株式会社の形態をとる企業が倒産の危機にひんしてはいるがまだ再建の可能性がある場合に,裁判所の手にゆだね事業を継続しつつ再建をはかる会社更生手続について規定する法律。1952年にアメリカの制度を範として制定され,67年の大改正を経て今日に至る。倒産の処理に関する法制としては破産法が代表的であるが,破産が清算を目的とするのに対し会社更生法は再建を目的とする。
従来,企業再建のための裁判上の手続としては和議法(1922公布)による和議手続および商法に規定される会社整理の手続(1938年改正で新設)があったが,株式会社企業の再建手続として十分でなかった。まず,和議は個人債務者を眼中に置いているうえ,破産原因がなければ開始されえない点で再建には手遅れである。また,和議を申し立てるには債務者が再建案を作成提示してせねばならないから,倒産の混乱時には困難が伴う。さらに,重要なこととして,倒産企業の主要財産には幾重にも担保権が設定されているのが常であるが,和議手続が開始されても担保を有する債権者は権利の実行を妨げられないから,これにより再建のために必要な重要資産が散逸してしまう。また滞納租税の徴収も和議手続とは関係なく行われる。会社整理は,株式会社を対象とする制度で,破産原因が生じていなくてもそのおそれのある時点で開始されうる点,および債権者による担保権の実行を一時停止できる点で一歩進んだものであるが,この手続は本来私的整理を裁判所が側面から助成するという消極的な性格をもつため,再建案の成立につき和議のように債権者の多数決で決めることができず全員の同意をとりつけなければならないことが弱点となっている。
第2次大戦後,占領軍当局の示唆のもとに,アメリカからの外資導入を容易ならしめるとの目的をもって,当時のアメリカ連邦破産法Bankruptcy Act第10章に規定されていたコーポレート・リオーガニゼーションを範とし,既存の破産法や和議法の法技術を応用し,大企業の倒産を眼中に置いて作られたのが会社更生法である。従来の再建手続すなわち和議や会社整理と異なる点は多岐にわたるが,まずその目的理念において,これが会社の再建ではなく,経済的・社会的実在としての企業の再建をもくろんでいることが強調される。たとえば和議は,もっぱら債権者の譲歩(債務一部免除や期限の猶予)によって債務者を立ち直らせることを予定し,倒産株式会社について適用される場合でも,経営者や株主の権利や構成には手を触れることはないから,和議が成功した場合には会社が人的・資本的同一性を保ちつつ立ち直ることとなる。会社整理も基本的に同様である。これに対して会社更生は,会社とは別に観念できる企業に着目し,その存続維持をはかることにより倒産のもたらす社会的・経済的混乱を回避しようとする。その結果として,再建策である更生計画において和議と同様に債権者側の譲歩が決められるのはもちろんであるが,新株を発行して新株主を導入し,従来の株主の持分を相対的に低下させ,場合によっては全部抹消してしまうことや(100%減資),新会社を設立して営業を引き継がせ旧会社は解散させる,といった再建のための措置が経営陣の交代などとともに予定されている。
会社更生法は,企業の再建を実効的に達成するため他の手続にみられない徹底した策をとっている。その最大のものは担保ある債権者の処遇である。すなわち,会社更生手続が開始されると,会社財産の上に担保権を有する債権者は,破産や和議の場合とは異なり,担保権の自由な行使ができなくなり,一般の債権者と同様に裁判所に権利を届け出たうえで,更生計画に従ってのみ弁済をうけることができる。更生計画ができるまでにはかなりの期間が経過するのが常であるから,その間担保債権者といえども権利を凍結されることになる。そして,無担保の一般債権よりは優遇されるものの,更生計画によりその権利の内容に変更が加えられる。このような担保権の処遇は他に例をみないもので,そもそも債務者倒産のときにこそ効用を発揮すべき担保制度の存在理由をも揺るがす画期的立法といえるが,企業の再建によってもたらされる社会的・経済的効果とのバランスにおいて,そのような担保権の制限も憲法上認められた公共の福祉のための財産権の制限であると解されている。このことからしても,会社更生法が適用される企業は相当の規模をもつものであることが要求されてくる。
