南北アメリカ大陸をつなぐ狭長な地域の総称。地理的にはテワンテペック地峡からパナマ地峡までをいうが、普通、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマの7か国をさす。メキシコおよび西インド諸島を加えて中部アメリカということもある。南北アメリカの中央に位置するという単に地理的位置を示す便宜的名称にとどまらず、自然地理的には両大陸を結ぶ地峡部分を構成している。この地峡部分に位置する7か国のなかでベリーズを除く6か国を、普通は中米諸国として扱う。それは6か国が300年に及ぶスペイン植民地時代という歴史を共有していることに負うところが大きい。なおベリーズは1981年にイギリスから独立した新興国であり、地理的にもカリブ海地域に含めるのが普通である。7か国を合わせた総面積約52万2000平方キロメートル、人口約2698万(1996)。
[栗原尚子・国本伊代]
地質構造的には環太平洋造山帯の一部である新期造山帯に属し、脊梁(せきりょう)山脈は二つの山系に分かれる。一つはユカタン半島南部からホンジュラス、ニカラグア北東部を東西に連なり、アンティル諸島に続く山脈である。もう一つはニカラグア湖南方からパナマ地峡まで太平洋岸に連なり、アンデス山脈に続く山脈である。両山脈あわせて約600の火山を数え、1902年のサンタ・マリア火山(グアテマラ南西部)の噴火では6000人の犠牲者を出したといわれる。平地は、ホンジュラスからニカラグアに連なる山脈の南部と東部に広がる高原、ニカラグア低地(二つの脊梁山脈によって分けられる地溝帯)、山間部盆地があり、火山堆積(たいせき)物に覆われた肥沃(ひよく)な農業地帯となっている。カリブ海沿岸の堆積平野は、大半がジャングルで開発は進んでいない。
気候は、太平洋沿岸の熱帯サバナ気候地域、カリブ海沿岸の北東貿易風卓越地域、高原や山間部の温和な気候地域の三つに大別される。熱帯に属するにもかかわらず、高原や山間盆地ではより年較差の小さい温和な気候となり、その主要部は標高1000~1500メートルに位置している。
[栗原尚子・国本伊代]
人口は、グアテマラの1198万6558(2002)からベリーズの24万0204(2000)まで幅があるが、コスタリカをのぞく中米5か国は400万を超え、ラテンアメリカでは中位の規模となっている。人口密度は、エルサルバドルが1平方キロメートル当り約240人(2000推計)と高いが、その他は1平方キロメートル当り10~100人とかなり低い。しかし、人口増加率をみると、ホンジュラス、グアテマラ、コスタリカが年率3%前後(1996)と、高い増加率を示している。
人種構成は、この地域の歴史を反映して多様である。グアテマラは、キチェ人などのマヤ系先住民の人口比率が50%を超え、ボリビア、ペルー、エクアドルとともにラテンアメリカで先住民人口の高い国である。白人は、50%を超すコスタリカを例外として、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、パナマで10%強、黒人はベリーズで30%強、パナマで10%強となっており、多くの国でメスティソ(混血)が大部分を占めている。このような人種構成は社会的階層と対応し、上層は白人、中間層は白人とメスティソの一部、下層はメスティソの大部分とインディオ、黒人となっており、各人種の間で複雑な対立がある。
[栗原尚子・国本伊代]
