内科(読み)ナイカ(その他表記)internal medicine

デジタル大辞泉 「内科」の意味・読み・例文・類語

ない‐か〔‐クワ〕【内科】

全身性あるいは内臓などの病気を、主に薬物療法によって治療する医学・医療の分野。呼吸器科循環器科消化器科などに分けられ、医療の中で最も広い領域。⇔外科

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精選版 日本国語大辞典 「内科」の意味・読み・例文・類語

ない‐か‥クヮ【内科】

  1. 〘 名詞 〙 外傷性でない疾患の診断と、手術によらない治療を中心とする臨床医学の一分科。
    1. [初出の実例]「医師に内科・外科あり。科はしなをはかって、内外を別にして療治する也」(出典:随筆・八水随筆(1736‐41頃))

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改訂新版 世界大百科事典 「内科」の意味・わかりやすい解説

内科 (ないか)
internal medicine

内科学の略称。臨床医学の一分野であるが,内科が医学そのものを意味したこともあるくらい重要な部門なので,内科を定義づけようとすれば,医学の概念の変化をまずたどる必要があるであろう。

医学は英語ではmedicineという言葉で表されるが,この語には,このほかに〈まじない〉〈魔術〉〈薬〉〈医術〉〈内科学〉などの意味がある。このことは,医学そのものが,人類誕生以来の人類自身の,けがや病気を治すためにはらった莫大な努力や,そのために考えだされた数えきれない工夫のなかに胚胎し,それが魔術の段階,思弁的な段階を経て自然科学的な医学として結実したものであることを物語っているように思われる。

 medicine(またはこの語の語源。以下同じ)は古くは〈病気を治すこと〉あるいは〈病気を治すもの〉を意味していたにちがいない。だから,古代のmedicineでは,薬を飲ませて病気を治すこと(後世の内科的療法)と,けがの手当や瀉血(しやけつ)したり手術したりすること(後世の外科的療法)との間にはなんの差別もなかった。ヒッポクラテスに,内科的著作のほかに,《頭部外傷について》その他の一連の外科医書があることもその一証拠になるであろう。ところが中世になると,血を見ることへの嫌悪や手仕事(外科を意味するsurgeryという言葉は〈手のわざ〉chirurgia(ラテン語)に由来)への蔑視などのために外科の分野がmedicineから疎外され,外科的治療は床屋と兼業のいわゆる床屋外科医に任されるようになり,medicineが内科を意味するにいたった。しかし,このmedicineからの外科の疎外は,ルネサンス以降のすぐれた外科医の輩出や手術手技の発達によって,19世紀に外科がsurgeryとしてmedicineと対等の位置を獲得することをもたらし,それによってそれまでmedicineであった内科それ自身がinternal medicineとして自己を限定するようになった。こうして現在のようにmedicineは医学として内科と外科を含むものになったのである。

 このようにmedicineの意味する内容には時代による変遷はあったけれども,いつの時代にあってもmedicineの目的が病気を治すことにあったことはもちろんである。しかし,このmedicineのめざす方向は,近代に入って,医療medical careと医学medical scienceの2方向に分化する。つまり,それ以前の臨床臨学的なmedicineは,病気を治療するにしたがって経験的な蓄積もでき,また治療するためには,知識としてそれらの蓄積を整理し体系づける必要に迫られたということである。医療は病気の診断と診療や予防,健康の増進をはかる方向に,医学は医療のための知識を充実させる方向に発展した。

 以上のようなmedicineの歴史の流れをふまえると,内科は臨床医学の代表であり,外科あるいは外科的分野であっても,その基調にはすべて内科学的基礎考察が重要な役割をはたしているということができる。この意味で,内科は臨床医学すべての基礎なのであって,ただ単に臨床的に内服薬や注射薬によって治療しうる内臓疾患を取り扱う医学的分科をさすにとどまらないのである。そこで内科を定義づければ,〈病気の本態と原因を解明するとともに,患者の病気を診断し,適切な治療を行って病人を健康な状態にもどすことを目的とした臨床基礎医学〉とすることができる。

内科の対象は社会の要請に応じて変化してきた。近代的な内科学創成期である1900年ころの対象は,脚気の問題から栄養欠乏疾患が中心であり,その次の時代には伝染病学が内科の花形であった。1940年代には結核が中心であった。そして現在の時点で,21世紀における内科学を考えるとき,癌や動脈硬化症を中心とする老年医学,行動科学も含めた心身医学であると考えられる。一方,医師と患者の関係も,従来のヒッポクラテス流の〈医の倫理〉から,〈双方納得ずくの医療方式〉すなわちバイオエシックスbioethicsの観点が重要なものになってくるであろう。

