倭京(読み)わきょう

改訂新版 世界大百科事典 「倭京」の意味・わかりやすい解説

倭京 (わきょう)

藤原京以前に飛鳥を中心に存在したと想定される京の仮称。6世紀末に推古天皇が豊浦(とゆら)宮で即位し,ついで小墾田(おはりだ)宮に移って以後,天武天皇の飛鳥浄御原宮に至るまでの間,飛鳥を中心につぎつぎと宮室が営まれた。そこでそれら諸宮の所在地も総称して広く倭京と呼ばれたが,それは明確な行政区域をもつものではなく,漠然と〈やまとのみやこ〉という意味であった。しかし《日本書紀》によると,天武朝に入って急に〈京・畿内〉や〈京師〉など明らかに行政単位を示すとみられる〈京〉の用例が頻出し,また683年(天武12)には飛鳥のほかに難波にも〈都城・宮室〉を造って陪都とする複都制採用の詔が出され,さらに〈京職大夫〉の存在もうかがわれる。いっぽう〈京〉に対応する律令制の〈国〉も天武朝にはすでに成立していたと推定される。これらの点から,天武朝初年には一定の範囲を定めた〈京〉が飛鳥地方に成立していたと考えられるので,それを仮に〈倭京〉と呼んでいるが,条坊制都城存否などその実態は今のところ不明である。なお藤原京を当時〈新益京〉と呼び,また浄御原宮からの移行を〈遷居〉といって,難波,近江あるいは平城への場合のように〈遷都〉の語を用いていないのは,藤原京はあくまで倭京の拡張であり,藤原宮もそれまでの倭京諸宮の延長線上で理解されていたからかもしれない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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