人工的に化学合成された甘味料。食品添加物として使用を認められている非糖質系甘味料の合成甘味料と、糖質系甘味料の糖アルコールがこれに相当する。
先進国における砂糖資源の不足と過食による肥満を起因とする生活習慣病が問題となり、砂糖にかわる低カロリー甘味料の開発が進んだ。合成甘味料は、砂糖と比較して非常に甘味が強く、少量の使用で満足感が得られるため、摂取カロリーを抑えることができる。また、代謝にインスリンを必要としないため、摂取しても血糖値とインスリン分泌への影響がなく、体内で代謝されずそのまま排泄(はいせつ)されるものもある。このため、合成甘味料は、砂糖代替甘味料として糖尿病患者や肥満の人に利用されているが、近年の健康・ダイエット志向により増加している低カロリーやカロリーゼロの食品にも多く使用されている。
代表的な合成甘味料として、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどがある。アスパルテームを除いて、これらのエネルギーは1グラム当り0キロカロリーである。
サッカリンは、トルエンを原料として合成され、甘味の強さは砂糖の200~700倍である。水に溶けにくいため、水溶性のナトリウム塩やカルシウム塩として食品に利用される。アスパルテームは、アミノ酸のL-アスパラギン酸とL-フェニルアラニンを結合させたジペプチドをメチルエステルにしたもので、甘味の強さは砂糖の約200倍である。体内ではもとのアミノ酸に分解され、タンパク質と同様に吸収されるため、エネルギーは1グラム当り4キロカロリーである。加工食品に添加する際は、フェニルアラニンを分解できないフェニルケトン尿症の患者のためにフェニルアラニンを含有する旨の表示が義務づけられている。アセスルファムカリウムは酢酸を原料に合成され、甘味の強さは砂糖の約200倍、スクラロースは砂糖を原料に合成され、甘味の強さは砂糖の約600倍を示す。これらの甘味料はそれぞれの味質や特性を生かし、砂糖に近い自然な甘味に近づけるために複数を組み合わせて使用される例も多い。
完全な化学合成品ではないが、天然の糖を原料とする糖アルコールも食品添加物として広く用いられている。ソルビトールやキシリトールは、生体内では分解・吸収されにくい難消化性糖質で、エネルギーは砂糖と比較して25%低い(1グラム当り約3キロカロリー)。低カロリー甘味料、むし歯になりにくい甘味料、血糖値の上昇を抑制する特定保健用食品や機能性表示食品などに利用されている。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
2023年に世界保健機関(WHO)は、人工甘味料(ノンシュガー甘味料)の使用に関するガイドラインを新たに発表したが、人工甘味料の長期的な摂取による健康への影響は、まだ明確になっていないことも多い。
これまでに開発された人工甘味料のなかには、一度は食品添加物として指定されたが、のちにその安全性に疑いが生じたため指定から削除され、食品への添加が禁止されたものもある。ズルチンは、第二次世界大戦後の日本で広く流通したが、1966年(昭和41)に食中毒事件が起こり、肝機能障害や発がん性などの毒性が認められたため、1968年に指定から削除された。サイクラミン酸ナトリウム(通称、チクロ)は、1964年に日本でマウス胎児の発育阻害、1968年にアメリカで催奇形性の危険性が発表され、日本では1969年に指定から削除された。
また、サッカリンは日本でもっとも古くから使われている人工甘味料であり、1961年に食品添加物として指定された。一時、発がん性が疑われ、日本でも使用が禁止されたことがあるが、通常の使用量では吸収されても分解されず尿中へ排泄されることから、サッカリン自体に発がん性はないとされ、使用禁止は解除された。サッカリンおよびナトリウム塩・カルシウム塩は、対象食品ごとに最大使用量の使用基準がある。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
2023年、WHO傘下にある国際がん研究機関(IARC)が、アスパルテームを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」要因に分類したことを公表し、注目を集めた。これは、発がんの原因となるかどうかについての科学的根拠の強さを示すもので、アスパルテームの発がん性の強さやその摂取に基づく発がんリスクの大きさを示すものではない。
これと同時に、国連食糧農業機関(FAO)とWHOの合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は、実際にアスパルテームを摂取した際の健康への影響を評価し、アスパルテームの許容一日摂取量(対象の化合物を一生涯にわたり毎日摂取しても健康への悪影響がないと考えられる1日当りの摂取量)は、これまで設定されていた値(1日当り体重1キログラム当り0~40ミリグラム)が適切であるという結果を公表した。その理由として、アスパルテームの摂取がヒトに有害な影響を与えるという説得力のある根拠はなかったこと、アスパルテームは摂取後に消化管内で完全に加水分解され、一般的な食品の摂取後にも生じる代謝物(フェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノール)となるため、アスパルテームがそのまま全身循環に入ることはないこと、を指摘している。また、世界各国におけるアスパルテームの摂取量を推定し、摂取量は許容一日摂取量より低かったことから、現状ではアスパルテーム摂取により健康への悪影響が生じる心配はないと結論づけている。
日本では、内閣府食品安全委員会が「アスパルテームに関するQ&A」をウェブサイトに公開し、情報を提供している。そのなかで、日本人のアスパルテーム摂取量は許容一日摂取量よりも大幅に低い、1日当り6.58ミリグラムと推定されている。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
『吉積智司他著『甘味の系譜とその科学』(1986・光琳)』▽『シーエムシー編・刊『機能性甘味料の全容』(1988)』▽『東京都消費者センター試験研究室編『試買テスト・シリーズ3-11 食品中の甘味料及び品質保持剤等』(1993・東京都消費者センター)』▽『伊藤汎・小林幹彦・早川幸男編著『光琳選書7 食品と甘味料』(2008・光琳)』▽『〔WEB〕内閣府食品安全委員会「アスパルテームに関するQ&A」(2023) https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/aspartame.html(2024年8月閲覧)』▽『〔WEB〕World Health OrganizationUse of non-sugar sweeteners: WHO guideline(2023) https://www.who.int/publications/i/item/9789240073616(2024年8月閲覧)』▽『〔WEB〕消費者庁「第10版食品添加物公定書」(2024) https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/official_documents_002(2024年8月閲覧)』
(2014-9-24)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…化学的に合成された甘味をもつ化合物のことで,人工甘味料ともいう。化学構造と甘味との関係は古くから研究されているが,アルデヒド基-CHO,オキシム基-CH=NOH,ハロゲン基,アミノ基-NH2,スルホ基-SO3H,トリアジン核,スルホアミノ基-SO2NH2,水酸基-OHをもった化合物がおおむね甘味が強い。…
※「人工甘味料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新