広範な領域を有している現代の内科は,臓器別,病因別などによって専門分科に分けられているが,今後さらにより多くの専門分科に分けられるであろう。そのいくつかをあげると,循環器内科学,呼吸器内科学,消化器(肝臓)内科学,血液病学,神経内科学,アレルギー・膠原(こうげん)病学,内分泌内科学,感染病学,泌尿器内科学,老人病学などである。これらの専門分科は互いに密接な関係をもち,臨床基礎医学としての内科学の基盤の上にたつ。また臨床医学で重視される診断学,治療学なども内科学に含まれ,内科学総論として研究される。内科の診断は,病歴をとる,現症の観察,臨床検査,鑑別診断の四つの過程をとおして行われ,治療は,薬物療法,物理療法,運動療法に分かれる。

 内科医としては,全身的疾患を診療対象とするものだから,発展分化した各専門分科の知識を身につけつつ,また一方,これらを総合して大局を見誤らないように心がけることがたいせつである。また病歴と現症と適切最小限の臨床検査の成績を総合して,正しい診断を行い,能率のよい正しい治療を行って社会復帰に導くのが適正な医療というものである。
医学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「内科」の意味・わかりやすい解説

内科
ないか
internal medicine

内臓の疾患を扱う臨床医学の一部門。外科的手法を用いず,主として薬物によって保存的に治療を行う。診療内容は大別すれば問診,視診,触診打診聴診,臨床検査,ならびに治療である。
日本では江戸時代まで,西洋医学は外科のみであると久しく考えられていた。近代内科学は,寛政5 (1793) 年に津山藩の御典医であった宇田川玄随が,オランダ医 J.ゴルテルの著書"Gezuiverde Geneeskunst"を訳して『西説内科撰要』を刊行したことに始まる。内科学教育の基礎は,明治4 (1871) 年ドイツの軍医 T.E.ホフマン,1877 (明治 10) 年に同じくドイツの医師 E.vonベルツを現在の東京大学に招いたのが端緒である。
世界的に内科が科学的専門分野として発展したのは,17世紀にイギリスの T.シデナムが示した疾病の概念による。シデナムは患者の臨床症状を克明に観察し,それまで体の具合が悪くなるのは体液のバランスが崩れたことによると考えられていたのに対して (→体液病理学 ) ,リウマチ舞踏病,肺炎など明確に区別できる複数の疾病の存在を初めて示した。シデナムの業績をもとに 1763年,F.B.ソバージュが初の系統的な疾病分類書を著した。しかしソバージュの時代から 20世紀になるまで,内科医は疾病の治療にほとんど貢献できなかった。 18世紀に打診法や検温器,19世紀に聴診器の発明はあったものの,侵された組織を除去できる外科医と違って,内科医は具体的な治療法をもっていなかったのである。このため,内科医の腕の善し悪しは,診断の正確さと疾病の予後に対する助言の信頼度で決った。 20世紀初頭にX線撮影法が発達し,疾病の種類に合せて治療を変えるようになって初めて,内科医は患者の治癒に力を発揮するようになった。診断に関しては,内視鏡,X線造影 (→X線造影診断 ) ,血管撮影コンピュータ断層撮影 CT,磁気共鳴画像 MRIなどの発達で微妙な病変までとらえることが可能になり,また医用工学の進歩により血液の状態や生体の電気現象を数値で捕えるなどさまざまな角度から患者の状況を把握できるようになった。これらのデータをコンピュータで処理することで診断の正確さは格段に向上した。また治療に関しては,化学療法剤の進歩とICUなどの重症患者の監視設備が整備されることで成果が上がっている。薬物投与と治療の進め方がより特異的になるにつれ,特定の臓器系を扱う心臓内科,消化器内科などの専門分科が派生した。この傾向はアメリカにおいて著しいものがある。また,患者を年齢層で分けた老年内科や小児内科,心身医学の発達により心療内科などの専門科も見受けられるようになった。内科そのものは,1人の患者をトータルに扱う医師の専門科として残り,患者がどの専門科にかかればよいかわからないとき,最初に診断を仰ぐ入口としても機能している。
アメリカでは,内科の専門医を公式に認定する目的で,1936年にアメリカ内科評議会 American Board of Internatinal Medicineが設立された。認定のための必要条件は,認可を受けた医学校の卒業,1年以上の研修,そしてさらに厳しい訓練と実習プログラムへの参加である。このプログラムの中心は,病院で専門医学の実習をフルタイムで2~3年経験することにある (→レジデント ) 。さらに,内科に関連した臨床,研究,基礎科学のいずれかの分野で研究を行うことが求められる。内科医の訓練プログラムでは,とくに解剖学,微生物学,生化学,病理学,薬学,生理学の最新知識を学ぶ。訓練の終りには,筆記試験と口頭試問が行われ,合格者に認定書が与えられる。
日本には今のところ公的な専門医認定制度はなく,内科医に関しては内科学会独自の専門医認定制度がある。ここでは消化器内科,呼吸器,循環器,腎・泌尿器,内分泌・代謝,神経,血液,感染症,アレルギー,膠原病などを専門分科としてあげているが,実際には国立大学の内科で3分科制にプラス1,2の専門分科を整備しているにすぎないことが多い。私立大学ではやや充実しているが,アメリカには及ばないのが現状である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「内科」の意味・わかりやすい解説

