、寝た位置から急に立ち上がったときなどに症状がおこります。
 高血圧症の人が降圧薬を服用し、急激に正常血圧まで下がったときにおこることもあります。軽い場合は、立ちくらみ、めまい感、頭重感(ずじゅうかん)ですみますが、ときに、ろれつが回らなくなったり、手足の力が入らなくなったりすることがあります。
[検査と診断]
 症状は、短時間のうちに自然に消えてしまうので、医師が症状を実際に確認できることはまれで、本人や周囲の人の話が診断を下すうえで重要になります。
 このようなことがあったら、症状を正確に医師に報告しましょう。症状から、脳梗塞のまえぶれと判断されたときは、すぐに入院して詳しい検査や、脳梗塞をおこさないようにする治療が必要です。
 脳のCTやMRIのほか、血栓を生じさせる動脈硬化をおこしている脳の血管はどこかを調べるため、脳血管撮影が行なわれます。
 また、心臓に異常(心房細動(しんぼうさいどう)などの不整脈(ふせいみゃく)や心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)など)があると血栓が生じやすいので、心臓の検査(超音波検査やホルター心電図など)も必要です。
[治療]
 脳梗塞の前兆と診断がついたときは、すぐにも治療が必要です。
●内科的治療
 血液を固まりにくくして血栓形成を防ぐために、抗血小板薬や抗凝固薬、血栓溶解薬などを使用する薬物療法を行ないます。
●外科的治療
 脳血管撮影の結果、脳動脈の内腔(ないくう)がアテローム性動脈硬化により狭く、不整で、いまにもつまりそうな部位(頸部(けいぶ)の内頸動脈(ないけいどうみゃく)のことが多い)が見つかったり、血液の流れを改善させれば症状がよくなると考えられる場合は、動脈に対する手術が行なわれることがあります。

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改訂新版 世界大百科事典 「一過性脳虚血発作」の意味・わかりやすい解説

一過性脳虚血発作 (いっかせいのうきょけつほっさ)
transient ischemic attack

略してTIAと呼ばれる。片麻痺(左右どちらか半身の麻痺),失語,視力障害など,脳の病変によって起こると思われる症状が突然出るが,すぐによくなり,24時間以内にまったく元の状態にもどる発作をいう。この発作はほとんどの場合,ごく小さな脳梗塞(のうこうそく)によって起こると考えられている。このような梗塞は,内頸動脈や椎骨-脳底動脈などに起きた動脈硬化の強い部分に血小板が付着し,しだいに大きくなって白色血栓となり,これがはがれて血流にのって末梢の脳動脈に達し,これを閉鎖してしまう血栓栓塞が多いとされている。血小板血栓の塞栓では,短時間で溶けて,動脈は再開通するのが普通なので,これに伴って神経症状もすぐ回復する。ほかに小さな脳内出血や,脳動脈の一時的な攣縮(れんしゆく)が原因となる場合もあり,脳動静脈奇形やもやもや病でも,同様の一過性脳虚血発作を生ずることがある。このような一過性脳虚血発作は大きな脳梗塞の前ぶれであることが多いので,症状がなくなったからと軽視せずに,発作が起こったときは医師の診断を受ける必要がある。
執筆者:

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知恵蔵mini 「一過性脳虚血発作」の解説

一過性脳虚血発作

脳の血流が悪くなることで起こる一時的な脳機能障害。TIAと略される。めまい、吐き気、運動麻痺、感覚障害などの症状が現れ、数分から24時間以内に一旦症状が完全に消失するが、繰り返し発症することで脳梗塞を併発する恐れがある。米国の医学誌JAMA(2000年)とStroke(2004年)に掲載された研究結果によると、治療をせずに放置した場合、3カ月以内に15~20%が脳梗塞を発症し、そのうち半数は発作後数日以内に脳梗塞を発症するとされており、早めに受診して検査を受けることが望ましい。加齢による動脈硬化や糖尿病、高血圧などで血管がダメージを受けることで発症リスクが高まる。

(2013-6-14)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「一過性脳虚血発作」の意味・わかりやすい解説

一過性脳虚血発作
いっかせいのうきょけつほっさ
transient cerebral ischemic attack

脳卒中の前触れといえるもので,症状は 24時間以内に完全に消失するが,脳梗塞 (こうそく) に移行する確率が非常に高いので注意が必要。発作の起こる原因は,大きく分けて2通りあると考えられる。第1は内頸 (けい) 動脈と外頸動脈が分かれるあたりに動脈硬化が起き,ここからはがれた小さな血栓が脳内の動脈をふさいだ場合。この血栓はすぐに溶けて流れるため,症状は急速に改善する。第2は,太い動脈が詰まっているのに,迂回路ができているためにふだんは何も問題がない場合。この状態で,何らかの理由で血圧が下がったりすると血流が不十分になり,発作に至る。

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生活習慣病用語辞典 「一過性脳虚血発作」の解説

一過性脳虚血発作(TIA)

Transient Ischemic Attack。一時的に脳の血流が低下したり、小さな血栓による一時的な血管の閉塞によって一過性で神経症状が出現したりする病態です (定義では、症状が 24 時間以内に完全に消失するもの、とされています) 。主な症状は、「視野が狭くなる」「ろれつが回らない」「手から物を落としてしまう」などがあります。数分程度で症状が消えることもあれば、なかには数時間から 1 日近く続くこともあります。これは、脳梗塞のサインでもあります。

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世界大百科事典(旧版)内の一過性脳虚血発作の言及

【脳梗塞】より

…高齢者に多く,症状は徐々に発現し,段階的に進んでいくことが多い。また前駆症状として一過性脳虚血発作を伴うことも多い。発作は睡眠中あるいは起床時におこりやすく,半身麻痺,失語症などの巣症状に比べて意識障害は比較的軽い。…

※「一過性脳虚血発作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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