外界の気温などが体温調節機構の限界を超えるほどに低くなり、その結果として循環機能や神経機能が麻痺(まひ)し、ついには死亡することをいう。凍死は大部分が事故、災害によるものであるが、ときに乳幼児や精神病者等に対する虐待(戸外放置や暖房のない室内放置)の結果としておこる場合もある。凍死の発生条件としては環境温度が低いことがあげられるが、その温度は零下である必要はないため、凍死体に凍傷が存するとは限らない。また、風呂(ふろ)あがりに身体がぬれたまま扇風機の前に立つと、異常に寒く感じることはよく経験されるが、このように通風とか湿気も体熱を奪う重要な条件である。とくに全身が冷水につかった場合、それが5℃の水温であると、数時間以内で凍死するといわれている。こうした条件のほか、着衣の厚薄、年齢、栄養状態、疲労程度、創傷・疾病の有無、酩酊(めいてい)などが関係する。とくにアルコール酩酊時には、中枢機能の失調、皮膚血管の拡張がおこり、著しく体温が放熱されるので凍死する危険性は高い。
凍死の経過は、興奮期、失調期、麻痺期、虚脱期の四期に分けられ、最後は心室細動、呼吸麻痺、酵素活性の低下などを惹起(じゃっき)し、死に至るが、死亡時の直腸温は26~30℃内外まで低下するといわれる。一般に凍死体は特異所見に乏しいが、右心房・心室内血液の暗赤色に対して、左心房内は鮮紅色を呈することが多く、これは、死亡直前に吸引した冷気中の酸素が左心系血液のヘモグロビンと結合するためで、凍死体に特有ともいわれている。そのほか、死斑(しはん)が鮮紅色になることも知られているが、これは、皮膚からしみ込んだ酸素が同部のヘモグロビンと結合するためで、凍死以外の死体を低温下に置いても認めうる所見である。なお、凍死体のなかには、原因はよくわからないが、着衣を脱ぎ捨て、ときには全裸で発見されるという報告がある。
[古川理孝]
寒冷にさらされて体温が低下すると,組織の酸素消費量の減少,血圧の低下,心拍動の減少,中枢神経系・内分泌系・呼吸器系臓器の機能低下などが起こり,ついには死亡する。このような死を凍死という。外界の温度が低いほど凍死しやすいが,必ずしも氷点下である必要はない。また,通気性がよいこと,身体や着衣がぬれていることなどで放熱が激しい場合や,過労,低栄養,老齢などの条件は凍死を促進させる。一方,凍死ではほとんどの場合,単に寒さ以外に,遭難,傷病による意識障害,酩酊,精神病や老年認知症などによる幻覚や知覚障害,せっかんによる屋外放置など,寒冷から逃れられない条件が存在する。正常な直腸温は37℃くらいであるが,30℃では意識を失い,25℃では死亡する。しかし,逆に低体温時の生理現象を利用して麻酔中に体温を下降させる低体温麻酔法もあり,これによって心臓,大血管,脳などの手術が行われる。この場合,十分な管理のもとで直腸温を15℃まで下げることができる。低温ではヘモグロビンの酸素に対する親和性が高い。このため,凍死体では冷却したままの状態にあると動脈血の酸素が保たれ,死斑,左心房血,左心室血,肺などは鮮紅色を呈する。
執筆者:若杉 長英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…低温による損傷の一種。低温による損傷には,(1)局所の循環障害による凍瘡(とうそう)(霜焼け),(2)組織の凍結による凍傷,および(3)全身的反応による凍死がある。損傷を起こす温度は必ずしも氷点以下とは限らず,湿度,風速,金属など熱良導体との接触の有無などにも左右され,また個体の栄養状態,年齢,疲労度,低温にさらされる時間も関与してくる。…
※「凍死」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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