デジタル大辞泉
「下肢静脈瘤」の意味・読み・例文・類語
かし‐じょうみゃくりゅう〔‐ジヤウミヤクリウ〕【下肢静脈×瘤】
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下肢静脈瘤
どんな病気でしょうか?
●おもな症状と経過
下肢(かし)、とくにひざから足首までの体表近くの静脈が拡張し、不規則に曲がりくねって、こぶのようになった状態を下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)といいます。
長時間立ち続けたあとなどに、足のだるさや疲れ、焼けるような不快感、痛み、むくみなどが現れます。急に悪化することはあまりありませんが、重症の場合は血栓性静脈炎(けっせんせいじょうみゃくえん)を併発することもあります。静脈瘤の周辺の皮膚が炎症をおこし、赤く腫(は)れたり、湿疹(しっしん)、色素沈着、潰瘍(かいよう)が生じたり、押すと痛みを感じたりします。
静脈瘤の大きさと症状はあまり関係なく、こぶが大きくても無症状の人もいます。ただ、美容上の問題もあるので、症状がなくても治療を希望する人もいます。
深部静脈血栓症や骨盤内の腫瘍に伴っておこることもあります。この場合は、通常の治療だけでは静脈瘤を解決することは難しく、うっ滞の原因となっている病気を治療する必要があります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
仕事などで長時間立っていると、重力により下肢に血液がたまりやすく、静脈の壁に大きな圧がかかります。壁が弱いとその圧に負けて静脈壁が拡張してきます。静脈には血液の逆流を防止する静脈弁がついていますが、静脈が拡張すると弁がうまく閉じられず、一部の血液が逆流して静脈内に血液が滞り(うっ滞)、血管が拡張して静脈瘤が発生します。
下肢の体表近くにある静脈を流れる血液は、深部にある静脈にかえっていきます。その深部静脈にできた血のかたまり(深部静脈血栓)がうっ滞の原因になって、静脈瘤ができることもあります。静脈の血流は骨盤の中に戻りますが、骨盤内の腫瘍が静脈を圧迫すると血流が妨げられ、結果的に下肢の静脈がうっ滞することもあります。(1)
●病気の特徴
30歳~40歳以上の女性に比較的多い病気です。体質的に静脈の壁や弁が弱いと、この病気になりやすいと考えられています。立ち仕事、妊娠、骨盤内腫瘍、深部静脈血栓症、血液が固まりやすい先天的な病気が原因で発症することもあります。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]弾性包帯や弾性ストッキングで圧迫療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 圧迫療法は、下肢静脈瘤の初期治療の中でもっともよく用いられる方法です。圧迫により静脈還流(心臓へ戻る血液)の量を増加させることで、循環不全が改善すると考えられています。症状の改善効果は示されていますが、治療効果を検討した良質な臨床研究はまだ多くありません。(2)
[治療とケア]硬化療法(こうかりょうほう)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 静脈内に薬剤を注入して拡張した血管を線維化(せんいか)し、血管をつぶす(退縮(たいしゅく)させる)方法です。小さな静脈瘤に対して用いられる方法ですが、その効果はまだ質の高い臨床研究では確認されていません。(3)
[治療とケア]結紮術併用硬化療法(けっさつじゅつへいようこうかりょうほう)を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 血液の逆流がおこっている部分を医療用の糸でしばって閉じるのが静脈結紮術です。大伏在(だいふくざい)静脈に中等度以上の逆流のある患者さんで行われます。結紮だけでは再発する可能性があるので、硬化療法が併用されることがほとんどです。
[治療とケア]静脈抜去術(じょうみゃくばっきょじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] こぶができている静脈を抜き取るのが静脈抜去術です。患者さんにとってはかなりの苦痛を伴う治療です。硬化療法や結紮術よりも良好な結果が得られた臨床研究がいくつかあり、表在静脈(皮膚表面に近い静脈)に限局した静脈瘤に有効と考えられています。(4)
薬物療法はありません
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
慢性的に経過する病気
下肢の静脈が拡張し、曲がりくねってこぶのように膨らんだ状態が下肢静脈瘤で、下肢のだるさや痛み、むくみなどの症状がみられます。急に悪化することはあまりありませんが、少しずつ進行していきます。
悪性ではありませんが完治は難しい病気で、進行をくい止めたり、症状を取り除いたりすることが、治療の目標となります。うっ滞を引きおこすような病気が下肢静脈瘤の原因となっていることがあり、この場合はその病気の治療が優先されます。
症状の重さによって治療法を選択する
症状の重さで、圧迫療法、硬化療法、結紮術併用硬化療法、静脈抜去術などが順次選択されます。症状が軽度から中等度の場合は、弾性ストッキングによる圧迫療法だけで軽快することもあります。色素沈着がひどく、皮膚炎や潰瘍などをおこしている重症の場合は、手術が必要となります。
現在は専門家の経験則から最善の治療を選択
下肢静脈瘤の治療法については非常に信頼性の高い臨床研究はまだ少なく、科学的根拠に基づいた治療法はまだ確立されていません。そのため、現在は患者さんの負担(身体的、精神的、経済的)のもっとも少ないものから試してみる、といった専門家の経験則にしたがい治療法が選択されています。(1)日本皮膚科学会. 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン
(2)Shingler S, Robertson L, Boghossian S, Stewart M. Compression stockings for the initial treatment of varicose veins in patients without venous ulceration. Cochrane Database Syst Rev. 2013;12:CD008819.
