前癌状態(読み)ゼンガンジョウタイ

デジタル大辞泉 「前癌状態」の意味・読み・例文・類語

ぜんがん‐じょうたい〔‐ジヤウタイ〕【前×癌状態】

高頻度に癌になりやすいと考えられている病変肝臓癌に対する肝硬変皮膚癌に対する色素性乾皮症など。前癌病変。

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精選版 日本国語大辞典 「前癌状態」の意味・読み・例文・類語

ぜんがん‐じょうたい‥ジャウタイ【前癌状態】

  1. 〘 名詞 〙 癌になる一歩手前の状態を一般にいう。ただし、癌が比較的多く合併する疾患、たとえば肝硬変や大腸ポリポージスなどをさすこともあり、時には早期癌をさすこともある。前者は癌とは別疾患であり、将来癌の発生する可能性が強いというに過ぎないが、後者はすでに明らかな癌である。前癌。〔癌(1955)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「前癌状態」の意味・わかりやすい解説

前癌状態
ぜんがんじょうたい

癌は人類にとって大敵というべき疾患であり、癌の予防は人類のための医学の最重要な課題とされている現状から、前癌という用語が一時流行した時期もあったが、現在では、かえってこの意味が混乱しているのが実状である。かつては、ある病変それ自体は癌ではないが、癌が発生する頻度が高いと臨床的にあるいは経験的に理解されている疾患がいくつかあり、これらは癌の前段階であろうという考えから前癌状態あるいは癌前駆症とよばれてきたわけである。例としては、皮膚の癌の場合の光線皮膚炎、色素性乾皮症、老人性角化症、火傷瘢痕(はんこん)などの皮膚疾患、胃癌の場合の胃潰瘍(かいよう)、大腸癌の場合の大腸ポリープ症、肝癌ヘパトーマ)の場合の肝硬変症乳癌の場合の乳腺(にゅうせん)症、悪性絨毛(じゅうもう)上腫(しゅ)の場合の胞状奇胎などがあげられる。確かに、これらの癌がみつけられた場合に、ここであげられているような前癌状態、すなわち病変が認められることが多いのは事実であるが、この状態からかならず癌が発生するという根拠は現在のところ確認されていない。また、その何パーセントが癌になるという見解も一定せず、研究者によりまちまちな状況である。前癌状態とかつて強調された疾患と、癌の発生つまり発癌とを簡単に関係づけることは困難であり、またかえって危険というべきであろう。上皮の中だけに増殖している癌を上皮内癌carcinoma in situとよんでいるが、これは組織学的に確認されるので初期癌として取り扱われ、癌細胞がある範囲発育・増殖して肉眼的な大きさとして認識されれば微小癌、早期癌と臨床的に称せられる。これら上皮内癌、初期癌、微小癌、早期癌は癌そのものであり、前癌とは明確に区別されなければならない。

[渡辺 裕]

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百科事典マイペディア 「前癌状態」の意味・わかりやすい解説

前癌状態【ぜんがんじょうたい】

ある組織にができる前に,癌に先立って介在する病変。本態は不明だが,癌細胞の潜伏状態や,真の癌性増殖への可逆的な移行の段階と考えられている。たとえば,肝硬変(肝癌),慢性乳腺症(乳癌),舌の白板症(舌癌),皮膚の母斑やページェット病(皮膚癌),直腸の家族性ポリポージス(直腸癌)などで,この中には独立した疾患として認められるものもある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「前癌状態」の意味・わかりやすい解説

前癌状態
ぜんがんじょうたい
precancerous conditions

病理学上からは,癌であるかないかの二者択一で,中間状態は存在しないから,明確な定義はない。しかし臨床的には,放置すると癌ができる確率が高いと考えられるとき,その先行する病的状態を前癌状態という。たとえば,舌の白板症は舌癌の,子宮頸部の異形成は子宮癌の,胃粘膜の腸上皮化生は胃癌の,大腸ポリープは大腸癌の,肝硬変は肝癌の前癌状態とみなすことができる。

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