日本大百科全書(ニッポニカ) 「入間川(狂言)」の意味・わかりやすい解説
入間川(狂言)
いるまがわ
狂言の曲名。大名狂言。東国の大名(シテ)が太郎冠者(かじゃ)を連れて都から本国へ帰る途中、武蔵野(むさしの)で大河に行き当たる。通りがかりの男に尋ねると、川の名は入間川、渡り瀬はもっと上(かみ)だと教えられる。大名は、男がこの地に伝わる入間様(よう)の逆言葉(さかことば)を使ったものとひとり合点してそこを渡り始め、深みにはまってずぶぬれになる。怒った大名は男を討とうと刀に手をかけるが、機転をきかせた男が逆言葉を使って応答するので、理屈に詰まって命を助ける。大名はさらに逆言葉のやりとりをしておもしろがり、持ち物から着物まで与えてしまう。最後に、逆言葉の理屈を無理にこじつけて男をだまし、品物を取り返して逃げる。大名が逆言葉の応酬に興ずる箇所が見どころ。関東を舞台にした珍しい狂言である。
[林 和利]