一国の輸入品と輸出品の交換比率(輸出品1単位と交換される輸入品の数量の比)をいう。たとえば、日本が乗用車1台を輸出してそれと交換に牛肉を1トン輸入するとすれば、そのような牛肉と乗用車の数量的な交換比率が、交易条件(より正確には商品交易条件)である。いままでと同じ1台の乗用車の輸出に対してより多くの数量(たとえば2トン)の牛肉が輸入されるように交換比率が変わる(すなわち国際市場で乗用車の価格よりも牛肉の価格のほうが相対的に安くなる)とき、日本の交易条件は有利になったという。ただし通常の貿易では、商品と商品が直接交換されるわけではなく、取引される商品の種類も多数であるから、交易条件は指数で表される。輸出と輸入が均衡する場合には、輸出品の数量に価格を乗じた輸出額は、輸入品の数量に価格を乗じた輸入額に等しくなるから、輸入品と輸出品の数量の比は、輸出品と輸入品の価格の比に等しい。そこで商品交易条件(指数)は、輸出品の価格指数を輸入品の価格指数で除した比で表される。輸出品の価格が輸入品のそれよりも相対的に高くなると、その国の交易条件は有利になり、その国の貿易の利益は大きくなる。
商品交易条件は一国の貿易の利益の変化を示す一つの指標として重要であるが、貿易の利益は輸出産業における生産性の変化や貿易量によっても影響を受けるので、その変化を知るための指標は、商品交易条件だけではかならずしも十分ではない。たとえば日本の自動車産業で労働生産性が4倍に上昇し、乗用車の輸出価格が2分の1に下落したとしよう。牛肉の輸入価格は不変であるとすれば、乗用車2台と牛肉1トンが交換されることになり、商品交易条件は日本に不利化する。しかし日本は、従前の2分の1の労働時間で生産した乗用車と交換に同じ量の牛肉を入手できるようになったという意味では、有利になったのである。このような生産要素面で交易条件をとらえるのが、生産要素交易条件である。1単位の輸出品の生産に投入される労働(生産要素)量の減少率は、労働生産性の上昇率で表される。したがって、牛肉1トンと乗用車1台の生産に投入される生産要素量の比の変化は、商品交易条件に輸出産業の生産性上昇率指数を乗じたものによって示される。それを単一生産要素交易条件といい、この例では、日本の生産要素交易条件は有利化しているのである。交易条件にはほかに二重生産要素交易条件、総交易条件、所得交易条件などがある。
なお、わが国では財務省により、通関統計に基づいた貿易価格指数から商品交易条件指数が作成されている。
[志田 明]
一国の輸出価格指数と輸入価格指数の比をとって,年々の変化をみるもの。通常,基準年次を100とした指数形式で表され,交易条件指数ともいう。輸出単価を輸入単価で割ると,輸出品1単位で輸入品何単位と交易されるかを表すことになるので,その年々の変化は貿易からの利益の増減の指標ともなる。つまり交易条件指数が上昇すれば輸出1単位で交易した輸入品の単位数が増えるので貿易利益が増加し,逆に低下すれば貿易利益が減少したというわけである。
日本の近年の輸出品の97%は工業品であり,輸入品の75%は石油等の原燃料だから,交易条件は工業品と原燃料の交易比率に近い動きになる。過去30年間,日本の交易条件指数は図のように目だって変化した。年々の数値は基準年次のとり方で変わってくるから,年々の変化だけに注目すればよい。日本の交易条件は1961年から65-66年までで20ポイントほど低下した後,72-73年までで15ポイント高まり,その後74年に40ポイント近く低下し,また79-80年の両年を合わせて同程度低下した。70年代の2度の急低下は第1次,第2次石油危機で原油価格が高騰したためであり,工業品1単位で買える原燃料単位数が低下したためである。ただ原燃料価格の高騰はやがてそれを投入して作られる工業品価格上昇になるから,いずれもその数年後に交易条件は上昇に転じている。
しかし,交易条件指数は厳密な貿易利益の指標ではない。そこで,いくつかの代替的な指数形式が考案されている。上の交易条件指数に輸出数量指数を乗じて一国の輸入能力の変化をみようとした所得交易条件や,上の交易条件指数に輸出生産での生産性指数を乗じて,生産要素1単位当りの輸入量の変化をみる生産要素交易条件等である。これに対して,はじめの交易条件は商品交易条件と呼ばれる。
執筆者:山沢 逸平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(室井義雄 専修大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…どれだけ消費が抑制されるかは,国内価格の上昇幅と需要の価格弾力性とに依存している。第4に,関税賦課が輸出国の供給価格を引き下げる場合には,課税国の交易条件(輸出財と輸入財の交換比率。通常は輸出物価指数を輸入物価指数で除した値)が改善される。…
※「交易条件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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