〘名〙 (古くは「せんご」とも)
① ある場所を境にして、そのまえとうしろ。また、ある
物体の前とうしろ。先後
(せんご)。あとさき。
※
経国集(827)一四・秋雲篇示同舎郎〈
滋野貞主〉「東西引望無
二行人
一、前後廻看絶
二世隣
一」
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)一「前後(センゴ)を見れども、いよいよないに極りける」 〔春秋左伝‐隠公九年〕
② 時間的なあとさきをいう。
(イ) 時間の流れやある物事の
推移の一時点を境にしてそのまえとあと。あるときを中心にした
一連の状況。また、物事の順序。先後。あとさき。
※懐風藻(751)賀五八年宴〈伊支古麻呂〉「真率無前後、鳴求一愚賢」
※
明暗(1916)〈
夏目漱石〉五「三四日等閑
(なほざり)にして置いた咎が祟って、前後
(ゼンゴ)の続き具合が能く解らなかった」
(ロ) (副詞的に用いて) 時間的に、あとにもさきにも、あることの以前にも
以後にも。
※
曾我物語(南北朝頃)一「
河津は、せんこ相撲はこれがはじめなれば、やうもなくするするとあゆみより」
③
書物などの前編と後編。また、ひと続きのものの初めから終わりまで。
※人情本・英対暖語(1838)二「
中本の方は前後六冊でめでたしめでたしに満尾
(おさまっ)てゐるから」
④ (━する) 順序が逆になること。あとさきになること。また、相違すること。
※玉葉‐寿永二年(1183)七月二八日「彼両人相並、敢不二前後一争権之意趣以レ之可レ知」
※浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸「長次は昼からの酒に心みだれ、いふほどの事前後
(ゼンゴ)して、ひとへに
うつつのごとし」
⑤ (━する) あいだをあまり置かないで続くこと。相次ぐこと。続くこと。
※方丈記(1212)「路のほとりなる頭、すべて四万二千三百余りなんありける。いはむや、その前後に死ぬるもの多く」
※屋根裏の法学士(1918)〈宇野浩二〉「彼の卒業と前後して」
⑥ 物の数、年代、時間、年齢を表わす語や数字について、それにごく近いことを示す語。ぐらい。ころ。内外。絡(がらみ)。
※狂言記・福渡(1660)「夜のやはんの前後(センゴ)に、八十ばかりの老僧が」
[補注]「平家‐一〇」に「小八葉の車に先後(ゼンゴ)(高良本ルビ)の簾をあげ、左右の物見をひらく」の例があり、「先後」を用いることもあった。