翻訳|distribution
所得や富が、さまざまな生産要素を提供する経済主体の間に分けられること。どのように分配されるかについては、大きく分けて二つの分析視角がある。
[大塚勇一郎]
これは所得・富の稼得・保有を個人のレベルでとらえようとするものである。具体的には所得(富)を階層ごとに分け、各階層にどれだけの割合の人々(家計)が入っているかを明らかにし、そこから、たとえばある国のある時点における所得の分配が、他の国、あるいは他の時点に比較して、より平等であるかどうか、あるいはそのような分配が効率的であるかどうかを明らかにしようとする。現在、このような個人間分配の理論的研究は、不平等度を測定する尺度の開発や規範的研究と一体となって推し進められている。
[大塚勇一郎]
これは分配を資本、労働、土地といった、いわゆる生産要素としての機能面からとらえようとするもので、代表的な理論としては、新古典派(新古典学派)の理論とネオ・ケンブリッジ(ポスト・ケインズ)派の理論とがある。
新古典派理論は、価格の資源配分機能を重視する。たとえば、任意の財(サービス)について、もしも需要が供給を超過すれば、その財の価格は上昇し、逆の場合には価格は下落する。そうすることによって需要と供給の間のギャップは解消されることになる。すなわち、財の価格はその財の相対的な希少性によって決定される。すべての財について同時に需要と供給の一致が満たされるように価格体系が決定される。いうまでもなく、生産要素の価格も、この一般均衡体系の一環として求められる。そして各生産要素の所得は、それぞれの要素の価格と、供給され需要される数量の積であるから、結局、このような一般均衡体系として同時に決定されるわけである。
新古典派理論は限界生産力説と結合されて展開されることがしばしばあり、とくに1950年代から1960年代にかけて華々しく展開された巨視的新古典派成長理論においてそうであった。限界生産力説は、各生産要素の限界生産力がそれぞれの要素の実質価格に等しいこと、たとえば資本の限界生産力が利潤率に、労働の限界生産力が賃金率に等しいこと、を主張するものであって、この関係は生産要素に対する需要を規定することになる。こうして出てくる需要と、他方の供給との相対的関係で要素価格の決定が行われるのである。
いずれにしろ新古典派理論にあっては、資源、したがって生産要素も完全に利用され雇用されるものと想定されている。
これに対してネオ・ケンブリッジ派の理論では、完全雇用は前提とされない。そして企業家の行う投資、あるいは資本蓄積に大きな重要性が付与される。投資や資本蓄積は企業家の「アニマル・スピリッツ」、簡単にいえば企業家の将来に対する予想に左右される。このような蓄積率が完全雇用をもたらす大きさ、すなわち自然成長率に等しくなる保証はなにもない。新古典派理論においては、資本蓄積率は完全雇用を実現するよう調整され、それ以外の大きさをとることはないのであるが、ネオ・ケンブリッジ派の理論では、資本蓄積率はいわば外生的要因によって決まってくるものであって、たとえ「均衡」においても、それは自然成長率と一致しない。一致するとすれば、それは偶然の産物ということになる。両者の一致する状態をJ・ロビンソンは黄金時代とよんだが、それは、その「神話的性格」を強調するためである。このような枠組みのなかで所得の分配も明らかにされる。利潤率と賃金率は背反的関係にある。そして資本蓄積率が高ければ高いほど生産物価格が高くなって、より高い利潤率、したがってより低い賃金率が得られる。こうして分配が規定されてくるのである。
[大塚勇一郎]
『J・ロビンソン著、山田克巳訳『経済成長論』(1963・東洋経済新報社)』▽『青木昌彦著『分配理論』(1979・筑摩書房)』▽『橘木俊詔著『日本の経済格差』(岩波新書)』
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…生産の成果が社会の各構成員に対してどのように分けられるかを示す経済学上の概念。所得分配の問題は,限られた資源をどのような目的に,どのような方法で使用するかという資源配分の問題と並んで,基本的な経済問題のひとつになっている。分配問題と配分問題は密接につながっており,分配上の公平と配分上の効率とが衝突することも少なくない。…
※「分配」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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