1522年、スペインの探検家アルバラドPedro de Alvaradoのグアテマラ征服以後、この地域はスペイン領に組み込まれ、1541年のグアテマラ総監府の創設とともに、メキシコ南部と中米5か国(パナマを除く)はその管轄下に置かれた。1821年のグアテマラの独立によって、他の4か国もスペインの植民地支配を脱した。1822~1823年にはイツルビデの率いるメキシコ帝国に併合されたが、同帝国の崩壊後の1824年、中米5か国は中央アメリカ連邦共和国を創設した。しかし各国の利害対立が強く、同連邦共和国は短期日で崩壊した。このような歴史的経緯をもとに1961年中米共同市場(CACM)が発足し、単一市場形成による経済発展の推進が試みられた。1960年代末までに域内の貿易は90%以上自由化され、経済統合の成果をあげた。しかし1969年のサッカー戦争によるエルサルバドルとホンジュラスの対立、1979年に勃発(ぼっぱつ)したニカラグア革命に端を発する1980年代の中米紛争は、この地域の経済活動に大きな打撃を与えた。1987年の中米和平合意と1996年のグアテマラ内戦の終結によって、中米諸国は経済の再建に取り組みはじめたところである。
[栗原尚子・国本伊代]
1960年代に急成長を遂げた域内の経済は、中米紛争によって大きく後退し、「失われた十年」とよばれた1980年代には、マイナス成長を記録した。しかし1990年代に入ってからは、ニカラグアを除くと、順調な経済発展を続けている。1993年には新たな中米経済統合条約が締結された。コーヒー、ワタ、バナナ、牛肉、砂糖の伝統的な主要農牧産品は依然として重要な地位を占めているが、近年ニカラグアを除く国々の工業の成長が著しい。輸出に占める工業製品の割合は、エルサルバドルの40%以上を筆頭に、グアテマラの30%前後、コスタリカの25%前後など、伸びている。
[栗原尚子・国本伊代]
北アメリカ大陸と南アメリカ大陸とをつなぐ地峡部を指す名称で,グアテマラ,ベリーズ,エルサルバドル,ホンジュラス,ニカラグア,コスタリカ,パナマの7ヵ国からなる。近年では,さらにメキシコを加えて中部アメリカ(Middle America)と呼ぶことも多くなっている。カリブ海と太平洋にはさまれ,面積は52万3000km2,総人口は2000万に近い。
南北両大陸から走る二つの山系が脊梁山脈をなし,さらにそこにアンティル諸島からのびる山脈が入りこんでいるため,山地の地形は錯綜している。火山がきわめて多く,地震が多発し,ときに大きな人的被害を招くことがある。太平洋岸は一般に山地が海に迫っているが,カリブ海側には平野のひろがりも見られ,河川がよく発達していることがある。ニカラグア湖やマナグア湖を抱く盆地も各所に形成されている。
地形が複雑なため,気候も多様である。熱帯圏内にあるので低地では高温多湿が一般的で,高地は亜熱帯から温帯気候になる。したがって人口の多くは高地に集中している。高度に関係なく気温の年較差は小さい。6~10月が雨季,10~5月が乾季となるが,カリブ海側では年間を通して降水量が多く,最高年5000mmを超えることがある。その他の地域は1000~2000mm程度である。カリブ海側の北部では,ハリケーンの襲来がみられる。地形や気候の多様さに応じて,植物相も変化に富んでおり,カリブ海側はパナマにいたるまで熱帯降雨林帯がひろがり,低湿地にはマングローブ林が茂っている。太平洋岸と高地には熱帯性の森林やサバンナが,800m以上の高地になると温帯性林や高山性の植物相がある。大型の動物は少ないが,爬虫類や鳥類は豊富である。土地は火山灰に広く覆われており,表層面では肥沃であるが,多雨地域では土壌浸食が深刻である。水資源に恵まれているが,その開発はまだ遅れている。鉱物資源には未探査のものが多いが,あまり恵まれていない。ニカラグアは金を産出し,グアテマラでは鉛や亜鉛が生産されている。
スペイン人が到来する以前に,この地域には原住民種族がいくつも存在していた。北部はメソアメリカ文化圏に属し,なかでもマヤ系の影響はエルサルバドルにまで及んでいる。彼らはグアテマラにティカルをはじめとする遺跡を残している。南部には南アメリカ大陸とつながるチブチャ族が住む。しかし,現在この地域の人口の3分の2は,スペイン系白人と原住民との混血(メスティソ)が占めている。原住民比率が最も高い国はグアテマラであり,エルサルバドルやホンジュラスでは混血の比重が大きい。コスタリカでは白人人口が圧倒的である。さらに黒人や少数のアジア系住民もおり,人種構成は国ごとに一様でない。