会社更生法のいま一つの重要な特徴は,租税債権の処遇である。破産,和議,会社整理など他の倒産手続では,租税債権は手続とは無関係に取り立てることができる。しかし会社更生では,租税債権も原則として一般の債権と同じ取扱いをうけ,一定の制限のもとにではあるが譲歩を強いられる。租税優先思想の濃い日本の法体系の中では異色である。
1952年の施行以来,会社更生法およびその運用はかなりの変遷を示した。当初はこの手続の特徴がよく理解されないこともあって和議と同様の運用がなされ,株主や経営者を温存したままもっぱら債権者の犠牲において会社を再建するやり方が一般的であった。また,会社更生手続の開始を申し立てるとともに債務弁済禁止の保全処分を得て暫時債務の支払を免れ,危機が過ぎると申立てを取り下げるというやり方が一部で行われ,これによって下請企業が連鎖倒産する事態も発生した。とくに65年前後に発生したいわゆる大型倒産(山陽特殊鋼やサンウエーブ工業等)を契機として,会社更生法は中小企業の犠牲において大企業を保護しようとする悪法であるとの批判が行われ,会社更生法のあり方が政治問題化した。その結果,67年の大改正があり,申立取下げの制限や下請中小企業債権者の保護などの新制度が導入された。他方,運用面でもその特色を生かす努力が払われるようになり,今日の会社更生の実務では,かつてのように従前の取締役や株主をそのまま温存することはむしろ例外的である。すでに債務超過となった会社が申し立てる場合が多いが,その場合の株主の実質的な権利はすでにゼロであるから,いわゆる100%減資をして従来の株主の権利は全部抹消し,新たに新株の発行によって資金を導入し,あるいは債権者に弁済に代えて割り当てることが一般的となっているし,従来の取締役は全員退陣させ,再建が成就したときも復帰を許さない扱いである。このような立法と運用の変化により会社更生はもはや経営者や株主にとって〈うまみ〉の少ない手続となり,安易な申立てはできなくなった。その結果,一時期年間100件近くあった申立件数は大幅に減少し,代わって和議や会社整理が利用されるようになっている。会社更生はしかしながら万能ではない。和議や会社整理と異なって会社更生は,倒産のごく初期の段階で開始できるように配慮されているが,日本では,実質上破産原因ある場合になって初めて申し立てる事例が多いため,もともと再建が困難な事件が多い。再建の可能性は,当該業種の将来性や時の経済情勢にも大いに左右される。
会社更生の手続は,破産のそれと類似する点も多いが,概略次のとおりである。まず,手続の開始を申し立てるのは原則として会社自身である(30条)。管轄裁判所は会社の本店所在地の地方裁判所である(6条)。申立てから手続の開始まではかなりの期間があり,その間の財産の散逸などを防ぐため裁判所は保全処分をなし,また他の手続(強制執行や担保権実行)の中止を命じうる(37,39条)。保全処分にはいろいろなものがありうるが,よくあるのは,従業員の賃金以外の債務の弁済を禁じる命令や,保全管理人を選任して会社の運営をすべてまかせてしまう処分などである。保全処分が行われた後は,会社は手続開始の申立てをかってに取り下げることができない(44条)。裁判所は更生手続開始の原因(債務を弁済すれば事業に支障をきたす状態,または破産原因事実の生ずるおそれ)の有無および更生の見込みなどを審理するが(30,38条),その際公認会計士を調査委員に選任して調査させることも多い(101条)。手続を開始する場合は,開始決定と同時に更生管財人を選任する(46条)。更生管財人は会社の事業経営権および財産の管理処分権を一手に収める(53条)。会社更生は,事業を継続しつつ再建をはかるので,管財人に人材を得ることが重要である。管財人は経済界の経験者や弁護士から選ばれる。すべての債権者は権利行使をすることができなくなり(棚上げ。112条),裁判所に権利を届け出(125,126条),最終的には更生計画中に記載してもらわないとその権利を失うこととなる(241条)。担保ある債権も同様で,これをとくに更生担保権と呼ぶ(123条)。一般の債権は更生債権と呼ぶ。これに対し,手続開始後に管財人との取引によって生じた債権や,一定範囲の未払賃金・退職金債権などは共益債権とされ,管財人により随時支払われる(208,119条,119条の2,209条)。破産における財団債権に相当するが,その範囲は広い。