保証債務または保証契約のこと。保証債務とは,債務者(主たる債務者)が債務を履行しない場合に,これに代わって履行しなければならない他の者(保証人)の従たる債務をいい,保証契約とはこのような場合の債権者と保証人との間の契約をいう。たとえば,A(主たる債務者)がB(債権者)から100万円借り受けて,C(保証人)がこれを保証したとすると,Aが100万円を返済しないとCがAに代わってその返済をしなければならない。この場合のCの債務が保証債務であり,BとCとの間の契約が保証契約である。以上のように,保証債務は主たる債務の存在を必要とするが,なお,身元保証のように主たる債務の存在を必要としないで保証人が独立に債務を負担する場合をも含めて保証と呼ぶことがあり,さらに通俗的には担保と同じような意味で用いられることもある。
ある者(主たる債務者)の債務について他の者(保証人)が保証債務を負担すると,債権者は,主たる債務者の無資力などによりその者から弁済を受けられなくても,保証人に資力がある限り保証人から弁済を受けられるから,債務の履行はより確実になる。したがって,保証は担保の一つであり(保証人という人の全財産--これを責任財産という--によって担保されているので,人的担保などという),実際社会においては非常にひんぱんに用いられ,きわめて重要な役割を果たしている。
保証債務は主たる債務と同一の内容を有する。しかし,主たる債務と同一の債務ではなく,別個の債務と解されている。次に,保証債務は従たる債務であって,主たる債務に付従する。すなわち,主たる債務が無効か取り消されたときには,保証債務も無効であり,主たる債務の内容の変更に応じてその内容を変更し,さらに主たる債務が消滅すると,保証債務も消滅する。また,保証債務は,その態様において主たる債務より重いものであってはならず,保証人の負担のほうが重いときには主たる債務の限度に減縮される(民法448条)。さらに,保証債務は,主たる債務者に対する債権に随伴する。すなわち,主たる債務が移転されると,保証債務もこれとともに移転する。保証債務は,さらに,補充性を有する。すなわち,保証債務は主たる債務が履行されない場合に履行すべき債務であって,保証人は〈催告の抗弁権〉および〈検索の抗弁権〉を有する。なお,同じ保証であっても連帯保証にはこのような補充性がない。
保証債務は保証人と債権者との間の契約(保証契約)によって成立するが,この保証契約の成立には,物や金銭の授受を必要としないし,形式も必要としない。すなわち,保証契約は諾成・無方式の契約である。主たる債務者との関係ではその者の委託を受けて保証人となる場合が普通であろうが,民法上は委託を必要とせず,主たる債務者の意思に反して保証人となることもできる(462条)。
保証債務の内容は保証債務の付従性の枠内で契約により自由に定めることができる。しかし,契約で定めなかった場合には,いくつかの疑問が生じる。まず,保証債務は元本のほか,利息や損害賠償などにも及ぶであろうか。民法は,保証債務は主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他すべてその債務に従たるものを包含する旨(447条)規定して,これを肯定した。上の〈違約金〉の中には,損害賠償額の予定のほか違約罰も含む,と解されている。そのほか〈その債務に従たるもの〉としては,契約締結の費用,催告の費用,解約申入れの費用などがある。
次に,保証債務は,債権者と主たる債務者との間の契約が解除された場合の原状回復義務および損害賠償義務にも及ぶであろうか。民法はこの点について明文の規定を置いていないが,判例は,古くから,賃貸借契約における賃借人の保証人は契約解除後の目的物返還債務不履行による損害賠償義務(賃料相当額)についても責任を負うことを認め,次いで最近になって,売買契約における売主の保証人は,売主の債務不履行によって契約が解除された場合の原状回復義務(既払代金の返還義務)についても責任を負うと解した。
保証人は主たる債務者が債務を履行しない場合にその者に代わって債務を履行する責任を負うが,債務者が履行しないからといってただちに履行しなければならないわけではない。保証債務には補充性があるから,保証人は,債権者から請求を受けたときには,まず主たる債務者に催告を為すよう抗弁することができる(452条本文)。これが催告の抗弁権である。この抗弁権の行使を受けたときには,債権者は主たる債務者に対して催告しないかぎり保証人に対して請求することができない。しかし,債権者としては裁判外の催告をしさえすれば保証人に請求できるから,その効果はそれほど強いものではない。