(3)Tisi PV, Beverley C, Rees A. Injection sclerotherapy for varicose veins. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Oct 18;(4):CD001732.
(4)Rutgers PH, Kitslaar PJ. Randomized trial of stripping versus high ligation combined with sclerotherapy in the treatment of the incompetent greater saphenous vein. Am J Surg. 1994;168:311-315.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
家庭医学館
「下肢静脈瘤」の解説
かしじょうみゃくりゅう【下肢静脈瘤 Varicose Vein of Lower Extremity】
[どんな病気か]
立っているときに下肢(かし)(足)の表在静脈(ひょうざいじょうみゃく)(皮膚近くにある静脈)に血液がたまり、血管が蛇行(だこう)したり、こぶ(瘤)のようにふくれ上がる病気です。
血液は、心臓から動脈を通って全身へ送られ、静脈を通って再び心臓へもどります。動脈血は心臓から高い圧力で押し出されますが、静脈血は心臓の吸引力、筋肉のポンプ作用、静脈弁のはたらきによって効率的に還流(かんりゅう)されます。四肢(しし)(手足)の静脈には、深部を走る静脈(深部静脈(しんぶじょうみゃく))、表面を走る静脈、そしてこれらを結ぶ交通枝(こうつうし)の3系統があります。
歩行などリズミカルな運動を行なうと、下肢の筋肉が収縮したときに筋膜(きんまく)でおおわれている筋肉群がポンプの役目をはたして静脈血を心臓のほうへ押し上げ、緩んだときに表在静脈から交通枝を通って深部静脈に流れ込みます。静脈内には、一方通行の弁がところどころにあり、上がってきた血液と表面から深部に流れ込んできた血液が逆流しないようにしています。
ところが、表在静脈内の弁が故障すると、深部静脈を上がってきた血液が深部静脈と表在静脈の合流点から表在静脈のほうへ逆流してしまいます。交通枝の弁が故障しても、深部から表在への逆流現象がおこります。その結果、表在静脈がうっ血(血液がたまった状態)をおこします。
この現象が長い年月続くと、表在静脈は拡張して蛇行するようになり、皮膚表面に瘤のような異様な形が浮き上がって見えるようになります。これが静脈瘤(じょうみゃくりゅう)で、男性よりも女性に多くみられます。
[症状]
下肢に静脈血がうっ滞しているために、長時間立ち続けると下肢がむくみ、重だるくなったり、突っ張ったりします。静脈が拡張蛇行している場所が痛むこともあります。また、夜間睡眠中に「こむら返り」(下肢の筋肉のけいれん)がしばしばみられます。一般に血液のうっ滞症状は血流量の増加する夏に強くなります。
年月がたって病態が進行すると、うっ滞した血液成分が静脈から皮膚にしみだし、皮膚に褐色の色素沈着がみられるようになります。放置しておくと、色素沈着をおこした部分に湿疹(しっしん)(静脈性湿疹(じょうみゃくせいしっしん))ができてかゆくなり、さらに進行すると潰瘍(かいよう)になります。これを下腿潰瘍(かたいかいよう)といいます。ふくらはぎの下3分の1のあたりの内側部分によくできます。
[原因]
表在静脈と交通枝の弁の異常がおもな原因です。加齢によって静脈の壁がもろくなることも原因の1つと考えられています。
深部静脈に血栓(けっせん)(血のかたまり)ができる深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)でも、表在静脈に静脈瘤ができることがあります。これを二次性静脈瘤(にじせいじょうみゃくりゅう)といいます。
長時間立ち続けなければならない職業の人によくおこります。女性では妊娠、分娩(ぶんべん)(とくに2回目以降)がきっかけになることが多いようです。これは、妊娠で大きくなった子宮で骨盤内の静脈が圧迫され、そこから下の静脈にうっ血がおこるためと考えられています。
親子で静脈瘤がみられることもときにあります。これは遺伝的な素因(静脈の弁や壁のもろさ)が原因だと考えられています。
[検査と診断]
超音波検査や静脈に造影剤を注射してX線写真をとる方法(静脈造影(じょうみゃくぞうえい))を行なって、血液が逆流している場所を確認します。これは外科治療を行なうときや二次性静脈瘤と区別するためにたいせつな検査です。
静脈圧を測定して、下肢の血液うっ滞の程度を調べることもあります(コラム「静脈の血圧」)。
[治療]
症状がないとき、あるいは軽いだるさやむくみだけの場合は、夜間就寝時に足を少し高くし、弾力包帯や弾力ストッキングを装着します。弾力包帯による圧迫は、個人差が大きく、また緩みやすいので、弾力ストッキングのほうが便利です。静脈瘤の治療用には、中圧(足関節部での圧迫力が30~40mmHg程度)のストッキングが用いられています。
