一定の地域や社会ないし組織において,行為者が長期にわたって従っている原則や規範,また行動のルールや政策決定の手続の総体をいう。体制は次の三つの側面からなっている。(1)あるシステムにおける権力の編成や配分を表示する役割の体系,すなわち権威(政府)を構成する役割構造である。(2)権力の使用に関する安定した期待や規範,すなわちシステムにおいて資源を配分し紛争を調整していくための規範ないし規則の体系である。(3)現実にシステムを動かしている価値,それに状況解釈や過去,未来の正当化などの準拠枠組みとなるイデオロギー,すなわち原理や目標からなる価値の体系である。こうした権威の構造,制度規範,体制原理の総体的表現たる体制の典型として,近代日本の天皇制が想起されよう。一般に,支配される側において体制というものが強烈に意識される状況は,思想・行動・表現の自由が抑圧され,弾圧や恐怖が構造的に存在し,それに対する抵抗が組織されつつあるときである。逆に,支配する側が自己の体制を自覚的に認識し守護するのは,反体制の動きが表面化しそれに対抗しようとする局面においてである。
体制の概念は近代市民社会の出現とともに,従来の政治権力の静態的な秩序論(政体論)を超えたより包括的な概念へと拡張されてきた。フランス革命を導いた変革的歴史意識は,それまでの封建的な,政治的・経済的また社会的・文化的な諸制度や諸関係を,旧体制(アンシャン・レジーム)と一括して打倒対象とみなすことによって,これに代わる新体制や未来体制の構想を生みだした。歴史的社会体制としての体制認識は,さらにマルクスによって明確な概念規定を与えられた。マルクスは資本主義社会の体制的特徴を,特定人間による生産手段の私有と,労働力を商品として売る無産労働者の存在としてとらえた。そして,この資本主義経済体制に代えて,人間の疎外状態を止揚し類的人間の全体性を回復する未来体制の原理である社会主義(共産主義)を構想した。もとより,その社会主義の体制原理は,20世紀の現存社会主義体制においてけっして十分には実現されてはいない。
アメリカの政治学者ダールRobert A.Dahlは,民主化の二つの理論的次元として,選挙に参加し公職につく権利(参加・包括性),公的に異議を申し立て競争する自由(自由化・異議申立て)を設定し,その保障や制度化の大小の度合の組合せで,閉鎖的抑圧体制,包括的抑圧体制,競争的寡頭制,包括性と自由化が十分に保障されている高度に民主化された政治体制(ポリアーキーpolyarchy)の四つの理念型的な政治体制を提示し,その移行や変動の条件を探究している。民主主義体制とは参加=包括性と自由化=異議申立ての二大要件を相当程度満たしている政治体制である,とすれば,その下位類型として英米型デモクラシー,北欧型のネオ・コーポラティズム,オランダ,ベルギー,オーストリアなどの多極共存型consociational democracyが列挙されよう。他方,こうした要件をあまり満たしていない政治体制が非民主主義体制であり,その代表的な類型として全体主義体制や権威主義体制が着目される。この下位類型として,伝統主義的な専制や寡頭制とは明瞭に異なった開発独裁がある。ラテン・アメリカやアジア・アフリカなどの,世界システムにおける準周辺的な地域によく見いだされる体制である。そこでは,共同体の全体的知恵よりも顧問や専門官僚,軍人の能力に依存し,参加よりむしろ動員と事件画策の技術に習熟している指導者層が,ナショナリズムや反共主義を体制イデオロギーに掲げて,一方で抑圧機構を強化しつつ,他方で伝統的な権威パターンを崩しつつ近代化や経済成長を達成しようと志向する。しかし,開発独裁は経済成長に奏功しても,その反面で貧富差の増大や対外債務の累積に苦しみ,政治的不安定を潜在させることが多い。
→制度 →比較経済体制論
執筆者:坂本 孝治郎
生物体の構造の基本的,一般的な形式のこと。生物体の構造には,系統分岐とともに生じた千態万様の多様性がある。それらの解析に基づいて生物界はまず菌,植物,動物の3界に分けられる。次にそれぞれの群をやや小さい群(門)に分け,さらにその各群をもっと小さい群(綱,目など)に順次に分けることができる。このようにして生物の種はピラミッド状の体系つまり分類体系に整理される。分類学はこうした解析の作業を中心として成り立っているが,ここで第1に着目されるのが種々の段階にある体制である。一例をあげると,骨性または軟骨性の中軸骨格を備える動物の群が脊椎動物門であるが,脊椎動物の最も基本的な体制は,これのほかに左右相称性,頭・胴・尾の分化,中枢神経と末梢神経からなる集中神経系,真体腔,中軸骨格つまり脊柱の背側に脊髄,腹側に大動脈と内臓をもつこと,心臓を中心とする閉鎖血管系などをセットとして備えていることである。脊椎動物は数個の綱に分類されるが,その際にはより高次の体制が問題となる。すなわち,まず顎骨をもたないもの(無顎類)ともつもの(顎口類)の二大区分である。さらに顎口類は2対のひれをもつもの(魚類)と2対の足をもつもの(四足動物)に分けられ,それぞれがまた順次に細分される。このように,体制には質的に異なる低次のものから高次のものまでが区別され,それらが門,綱,目のレベルの基本的分類に対応する。そして目の分類群はついに同一の体制をもつもののグループとなり,それ以上,つまり科,種,亜種などのレベルでの分類は,体制の相違というより構造の主として量的な差異に対応する。もっとも,一つの門の中での体制の相違は,進化的にみれば,系統分岐に起因する構造の量的な差が質的な差に転化したものである。それに対し,門と門の間(例えば脊椎動物と脊索動物)では系統発生的関係が不明で,体制相互を結びつけることが困難または不可能であることが多い。植物についても基本的に同じことがいえるが,動物に関しては,18世紀末以来発達した比較解剖学において,体制の解析は器官の相同性の追究と一体をなすものであり,進化論が現れる前はいわゆる〈原型〉を探究するうえで中心課題の一つであった。
→相称 →体腔 →体節
執筆者:田隅 本生
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