内科
ないか

内科学internal medicineの略称または診療科目名の一つ。内科学は一般に内臓に原因する疾患を主として薬物療法により治療する臨床医学の一部門とされるが、厳密に定義することはむずかしく、診療科目の内科も多くの専門分科に分けられる傾向がある。

 19世紀になって外科が独立するに及び、残る医学の分野を外科に対して内科とよんだのが始まりである。したがって、それまでの医学そのものも内科であったと考えるのが妥当であり、基礎的にみれば臨床医学を総括する分野で、実際にも診断学や治療学なども内科学総論として研究されている。すなわち、内科では全身疾患を診療対象としているところから、内科以外の各臨床医学の分野と重複するものもあり、どの科の診療を受ければよいかわからない場合は、まず内科で診察を受けるのが賢明といえる。これは、あらゆる臨床医学の窓口的存在ともみられるわけで、大きく分類しても感染症をはじめ、循環器疾患、神経系疾患、消化器系疾患、血液疾患、呼吸器疾患、内分泌疾患、腎(じん)泌尿器疾患、アレルギー疾患、新陳代謝疾患などのほか、膠原(こうげん)病や中毒など非常に広い範囲に及んでいる。なお、同じ全身疾患を扱っても発育途上にある場合は診療面で異なることが多く、15歳以上を内科、14歳以下を小児科と年齢的に区別している。

 歴史的にみると、内科学が発展したのは生理学や解剖学が発達した16世紀から17世紀にかけてであり、18世紀の検温器の応用や打診法の発明、19世紀になって聴診器の発明があり、診断学の進歩とともに内容的にだんだん発展してきた。しかし飛躍的に進歩してきたのは、19世紀後半にX線の発見と細菌学の確立をみてからであり、これらが20世紀の発展の基礎となった。

 日本では明治初期に近代医学は一つの医学として生まれ、これが内科系と外科系に大別されて以来、それぞれが細かく専門分科に分かれてきた。医学が連鎖反応的に進歩してきた現在、すでに1人の頭脳では内科をひととおりマスターするだけでも不可能な状態になってきており、内科はまず呼吸器科、循環器科、胃腸科または消化器科に分かれ、さらに消化器科は肝臓専門や膵臓(すいぞう)専門というように細分され、ホルモン科あるいは内分泌科を独立させたり、これがまた糖尿病科とか甲状腺(せん)専門に細分されてきた。なかには心臓血管科とか、心療内科や物療内科、あるいは老人科や成人科といった診療科目まで現れてきた。感染症(伝染病)については、いわゆる隔離病院の縮小に伴い、扱う疾病の範囲を広げて、微生物によっておこる病気はなんでも扱う感染症科を設けた病院もある。

 こうしたところにいる医師はいわゆる専門医であり、専門以外の病気については一般内科のいわゆる家庭医のほうが適切な判断を下せる場合もあるので、家庭医の紹介で専門医の診療を受けるようにするのが望ましい。

[柳下徳雄]

『大藤正雄著『新臨床内科学』第7版(1997・医学書院)』『島田馨編『内科学書』改訂第5版(1999・中山書店)』『井村裕夫編集主幹、大井元晴・笹田昌孝・中井義勝・福田善弘他編『わかりやすい内科学』(1999・文光堂)』『杉本恒明・小俣政男著『内科学』第7版(1999・朝倉書店)』

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百科事典マイペディア 「内科」の意味・わかりやすい解説

内科【ないか】

臨床医学の一分科。手術的処置によらず,薬物療法や食事療法などで治療しうる各種器官の疾病の診断・治療を行う。器官別に消化器科,呼吸器科,循環器科,内分泌科,血液科,神経内科などに分かれる。
→関連項目外科標榜診療科

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世界大百科事典(旧版)内の内科の言及

【医学】より

…しかし,外科手術をおこなったのは床屋外科医だけではなく,ドクター称号をもつ医師たちもおこなった。サレルノやモンペリエの医学教育の中では外科も内科も区別されなかったし,北イタリアの大学では当初から外科は医学教育の正規の科目として講義されていた。もっとも13世紀には,内外科の分離の兆候が始まっている。…

※「内科」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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