かゆみや痛みをともなうなど症状が強い場合は、積極的な治療を行ないます。従来は、拡張蛇行した静脈を縛るか抜去(ばっきょ)する手術(ストリッピング術)、異常な弁を修繕する手術などが行なわれてきました。しかし、入院が必要となったり、手術の傷跡が残るなどの理由から、ためらう人も多いようです。最近では軽度から中等度の症例に対しては、拡張した血管の中に硬化剤を注入して固めてしまう硬化療法(こうかりょうほう)が行なわれるようになりました。
硬化療法は、手術治療と比較すると、再発が多いこと、治療後軽度の血栓形成があること、色素沈着がみられるなどの欠点もありますが、外来で治療でき、短時間ですむため、硬化療法を行なう医療機関はさらに増えると思われます。現在では、保険で治療できます。
瘤化(りゅうか)した静脈は役に立たず、むしろ支障をきたすため、取り去るか固めてしまうほうがよいのです。それによる障害もほとんどありません(表在静脈を通って心臓へもどる血液は、全体の1割程度のため)。
ただし、深部静脈血栓症(「深部静脈血栓症」)にともなう二次性の静脈瘤には、注意しなければなりません。これは拡張した表在血管が側副血行路(そくふくけっこうろ)(バイパス血管)になっているため、つぶすわけにはいかないからです。
手術治療は外科(とくに血管外科)で、硬化療法は血管外科のほか、皮膚科や血管内科で行なうところもあります。
[予防]
予防のためには、①長時間立っていることを避ける、②立っているときには、弾力ストッキングを着用する(予防のためならば弱圧でもよい)、③就寝時には下肢を枕(まくら)2つ分ほど高くして寝る、の3つを励行(れいこう)しましょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
下肢静脈瘤(静脈系疾患)
(2)下肢静脈瘤(varicose vein)
定義・概念
下肢表在静脈に血液がうっ滞し静脈が拡張,蛇行し顕著に確認できるようになったものを下肢静脈瘤という(図5-17-7).
分類
表在静脈自体の機能不全によりうっ滞が生じたものを一次性静脈瘤といい,深部静脈血栓症などで表在静脈の血流が増したため生じたものを二次性静脈瘤という.治療方針が異なるためこの鑑別診断は重要である.
原因・病因
静脈には重力に逆らって血液を心臓まで戻すため各所に逆流防止弁が備わっている.しかしこの弁不全から静脈血逆流が生じると血液のうっ滞による症状を呈するようになる(一次性静脈瘤).深部静脈血栓症が起こると下肢の静脈血の多くは伏在静脈により体幹に戻るようになり,その血流量増加により静脈の拡張が生じるのが二次性静脈瘤である.
臨床症状
外見上表在静脈の拡張,蛇行が認められる.皮膚の色素沈着,浮腫,潰瘍形成なども生じることがある.高度なうっ滞になると皮膚症状が中心となりかえって静脈瘤が目立たなくなることもあり,診断に難渋することもある(図5-17-8).自覚症状としては足のだるさ,こむらがえり,かゆみなどが生じる.表在静脈瘤の炎症,血栓形成を伴うと疼痛を生じることもある.
診断
静脈瘤がはっきりしていれば診断は容易である.ただその原因をきちんと知り治療方針を立てるには静脈超音波検査が必要である.表在静脈の逆流の程度,部位を知ることとともに深部静脈血栓症の有無も確認しなければならない.
治療
1)保存的治療:
静脈瘤による症状の緩和,進行予防には弾性ストッキングが用いられる.足部から膝下,もしくは大腿部までを締め付けて静脈環流をよくするものである.着用時の症状改善効果はあるが,これだけでは静脈瘤の根治は期待できない.しかし二次性静脈瘤ではこの対症療法が唯一の症状改善策となる.
2)手術療法:
一次性静脈瘤の治療の基本は原因となっている不全静脈の逆流阻止である.以前は伏在静脈起始部の結紮,切離を行う高位結紮術や静脈瘤に硬化剤を注入する硬化療法がさかんに行われてきたが,再発率が多いことが判明し,現在は補助的に使用されるにとどまっている.古くから根治的で再発率も低いとされてきたのが伏在静脈ストリッピング術(抜去術)である.逆流の高度な伏在静脈を中枢,末梢側で露出させ静脈内にワイヤーを通し,ワイヤーごと抜去する方法である.以前は入院のうえ全身麻酔で行っていたが,最近は局所麻酔のみの日帰り手術で行われることも多くなった.近年より低侵襲に行うことができるのがエンドレーザー手術(血管内静脈焼灼術)である.伏在静脈を穿刺しカテーテルを挿入して内部よりレーザーで静脈を焼灼して閉塞させてしまう方法で,日帰りで可能な手術として広まりつつある.[駒井宏好]
■文献
星野俊一,平井正文,他編:静脈疾患診療の実際,文光堂,東京,1999.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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