破産の場合と同様に,倒産間ぎわになって取得した債権・債務による相殺の禁止(163条)や,管財人が倒産前の弁済や財産処分を否認して財産を回復する否認権(78条)の制度があり,とくに否認のためには否認の請求という簡便な手続が設けられている(83条)。取締役の不正行為(たとえば粉飾決算)による会社に対する賠償責任が倒産を機に表面化することが多いが,その追及のために損害賠償額の査定という簡易な手続がある(72条)。管財人は更生計画案を作成し(189条),関係人集会にかける(200条)。更生計画においては,更生担保権者・更生債権者・株主の権利の変更,弁済資金の調達方法,定款の変更,取締役の変更,資本減少,新株発行などが定められるが(211条),その際,更生担保権,優先的更生債権,普通更生債権,劣後的更生債権,優先株式,普通株式の順位で,その処遇に公正・衡平な差を設けねばならない(228条)。たとえば担保ある債権者は必ず無担保の債権者より優遇しなければならない。更生計画案は,利害関係人の種別ごとの決議にかけられ,法定多数の賛成により可決される(205条)。会社が債務超過であるなど破産原因があるときは株主には議決権がない(129条)。この場合には,100%減資により権利自体が消滅せしめられる取扱いが一般的となっていることは前述した。可決された更生計画が公正・衡平でかつ遂行可能と認めると裁判所がこれを認可し(232条),更生計画が発効する。これにより,計画に定められたものを除き,いっさいの債権,担保権,株主権は消滅し,定められたものはそのように変更されたものとなる(241,242条)。ただし,保証人や連帯債務者の債務には影響がない(240条)。更生計画は直ちに管財人により遂行に移され(247条),遂行し終わったとき,またはそれが確実となったとき手続が終結され(272条),会社の経営権は初めて取締役に復する。ただし,更生計画により取締役への早期の権限付与が定められることもある(211条)。更生計画成立の前後を問わず,更生の見込みがなくなれば手続は廃止され(273条の2,277条),破産原因があるときはそのまま破産手続に移行する(23条)。
→倒産 →レシーバー制度
執筆者:谷口 安平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
窮境にある株式会社について、更生計画の策定およびその遂行に関する手続を定めること等により、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする会社更生手続を定めた法律。1952年(昭和27)に制定され、2002年(平成14)に全面改正されたものが現行法となっている。平成14年法律第154号。株式会社の解体清算による社会的混乱や経済的損失を防止するため、商法上の会社整理(2005年会社法制定時に廃止)などの会社救済手段よりも強力な会社再建制度として、アメリカ破産法中のリオーガニゼーションreorganizationの制度に倣った会社更生手続が定められている。
[戸田修三・福原紀彦・武田典浩]
会社更生手続では、株式会社は、会社に破産の原因たる事実の生じるおそれがある場合、あるいは、事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済できない場合には、裁判所に対して更生手続開始の申立てをすることができ、前者の場合には一定額を有する債権者や株主も申立てができる。更生手続の開始の決定があると、破産などの申立てはできなくなり、すでに破産の申立てがなされていても、それまでの破産手続は中止され、または効力を失う。更生手続開始とともに、会社の事業経営および財産の管理処分権限は裁判所の選任する更生管財人に専属し、この管財人が会社の業務および財産を管理する。管財人は会社財産を評定して財産目録・貸借対照表を作成し、債権者の債権の内容と金額、担保権の目的と価額などを調査し、これらの資料や将来の収益力などを考慮して更生計画案を作成し、裁判所に提出する。更生計画案の内容は、債権の一部免除や支払猶予、資本減少、新株発行などを含んでいるのが普通である。この計画案は、更生担保権者、更生債権者、株主に分類された組に分かれて決議され、各組の法定多数の同意を得て可決され、裁判所が認可決定すると更生計画として効力を生ずる。更生計画が遂行されたとき、または遂行が確実であるとの見通しがたてば、裁判所は更生手続終結の決定をする。この終結決定により当該会社は裁判所の監督から離れて、更生手続の制約から脱することになる。そうでないときは更生手続廃止の決定がなされ、破産手続等に移行される。
