同一の課税物件に同一または同種の租税が重複して課税されること。税制において二重課税の問題は二つの段階で生ずる。一つは利子所得あるいは貯蓄に対する課税に伴う問題であり,以下のような内容である。貯蓄は所得から消費を差し引いたものであり,その元本は所得である。所得はすでに所得税によって課税されているから,所得を原資としてなされた貯蓄が生み出す利子所得に課税することは二重課税である。貯蓄二重課税論に対して,正統的な租税論は次のような反論を用意する。国民経済計算において,利子所得は勤労所得その他とならんで分配国民所得を構成する立派な一項目である。他の所得項目とは性質を異にする利子所得に対して課税することは,なんら二重課税を意味するものではない。貯蓄二重課税論をめぐるこのような対立は,所得を〈人的分配〉でとらえるのか〈機能的分配〉でとらえるのかの相違に基づくものである。この対立に関して理論的な決着がつけられたわけではなく,現在でも論争が続いている。とくに,同じ所得水準の人でもより多く貯蓄する者が余分の税負担をすることになり,水平的公平が阻害されるという意見が二重課税論には根強い。この観点から,所得ではなく消費支出を課税ベースにすべきであるという主張が,古くはJ.S.ミル,I.フィッシャーから最近ではN.カルドアに至るまで,なされてきた。
いま一つは配当所得に対する個人所得税と法人所得税の二重課税の問題である。法人所得は内部留保と配当に分けられるが,両者が課税される場合には配当分が二重課税される。その理由は,個人株主に分配された配当所得が個人所得税によって再び課税されるからである。もちろん,内部留保分に対してもそれを将来の配当の繰延べと理解する限り,二重課税の問題の余地はありうる。この二重課税の問題を完全に回避しようとすれば,すべての所得税を個人の段階で課税しなければならず,法人税は廃止しなければならないことになる。しかしこれは税務行政上困難であり,現実にはインピュテーション方式,あるいは配当軽課方式等で二重課税の問題を部分的に回避する方法が採用されている。
執筆者:本間 正明
ドイツ語ではinternationale Doppelbesteuerung。国際的な二重課税とは,同一の物件(所得)に対し2国以上の課税権が競合して適用されることをいう。各国の租税制度はその国々の政治的・経済的・社会的諸条件を背景に,それぞれ独自の発達を示してきている。そうした租税制度に立脚して,各国はそれぞれ固有の課税権を排他的にまた普遍的に行使することを当然と考える。ここに必然的に国際的な二重課税問題が発生する。
国際的二重課税の発生態様にはいろいろあるが,典型的な事例は居住地国課税residence jurisdictionと源泉地国課税source jurisdictionとが競合する場合である。これは,A国の居住者がB国に源泉のある所得を得る場合に発生するものであって,たとえば,日本法人がアメリカ国内で事業所得を稼得するとか,またはアメリカ源泉の配当,利子などの投資所得を取得するような場合には,アメリカで法人所得税が課される(源泉地国課税)ほか,日本でもこれらの所得に対し法人税が課税される(居住地国課税)。
租税条約は,少なくとも現在までのところ,この居住地国課税と源泉地国課税との競合問題の解決に最大の努力を払ってきているということができる。この場合二重課税の解決方法は,所得の類型別に,(1)居住地国(個人や企業の本国)のみに課税権を与えるか,(2)源泉地国(所得の稼得地など源泉のある国)のみに課税権を与えるか,(3)双方に課税権を認めるが,源泉地国は租税条約上明定された課税権の範囲内で,またしばしば条約上制限された税率(限度税率)のもとにこれを行使し,居住地国はその所得に対し外国で課された税額につき外国税額控除(国によっては当該外国所得を免税とする)を適用するか,のいずれかによるということになる。
国際二重課税を排除するには,所得に対し所得の稼得地(源泉地国)ではなく,個人や企業の本国(居住地国)でのみ課税するという方法,すなわち上記(1)を採ることが望ましいであろうが,すべての所得につきこの方法を採用することは至難である。というのは,この方法によると,源泉地国の税収のすべてを居住地国が一方的に奪い取ることになるので,とくに発展途上国側の納得はとうてい得られそうもないからである。そこで,日本が締結した租税条約のもとでは,出張等で相手国におもむく短期滞在者(駐在員)の給与,国際運輸業所得,動産のキャピタル・ゲイン(譲渡所得)を含む一時的な所得などは(1)によるのを原則とするが,事業所得や利子,配当,使用料(ローヤルティ等)の投資所得など大部分の所得は(3)によって処理されてきている。(2)による解決策は日本が締結した租税条約にはみられない。(3)はもちろん妥協策であるが,この場合においても相互に,用語の意義,所得の源泉地および控除を認められるべき費用を含めた課税標準の統一を図るほか,課税率そのものをも可能な限り引き下げることを要する。これらはもちろん租税条約によってのみ可能となるが,こうした基盤の整備をまって,日本の法人税相当額というように,一定の金額を限度として外国に納付した税額を自国での納付税額から控除する外国税額控除のメカニズムも有効に働き,二重課税となる可能性もより少なくなる。
執筆者:小松 芳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
物やサービスなどに二つ以上の税金がかかっていること。同一の納税者や同一の取引・事業に対し、同種の租税が重複して課税される状態をさす。二重税、重複課税、タックス・オン・タックスともいい、日本だけでなく世界各国で問題になっている。二重課税の典型的な例としては、法人税を課した後の利益から支払う配当にふたたび所得税がかかるケース(配当二重課税)、ガソリン、酒、たばこ、自動車、不動産などには品目ごとにかかる個別間接税がある上に消費税が一律にかかるケース(個別間接税との二重課税)、生命保険金を年金払いで受け取る場合に相続税と所得税の両方がかかるケース、企業や個人が外国で稼いだ所得などに外国と本国の両方で課税されるケース(海外との二重課税)などがある。
配当二重課税については、日本では、個人が給与など他の所得と合算する総合課税を選ぶことにより配当控除が受けられる仕組みがある。欧米では、企業への法人税分を加味して個人株主に対する所得税を調整する手法をとっている。個別間接税との二重課税では、消費税率の引上げに伴い、各関連業界から税負担が重過ぎるとして見直しを求める声が上がっている。このうち自動車取得税については、消費税率が10%に上がった段階(2019年10月)で、廃止された。2か国以上から課税される二重課税は、技術使用料や特許料など価値算定がむずかしい取引で生じやすい。日本の税務当局は、2019年(令和1)9月時点で132か国・地域と租税条約を結んでおり、民間企業が二重課税について異議申し立てをした場合、2国間の税務当局が相互協議を行い、合意すれば、一方の国が取りすぎた税金を還付して二重課税状態を解消できる仕組みがある。
[編集部 2019年12月13日]
…正称は〈二重課税の回避のための条約convention for the avoidance of double taxation〉。国際的な二重課税という税の障害を可能な限り回避または排除し,資本・技術および人的な国際交流の円滑化に資することを目的とした2国間条約(もっとも1958年3月22日,北欧(5ヵ国)多国間租税条約の調印をみた)をいう。…
…所得税制度の具体的内容によって調整方法は異なってくるが,多くの国においては,配当所得については所得の一部として所得税が課され,他方,留保所得については所得税を課されないという形態が一般的である。 法人所得の二重課税というのは,配当分について,法人税と所得税が二重に課される現象をさしている。やっかいなのは,法人税は基本的には比例税であり,他方,所得税は累進税であることである。…
※「二重課税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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