次に,債権者が主たる債務者に対して催告をした後に保証人に請求した場合でも,保証人は,主たる債務者に弁済の資力があり,執行が容易なことを証明して債権者に対し,まず主たる債務者の財産に執行するよう抗弁することができる(453条)。これを検索の抗弁権という。この抗弁権の行使を受けると,債権者はまず主たる債務者の財産について執行しなければ保証人に対して請求することができないから,この抗弁権の効果は強力である。
保証人はさらに,主たる債務者の有する抗弁権を援用することができる。民法には明文の規定がないが,保証債務の性質上当然のことと解されている。たとえば,保証人は,主たる債務者の有する同時履行の抗弁権を行使することができるし,主たる債務者が債権者に対して債権(反対債権)をもっている場合には,これをもって相殺することができ(457条2項),さらに,主たる債務が時効にかかった場合には,消滅時効を援用することができる(主たる債務者が時効の利益を放棄しても保証人は援用できる)。主たる債務者の取消権を行使して抗弁することができるかどうかについては争いがあるが,学説はおおむねこれを認めようとしている。
主たる債務者について生じた事由は,保証契約によって定められた保証債務の内容を重くするのでない限り,原則としてすべて保証人に対して効力を及ぼす。たとえば,主たる債務の消滅は保証債務をも消滅せしめ,主たる債務者に対する時効中断は保証人に対しても効力を生じ,主たる債務者について債権譲渡の対抗要件を備えれば保証人に対しても効力を生じる。
これに対して,保証人について生じた事由は,主たる債務者に影響を及ぼさない。たとえば,保証人に対して債権譲渡の対抗要件たる通知をしても主たる債務者に通知したことにはならないし,保証人が債務の承認をしても主たる債務の時効を中断しない。
保証人は,債権者との関係では自分の債務(保証債務)を弁済するものであるが,主たる債務者との関係ではその者の債務を弁済する実質を有するから,保証債務を履行した場合には,主たる債務者に対してその分の返還を求める(求償する)ことができる。これを保証人の求償権という。ただ,求償の要件や範囲などは,場合によって異なる。
まず,委託を受けた保証人の場合には,弁済その他自分の出捐(しゆつえん)(強制執行を受けた場合などを含む)によって債務を消滅させたときにはその分を債務者に求償することができるほか,次の場合には,主たる債務者の無資力によって委託を受けた保証人が損失を受けることがないよう,あらかじめ求償することができるものとされている。すなわち,保証人が過失なくして債権者に弁済すべき裁判の言渡しを受けたとき(459条),主たる債務者が破産の宣告を受け,かつ債権者がその財団の配当に加入しないとき(460条1号),債務が弁済期(保証契約成立のときの弁済期を標準とする)にあるとき(同条2号),債務の弁済期が不確定であってかつその最長期をも確定することができない場合において,保証契約ののち10年を経過したとき(同条3号),である。以上の事前の求償権を行使された場合に,主たる債務者としては,債権者から弁済を請求されて二重弁済をする危険があるから,債権者が全部の弁済を受けていない間は,保証人に担保を提供させたり,自分を免責させるよう請求することができ(461条1項),また,供託をし,担保を提供し,または保証人に免責を得させて求償を免れることができる(同条2項)。
次に,委託を受けない保証人の場合には,さらに主たる債務者の意思に反しないで保証がなされた場合と,主たる債務者の意思に反して保証がなされた場合とで異なる。すなわち,主たる債務者の意思に反しない保証人が弁済その他自分の出捐で債務を消滅させたときは,主たる債務者がその当時(すなわち保証人が自分の出捐で債務を消滅させたとき)利益を受けた限度で(したがって,利息や損害賠償を含まない)求償することができ(462条1項),主たる債務者の意思に反した保証人の場合には,現に(すなわち保証人が求償をするとき)利益を受ける限度で求償することができる(同条2項本文)。いずれの場合にも事前の求償権はない。
以上の通常の保証のほかに,特殊の保証として,連帯保証,共同保証,継続的保証,機関保証などがある。連帯保証は,保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するもので,連帯保証人が普通の保証人の有する催告の抗弁権および検索の抗弁権をもたないこと,および連帯保証人について生じた事由が主たる債務者に対しても効力を及ぼすことに,特色がある。
