判官(読み)ほうがん

精選版 日本国語大辞典 「判官」の意味・読み・例文・類語

ほう‐がん ハウグヮン【判官】

[1] 〘名〙
令制四等官(しとうかん)制で、第三等官の総称。また、巡察使など若干の官司の第三等官。次官(すけ)の下、主典(さかん)の上。じょう。
※続日本紀‐文武三年(699)一〇月辛丑「判官四人、主典二人」
② 特に、衛門の尉(まれに、近衛将監兵衛の尉)であって検非違使を兼ねるもの。検非違使の尉。そのうち、さらに六位の蔵人を兼ねるものを「上(うえ)の判官」という。
※能因本枕(10C終)五二「六位蔵人、うへのはうくゎんとうち言ひて、よになくきらきらしき物におぼえ」
大坂の遊里で、大尽(だいじん)をいう。〔譬喩尽(1786)〕
[2] (検非違使の尉であったところから) 源義経をいう。
謡曲正尊(1541頃)「これは西塔武蔵坊弁慶にて候、さてもわが君判官は」

はん‐がん ‥グヮン【判官】

[1] 〘名〙
① 中国の官名。唐代、節度使、観察使などの属僚。元・明には各府州に置かれたもの。日本では検非違使の第三等官、尉(じょう)の別称。ほうがん。〔色葉字類抄(1177‐81)〕 〔通典‐職官典・州郡上・都督
裁判官。〔広益熟字典(1874)〕
③ 得意になっているしろうとの浄瑠璃語り
※浮世草子・当世芝居気質(1777)一「元より素人の判官(ハングヮン)なり」
④ もと、上方遊郭でたいこもちをいう。
随筆羇旅漫録(1802)下「大坂妓院の方言〈略〉廓の牽頭(タイコモチ)を判官といふ。略してぐゎんとばかりもいふ」
⑤ =ほうがん(判官)③〔浪花聞書(1819頃)〕
[2] 源義経の俗称。

じょう【判官】

〘名〙
① 律令官制の四等官の第三番目。次官(すけ)の下、主典(さかん)の上位。その所属する官司の職員を糺判し、主典の作成した文案を検査して署名し、公事および文書の稽留失錯の罪を勾勘し、宿直の順番を定めることなどをつかさどる。官司によって表記を異にする。
※令義解(718)職員「内蔵寮 頭一人。助一人。允一人。大属一人。少属一人」
② 明治二年(一八六九)七月に制定された官制の第三等官。官司によって字を異にし、大少の別がある。

ぞう【判官】

〘名〙 令制の四等官の一つ。長官(かみ)・次官(すけ)の下位、主典(さかん)の上位。→判官(じょう)
※催馬楽(7C後‐8C)挿櫛「たけくの曾宇(ゾウ)の 朝に取り 夜(よう)さり取り 取りしかば」
※古今(905‐914)雑下・九三八・詞書「文屋の康秀が三河のそうになりて」

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デジタル大辞泉 「判官」の意味・読み・例文・類語

ほう‐がん〔ハウグワン〕【判官】

《「はんがん」の音変化》
四等官の第三等官。特に、衛府じょうであって検非違使けびいしを兼ねる者。→判官じょう
《検非違使の尉であったところから》源義経の通称。

じょう【判官】

律令制で、四等官しとうかんの第三位。庁内の取り締まり、主典さかんの作る文案の審査、宿直の割り当てなどをつかさどった。「丞」「掾」など官司により用字が異なる。→四等官

はん‐がん〔‐グワン〕【判官】

ほうがん(判官)
裁判官
「朋友は、今は―になって地方に行て居るが」〈独歩武蔵野

ぞう【判官】

じょう(判官)」に同じ。
「右近の―なる人の」〈・藤裏葉〉

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「判官」の意味・わかりやすい解説

判官
じょう

令制官職の四等官のうち第3位の官。役所内の事務の統制を司った。太政官では少納言,弁がこれにあたり,神祇官は佑,八省では丞,寮では允,では祐,諸国司は掾と書いた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「判官」の解説

判官
じょう

「はんがん・ほうがん」とも。律令官制で諸司の四等官のうちの第3等官。官司により祐・丞・進・允・佑・忠・尉・監・掾と書きわけ,郡司の主政,家司の従もこれにあたる。職掌は,官司内の取締り,公文書の文案の審査,公務違失の管理,宿直の差配など。

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旺文社日本史事典 三訂版 「判官」の解説

判官
じょう

律令制下,四等官の第3位の官職。

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世界大百科事典(旧版)内の判官の言及

【四等官】より

…律令官制においては,各官司の主要な職員は,長官(かみ),次官(すけ),判官(じょう),主典(さかん)の4等級に分かれて職務を分掌した。これを四等官,四分(部)官という。…

【裁判】より

…前2者は神意を直接に問うものである(西洋における神託裁判の一例がシェークスピア《冬物語》第三幕第二場に見られる)が,当事者どうしまたは代用戦士の決闘(その一例が,シェークスピア《リチャード二世》第一幕第三場に見られる)においても勝敗は神の裁きの現れと考えられていたし,宣誓も偽証者には天罰が下ると信じられていた(《日本書紀》巻十,巻十三などに見える盟神探湯(くかたち)はその例である)。古代メソポタミアでは,裁判官が王の名において下した判決は神聖な力を持ち,それに対する不服従はそれ自体が天罰を招くとされた。一般に,このような神意裁判は,儀礼的手続によって神を呼び出すという観念に基づいていたため,当事者が定まった文言を誤りなく述べなければ敗訴とされる(そのため代弁人が用いられたことが,弁護士の一つの起源とされる)というように,厳格な形式主義に支配されることが多かった。…

※「判官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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