胎児の睾丸は腹腔内に発生する。成長とともに鼠径部(そけいぶ)を通って下降し(睾丸下降),出産のころには陰囊内に入っているのが普通である。先天的な異常で,このような睾丸の下降に障害が起こり,睾丸が腹部や鼠径部に停留している状態を停留睾丸あるいは潜在睾丸という。それほどまれな疾患ではなく,未熟児には発生頻度が高い。精子形成には体温より温度が低くなければならないため,睾丸が鼠径部や腹腔内にあると将来精子を形成する能力がなくなったり,睾丸の悪性腫瘍が発生しやすいとされているため,4~5歳までには陰囊内に下ろす処置を講じなければならない。生下時に睾丸の下降が十分でなくても,1ヵ月以内に正常の位置に下降することは少なくない。しかし,それ以後は自然に治癒することはほとんどないので,手術で睾丸を陰囊内に固定しなければならない。睾丸が移動しやすく,寒冷時などは鼠径部にあり,ふろなどに入ったときには正常の位置に下りているのは移動性睾丸と呼び,4~5歳をすぎても急いで手術する必要はない。これの大部分は睾丸の成長とともに陰囊内に下降固定するからである。
執筆者:上野 精
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胎生期には腹腔(ふくくう)内にあった睾丸が、成育とともに漸次下降して、出産時には陰嚢(いんのう)内に完全に収まる(睾丸下降現象)のが普通であるが、この正常な睾丸下降が行われず、下降経路のどこかで睾丸が停滞してしまった場合を停留睾丸という。両側性より片側性のほうが多く、鼠径(そけい)部の停留がもっとも多い。睾丸の先天異常としては比較的多く、数百人に1人という割合でみられる。
5歳までに自然下降しないときには性腺(せいせん)刺激ホルモンを投与するか、手術によって睾丸を陰嚢内に引き降ろす睾丸固定術を行わなければならない。睾丸の精子形成能力は温度が高いと損なわれやすく、腹部は陰嚢内よりも1℃ほど高いので、10歳まで放置された停留睾丸に対しては、精子形成能力の回復はまず望めないと考えられている。また、停留睾丸には悪性腫瘍(しゅよう)が発生しやすいとされており、思春期以降に発見された停留睾丸は切除してしまったほうがよい。なお、陰嚢内と鼠径部の間を自由に移動する睾丸は放置しても差し支えない。
[松下一男]
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…分離不全は逆に分離すべきところが分離しないもので,単眼症などがこれにあたる。移動不全は発生の過程で身体中を移動すべきものが移動しないもので,停留睾丸などがその例。退行不全は発生の初期には存在するが,その後退行すべきものが残存したもので,卵黄腸管遺残などがこの例である。…
…女児では骨盤内で停止するが,男児ではさらに下降しつづけ,胎生期の終りには鼠径管(そけいかん)を通り抜けて陰囊内におさまる。まれに睾丸が陰囊内に入らないで,骨盤腔あるいは鼠径管などにとどまっていることがあるが,このような睾丸を潜伏睾丸(停留睾丸)といい,生殖力をもたない。なお睾丸下降は左側から始まり同時に停止するので,ふつう陰囊内では左が右より低位にある。…
…陰囊の発育は悪く,一見大陰唇のようにみえる。性腺は陰囊内になく,鼠径部(そけいぶ)や腹腔内にあることが多い(停留睾丸)。尿道開口部付近に腟が開口し,完全な子宮や卵管を有していることもある。…
※「停留睾丸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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