同じく会社再建手続としては、1999年(平成11)に制定された民事再生法(平成11年法律第225号)に基づく民事再生手続が存在している。民事再生手続は、支払不能もしくは債務超過の生ずるおそれはあるが、再建の可能性のある個人または法人を、裁判所の監督のもとに、会社の場合には経営者を交替させないことも認めて、再建させる手続であり、大企業から街の中小企業まで、幅広く利用できる柔軟性と簡便性を備えている。大企業の場合は、会社更生法と民事再生法のいずれも選択できるが、民事再生法を選択すると、終結まで比較的短期間で済むことから、資産の劣化を避けることができ、また担保権者に対する拘束もいちおう規定されているので、大企業であっても民事再生法のほうが利用される場合が多い。
[戸田修三・福原紀彦・武田典浩]
会社更生法と民事再生法の手続の主要な違いをまとめると、以下のように整理できる。
(1)会社更生は株式会社のみを対象としている一方で、民事再生は自然人(個人)および法人のすべてを適用対象としている。すなわち、再建型倒産処理手続として、会社更生法は特別法、民事再生法は一般法という位置づけが与えられている。
(2)会社更生は、更生手続開始によりかならず更生管財人が選任され、財産の管理処分権が会社から管財人に移される一方で、民事再生は、再生手続開始後でも再生債務者に財産の管理処分権限を残しており、再生債務者の従前の経営陣がそのまま組織の運営にあたり続ける、DIP型倒産処理手続である(DIP:Debtor in Possession。債務者占有継続の意)。
ただ会社更生は、役員が違法な業務執行行為を行ったことにより会社に損害を与えたなどを理由として、会社更生手続中に役員等責任査定決定を受けるおそれのある者については、更生管財人としては選任されない。これを逆からみると、そのような責任追及がなされるおそれのない役員は更生管財人になれることを意味する。このような従前の役員がそのまま更生管財人となって会社更生手続を進めることをDIP型会社更生という。
(3)会社更生は更生計画の内容が多岐にわたる一方、民事再生は再生計画の内容が限定されている。たとえば、倒産処理手続の途中でスポンサーあてに新株を発行する場合、もしも民事再生手続中ならば会社法に規定される株主総会あるいは取締役会の決議が必要となるが、もしも会社更生手続中ならば会社法に規定される決議が不要となる。会社更生の場合、これ以外にも、更生計画にあらかじめ定めておけば、定款変更、減資、事業譲渡、合併、会社分割なども、会社法に定める決議が不要となる。
(4)会社更生では担保権が更生手続内に組み込まれ、担保権実行が許されないが、民事再生では別除権者として再生手続によらずに担保権の実行が認められる。再建手続の途中で担保権の内容の変更が必要となった場合、会社更生手続内ならば変更は容易であるが、民事再生手続内では担保権者との個別合意等を得なければならない。
[武田典浩]
『松田二郎著『会社更生法』新版(2001・有斐閣)』▽『東京地裁会社更生実務研究会編『最新実務 会社更生』(2011・金融財政事情研究会)』▽『山本和彦著『倒産処理法入門』第4版(2012・有斐閣)』▽『伊藤眞著『会社更生法』(2012・有斐閣)』
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…具体的には,(1)決済資金の裏づけがないため不渡り(その手形,小切手を不渡手形という)を出した法人または個人企業が6ヵ月以内に2回目の不渡手形を出して銀行取引停止処分を受けることにより表面化することが多い。そのほか,(2)会社更生法の適用を申請したり破産申請をしたとき,(3)商法381条による会社整理,和議法による整理状態になったとき,(4)債権者会議を開催し内整理(これは法律によるものではない)を行ったとき,を倒産というが,倒産という言葉は法律用語でも学問用語でもない。ただし中小企業信用保険法には倒産という言葉が用いられている。…
※「会社更生法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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