伊勢神宮への参詣。伊勢参宮ともいう。律令制下では伊勢神宮は国家祭祀の対象であって,天皇以外の奉幣を禁ずる私幣の禁があり,民衆の参詣などはなかった。伊勢神宮の存在は伊勢路をとった熊野への道者や先達によりしだいに人々に知られることになり,さらに全国の荘園に賦課された神宮造営の費用にあてるための役夫工米(やくぶくまい)は神宮の存在を在地領主に強く印象づけた。東国からはじまる御厨(みくりや)の寄進はその結果であった。14世紀はじめには〈太神宮参詣精進法〉が外宮(げくう)側により示された。神宮が先例としている精進について無知な層までが神宮に参詣しはじめたためであった。また〈詔刀師沙汰文〉は内宮(ないくう)と外宮の間での参詣者をめぐっての争いに際してのものであり,その形態は不明だが,神宮への参詣者がかなりの数に達していたことを示している。参詣者と神宮の間にあったのが御師(おし)であった。御師は権禰宜(ごんのねぎ)と呼ばれる神宮の中下級の神官の出身で,参詣の止宿の便や私祈禱を代行するとともに,定期的に各地の信者の間をまわった。室町時代に入ると畿内を中心に伊勢講,神明講が結成され,御師はその講員に巻数(かんず)や御祓(おはらい)のほかに伊勢白粉,櫛などのみやげ物を配り,代参者が参詣するときには世話をした。このようにして,神宮への参詣のことは中世末には広く民衆の間までひろまった。近世に入り,伊勢踊の数次にわたる流行,御鍬神の流行などはさらに伊勢神宮の存在を全国に知らせることになった。近世の神宮への参詣者は平常の年で30万~40万人であった。参詣者は村々の講からの代参者が多く,彼らは村に回檀してくる御師の家を宿にした。東国,東北からの参詣の場合,江戸,秋葉山,津島にもうでてから神宮に参り,それから吉野,高野山,奈良,さらには金毘羅,大坂,京都,善光寺にまで足を延ばすのが例であり,伊勢のみで旅が終わることは少なかった。また伊勢では内宮・外宮だけでなく,数多くある摂社,末社などを巡拝するのが例であった。1871年(明治4)御師の制度は廃止されたが,旧御師は廃止後も村々と連絡をとり,みずからの旅館に講の人々を泊めることに努めた。一方では修学旅行のうちに伊勢参りを組み込む学校も多く,近代になっても伊勢参りの伝統は残された。
→伊勢信仰 →ええじゃないか →お蔭参り →抜(ぬけ)参り
執筆者:西垣 晴次
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伊勢神宮に対する信仰を基盤にした参詣(さんけい)の様式。伊勢参宮ともいう。古代の伊勢神宮は皇室の祖先神ということで、勅許によらなければ参拝することはできなかった。したがって、一般民衆はもとより貴族にしても個人的な参拝は許されるものではなかった。律令(りつりょう)制の衰退が進むなかで、一般の社寺参詣の影響を受けるようになり、民衆の信仰の対象となっていった。一方、伊勢神宮の内部からも、こうした民衆の信仰心にこたえるべく、御師(おし)の組織を形成した。そして、参宮のための宿泊の手配や大麻(たいま)などの神札の頒布を通して、地方の檀家(だんか)を拡大していった。また御師の活躍と並んで特筆されるのが、伊勢講や神明講の結成である。これは御師の回檀活動によるところが大であろうが、近世には数も増えて代参講として安定した。こうして中世末期から近世にかけて、かなり広範囲の信者を獲得するに至り、伊勢参りも隆盛を極めた。そうしたなかで、一生に一度はお伊勢参りをするものという通念が生み出された。こうした通念が基盤となって、伊勢踊の流行やお陰参りの勃発(ぼっぱつ)をみることになった。お陰参りは約60年に一度の周期で起こった熱狂的な群衆による参宮で、沿道の住民の施行(せぎょう)によって、着の身着のままでも参加できたのでこの名があるともいわれる。また、年少者が、親や雇い主などの許可なしに加わることを抜け参りといった。なお、伊勢参りには、出発や帰還時に坂迎えなどのような多くの儀礼がみられる。
[佐々木勝]
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…参詣は本来敬虔な信仰心に基づくのであるが,江戸時代に一般大衆の間にまで楽しみを目的とする旅行を行うだけの経済力その他の条件が整うなかで,たてまえとしての参詣,ほんねとしての享楽的な旅行が広まった。それが例えば伊勢参りを名目とする上方見物であった。参詣という名目を必要としたのには,封建体制の中で一般大衆の移動が厳しく制限される一方で,参詣だけは信仰心に基づくだけに制限しにくいという事情があった。…
…近世の伊勢参りの一形態。初見は《寛明日記》の慶安3年(1650)3月14日の条。…
※「伊勢参り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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