日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
人間の条件(マルローの小説)
にんげんのじょうけん
La Condition humaine
フランスの作家アンドレ・マルローの長編小説。1933年刊。中国の上海(シャンハイ)を舞台に1927年3月末の北伐軍の進攻に呼応しての労働者の一斉蜂起(ほうき)から、4月12日の北伐軍司令官蒋介石(しょうかいせき)による反革命クーデター、さらに上海解放の翌日、昨日までの味方によって銃殺されるコミュニストの青年たちの群像を描き出している。といっても、ここではそれ以前の『征服者』(1928)や『王道』(1930)にみられたようなニヒリズムは後景に退き、死を前にしてブルジョア息子の主人公キヨが語るように「この時代においてもっとも深い意義ともっとも大きな希望をかけられているもの」に対する信仰が、すべてを明るく彩っているところに大きな特徴がある。それだけにこの作品は空間的広がりをもったマルロー最初の本格的な全体小説であるとともに、30年代の反ファシズム運動の闘士へのマルローの変貌(へんぼう)を明らかにしたものであるといえよう。33年度ゴンクール賞受賞。
[渡辺一民]
『小松清・新庄嘉章訳『人間の条件』(新潮文庫)』