日本大百科全書(ニッポニカ) 「事務管理(法律)」の意味・わかりやすい解説
事務管理(法律)
じむかんり
法律上の義務がないのに他人の事務を処理する行為。頼まれないのに不在者の家屋を修理したり、立替え払いをするのがこれにあたる。人は求められないのにあえて他人の事務に関与するならば、不法行為者として損害賠償義務を負うことになる。しかし、この原則を厳格に貫くならば、人は必要な場合にも他人の事務に関与しなくなるであろう。そこで、民法は、一定の要件のもとに、事務管理者の行為を適法なものとし、管理者と本人との間に一定の権利義務関係の発生を認めた。これが事務管理制度である。事務管理が開始されると、管理者は、管理開始の通知義務(699条)、管理継続の義務(700条)などを負い、本人は費用償還義務などを負う(そのほか委任に関する645条~647条の規定が、701条により準用される)。なお、管理者は、善良なる管理者の注意をもって管理することを要し、注意を欠くと債務不履行として損害賠償責任を負うが、本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を免れしめるために事務の管理をなす場合(緊急事務管理)には、注意義務が軽減され、悪意または重大な過失がある場合のほかは損害賠償責任を負わない(698条)。
[淡路剛久]