ほとんどの国でスペイン語が公用語とされているが(ベリーズは英語),多くの原住民言語が存続している。宗教はカトリックがほとんどであり,またベリーズでは英国国教会やメソディスト系教会もかなりの勢力をもっている。経済活動の中心は農業と牧畜にあり,主食のトウモロコシや米,根菜類,それに輸出用作物としてバナナ,コーヒー,綿花が生産される。輸出用作物はおもにプランテーション型の農園によっている。マホガニーや松などの林産物も,古くから輸出されている。工業は消費財生産が主であるが,近年しだいに国民総生産のなかで占める割合が大きくなりつつある。工業化はエルサルバドルで最も進んでいる。
また先スペイン期に多彩な原住民文化が存在したこの地域は,征服後はグアテマラ総督領の支配下におかれ(パナマを除く),スペイン文化が輸入されたために独自の文化が失われ,農産物の生産地となった。同総督領は1821年に独立し,その後23年に中央アメリカ連邦が結成された。しかし分離主義勢力の台頭が目ざましく,39年に連邦は解体し,グアテマラ,エルサルバドル,ニカラグア,ホンジュラス,コスタリカの5共和国となった。19世紀前半にコスタリカで始まったコーヒー栽培は,60年代からグアテマラで本格的な栽培が開始され,20世紀初めにはこの地域の最も重要な輸出産品となった。一方,バナナも70年代にコスタリカで栽培が始まり,20世紀にはいるとアメリカのユナイテッド・フルーツ社によってパナマやコロンビアにも及ぶバナナ産業が発展した。この時期に中央アメリカ諸国で政権についた自由主義派の政府によって,アメリカ資本の積極的導入と近代化がはかられたのである。パナマは1903年にコロンビアから独立し,アメリカ合衆国はパナマ運河を確保することになった。81年にはベリーズの独立が達成されている。多くの国で富の少数者への集中や地方主義がみられ,国境問題が解決されていないため,政治的には不安定な状態がつづいてきた。地域統合の重要な一歩前進となるとみられていた中米共同市場(CACM)は1963年に正式発足し,域内の共通関税や貿易自由化を促進したが,69年のホンジュラスとエルサルバドルの間での〈サッカー戦争〉のため,事実上機能を停止している。79年7月にニカラグアで長期にわたった独裁政権が倒れ,左派のサンディニスタ(サンディニスタ運動)が権力を握っており,グアテマラやエルサルバドルでも内戦が深刻化した。アメリカはレーガン政権になってから中央アメリカへの介入を強化しており,このため政治的な不安定状態がさらに深刻になっている。
執筆者:山崎 カヲル
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…面積は約4200万km2で,そのうち北アメリカが約2400万km2,南アメリカが約1800万km2である。一般にグアテマラからパナマまでを中央アメリカCentral America,中央アメリカとメキシコとカリブ海諸島とを中部アメリカMiddle Americaと呼ぶこともある。また,文化史的観点から,アングロ・サクソン民族の文化的伝統が強いアメリカ合衆国以北のアングロ・アメリカと,スペイン,ポルトガルのそれが強いメキシコ以南のラテン・アメリカとに区分することもある。…
…面積は約4200万km2で,そのうち北アメリカが約2400万km2,南アメリカが約1800万km2である。一般にグアテマラからパナマまでを中央アメリカCentral America,中央アメリカとメキシコとカリブ海諸島とを中部アメリカMiddle Americaと呼ぶこともある。また,文化史的観点から,アングロ・サクソン民族の文化的伝統が強いアメリカ合衆国以北のアングロ・アメリカと,スペイン,ポルトガルのそれが強いメキシコ以南のラテン・アメリカとに区分することもある。…
※「中央アメリカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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