組織体が、自己の保有する人的資源の効率的利用を図るために行う一連の計画的・体系的施策。類似する語として労務管理があるが、両者の区分および関係について、絶対的に支配力をもつ説があるわけではない。しかし多くの説は、両者を包括するものとして広義の労務管理とし、人事管理を人的資源管理ないし労働力管理とするとともに、これと並立する狭義の労務管理においては、人的資源以外の人間的諸側面(生活者・社会的存在・主体的存在としての人間)を問題にし、この意味の人間に関する諸施策(福利厚生、人間関係、意思決定への参加など)を取り扱うとしている。
人事管理の具体的内容は、採用、配置、教育訓練、昇進、退職、賃金、安全、衛生、労働時間等の諸分野に及ぶ。
採用は、いかなる労働をさせるために人が必要なのかを明らかにする要員計画ないし人員計画を基礎にする。募集方法(公募、縁故など)、対象(新規学卒、中途採用など)、試験方法(学科、面接、適性検査、集団討議など)などは、採用の目的に即して選択されなければならない。少子化と高齢化の社会という現実は、長期人員計画の策定を不可欠にしている。採用された人間は一定の職場に配属されるが、配置は、必要数の人間を確保する量的配置と、資格要件に応じた適正な配置がなされる質的配置がともに満足させられなければならない。余剰人員の配置転換による雇用確保も、勤労意欲の点から重要である。
採用された人間がすべて期待される資質を具備しているとは限らないし、また不断の技術革新や情報化などの環境変化は、既存資質を陳腐化する。このためには、新人教育、再教育を含めた体系的教育訓練が必要である。終身雇用色の強い日本ではとくにそうである。各人の業績は、客観性のある公正な人事考課によって評価され、それに基づいて昇進、昇給、賞与が与えられなければならない。このため、合理的な昇進制度や資格制度が必要であり、それらの適正な運用は、各人に将来の希望を与えるうえできわめて重要である。
昇進は主として非物質的機会であり、社会的承認の欲求を満たす誘因となる。また賃金は、貢献に対する誘因の代表的なものである。日本においては、従来、年功序列型の昇進と賃金の制度が中心になってきたが、内外環境の変化は、これらの有効性を低下させ、能力主義の昇進と職務・業績に応じた賃金の必要を増大させつつある。この方向に進むには、基礎条件として、職務分析と職務評価を徹底し、職務を中心として能力開発、配置、業績評価、報酬を行う必要がある。
人的資源の長期効率的利用にとって、労働時間の問題はきわめて重要である。労働時間は大勢として短縮の方向にあり、週休2日制や夏休み制もかなり定着した。また労働時間の運用については、休憩時間の挿入や交替制の組み方について、労働科学などの成果を十分取り入れる必要がある。さらに、人的資源の効率的利用にとって、主体的条件を整備するだけでなく、作業条件とともに作業環境の快適化にも力を入れる必要がある。安全・衛生はその骨格となる。
人事管理の内容については、諸種の法律によって規制されている点が多い。法的、科学的に遺漏のないようにするため、専門的人事部門ないし担当者が望まれる。
[森本三男]
『長坂寛・守田峰子他著『人事・労務管理論』(1994・同文書院)』
企業その他の組織体における人的資源をいかに有効に管理するかが人事管理であって,組織体全体の経営管理の一環として,また人事管理自身をいくつかの部分システムからなる全体システムとして理解する必要がある。人事管理システムの中心は,配置→評価→処遇→配置のシステムで,日常の人事はこのシステムを中心に動いている。このシステムを有効にするには,配置・評価・処遇の各システムが確立していなければならない。また配置システムの前提には,意欲があり,適性・能力のある必要人員を保持するための要員管理システムが存在し,労働力の量と質および人件費予算の枠が決まる。この要員を充足するためには,採用→配置→解雇→採用のシステムが有効に働かなければならない。以上のシステムが人事管理システムの中心の流れであり,これらが有効に作用し合ってはじめて,人事管理が円滑に進められる。この中心的な人事管理システムと不即不離であり,これらのシステムに影響を与えるその他のおもなシステムがいくつか存在する。その一つは教育・訓練システムで,働く人々の能力開発に寄与する(企業内教育・訓練)。これと密接な関係にあるのが組織開発システムで,労働条件を含む組織体内社会の組織風土が,働く人々を生産的・意欲的にする状況をつくることをねらいとしている。しかも,組織開発と不可分の関係にあるのが労働慣行(日本独自の終身雇用,年功制など)および労使関係(企業別組合など)であり,人事管理システム全体の方向づけに影響を与える。人事管理は各システムの相互関係を通して,意欲的で適性・能力のある必要人員を雇用し,彼らをして生産的にすることである。
→経営・経営管理 →労務管理
執筆者:小野 豊明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本の人事管理の特質を言い表した言葉。日本の人事管理はきわめて特異な形をとって行われたといわれる。…
※「人事管理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加