共同保証とは,同一の主たる債務について数人が保証債務を負担するものであり,この場合,各保証人の保証債務額は保証人の数に応じて分割された額となる。これを共同保証人の分別(ぶんべつ)の利益という。しかし,主たる債務が不可分な場合および各保証人がそれぞれ全額につき保証債務を負担することを約した場合(これを保証連帯と呼ぶことがある)には,分別の利益はない。共同保証人が保証債務を履行した場合に,主たる債務者に対して求償権を有することは通常の保証と同様であるが,共同保証人相互間でも求償関係が生ずる。すなわち,自己の負担部分を超える額を弁済した共同保証人は,分別の利益のない場合には,弁済した連帯債務者と同様の要件・効果のもとに他の共同保証人に求償権を有し(465条1項),分別の利益のある場合には,主たる債務者の委託を受けない保証人と同様の求償権を有する(同条2項)。
継続的保証とは,身元保証,賃借人の債務の保証,継続的売買取引や継続的金融取引から生じる債務の保証(これを信用保証とか根(ね)保証とか呼ぶ)などの総称である。これらの保証は通常長期間に及び,保証人がはじめに予想していなかったような事情が生ずるなどして保証人に不利益が生ずるおそれがあるので,雇傭契約にともなう身元保証については立法措置(〈身元保証ニ関スル法律〉)が講じられ,その他の継続的保証については,判例・学説上,保証人保護の解釈が唱えられている。保証債務の範囲を一定範囲に限定したり,保証債務の限度額を一定限度にとどめたり,また一定の場合(期間の定めのない保証契約において相当期間経過したとか,主たる債務者の資産状態が著しく悪化して保証人の求償権が実現されないおそれが生じたなど)に保証人に解約権を与えたりするのが,それである。
最後に,機関保証とは,信用保証協会のように業務として保証をする機関の行う保証をいう。この機関保証には個人の行う保証のような欠陥が少なく,また回収の容易さから,近年ますます主要な役割を占めるようになっているが,その性質を民法上の保証と同じように考えてよいかどうかについては,議論のあるところである。
執筆者:淡路 剛久
手形上に振出人,引受人,裏書人として署名し,手形債務を負担している者(主債務者)の債務を保証するために別人が手形保証である旨を示して手形上に署名すること。保証人は主債務者と同一の責任を負う(手形法32条1項)。すなわち,主債務者が手形の第一次的義務者(約束手形振出人など)であるときはその保証人も同様の義務者となり,主債務者が第二次的義務者(裏書人など)であるときは,その保証人もこれと同様の義務者となる。主債務が支払または時効によって消滅すれば保証債務も消滅する。手形保証独立の原則が規定されており,主債務が無能力その他の事由により無効のときでも,手形保証は有効に成立する(32条2項)。主債務が形式的瑕疵(かし)のゆえに無効のときは手形保証も無効となる。保証文句,被保証人を表示して保証人が署名する場合を正式保証というのに対して,保証文句,被保証人を示さず保証人の署名だけをする場合を略式保証という。手形の表面になした単なる署名は振出人または支払人の署名を除き保証とみなされ(手形法31条3項),保証文句と保証人の署名だけでなされた略式保証は手形の表面,裏面を問わず振出人のための保証とみなされる(31条4項)。以上のことは小切手上になされる小切手保証についても同様である。
執筆者:田辺 光政
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
債務者(主たる債務者)が債務を履行しない場合に、これにかわって履行するよう他の者(保証人)が従たる債務(保証債務)を負担すること、またはそのような制度をいう(民法446条~465条)。したがって保証債務は主たる債務の存在を前提とする。人的担保手段のうちもっとも代表的なものである。なお、たとえば身元保証のように、主たる債務の存在をかならずしも要件とせず、保証人が独立に債務を負担する場合をも含めて保証とよぶことがある。さらに、より通俗的には担保と同義に用いられることもある。保証債務は保証人と債権者との間の契約(保証契約)によって成立する。ただし、主たる債務が初めから存在しないときには、保証債務も成立しない(付従性)。保証契約により、保証人は主たる債務を履行すべき債務を負うが、保証債務は主たる債務者が弁済しないときに初めて弁済するものであるから(補充性)、保証人は催告の抗弁権と検索の抗弁権を有する(同法452条・453条)。保証人が保証債務を履行した場合には、主たる債務者に対して求償していくことができる(同法459条以下)。
[淡路剛久]
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