労働者派遣事業の適正な運営を確保するとともに、雇用が不安定になりやすい派遣労働者を保護することを目的とする法律。正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(昭和60年法律第88号)で、「労働者派遣事業法」または「派遣法」とも略称される。
労働者派遣とは、使用者(派遣元)が「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」をいう(労働者派遣法2条1項。ここで「他人」は一般的に「派遣先」に対応する)。具体的には、派遣元が派遣労働者と労働契約を締結しつつ、派遣先と労働者派遣契約を締結することで、自らが雇用する派遣労働者を派遣先に派遣し、その指揮命令に服させることになる。派遣労働には、派遣元が派遣労働者を常時雇用する類型(常用型派遣)と、あらかじめ登録された者と派遣のつど労働契約を新たに締結する類型(登録型派遣)の二つの類型が存在し、従来はこの区分に応じた規制も設けられていた。後者の類型の場合は、派遣期間と契約期間が直結する場合が多く、前者よりも雇用が不安定であるという特徴を有する。
通常、労働者は自らが契約を直接締結した相手方(使用者)の指揮命令下で労働する。しかし、派遣労働では、労働者は、使用者(派遣元)の指揮命令下でなく、自らとは直接の契約関係にない第三者(派遣先)の指揮命令下で労働することになる。換言すれば、派遣労働は、(1)派遣元(使用者)との間では労働契約関係を、(2)派遣先との間では指揮命令関係を生じさせ、雇用関係を三者間に拡大させる法的機能を有する。
このような外部労働者の労働力の利用については、業務処理請負という形態も存在する(発注者が受注者の労働者の労働力を利用する)。しかし、この場合には、労働契約関係と指揮命令関係の双方が受注者・労働者間に存在するのであって、発注者は、その仕事の完成による利益を享受するにすぎない(注文者が労働者に対して指揮命令を行うことはできない)。また、出向という形態においても、出向先は出向元の労働者の労働力を利用することができる。この場合には、業務処理請負とは異なり、出向先が直接指揮命令を行うことも可能であるが、それと同時に出向先・労働者間に部分的な労働契約関係が生じるものとされている(なお、出向元との労働契約関係も消滅することなく継続する)。以上のようにみると、派遣労働には、(1)労働契約関係を拡大させない(派遣元である使用者と労働者の間でのみ契約関係が存在する)点で出向との相違点が、(2)外部労働力の利用者が直接的に指揮命令を行うことができる点で業務処理請負との相違点がみられる。このため、利用者(派遣先)としては、労働契約関係から生じるさまざまな責任を回避しつつ、指揮命令関係を背景として外部労働者の労働力をより柔軟に利用することができる。とくに、契約上の雇用責任を回避でき、解雇規制(労働契約法16条)の枠外で雇用調整を行うことができる点には大きなメリットが存在する。しかし他方で、派遣労働者の側には、雇用の調整弁とされ、雇用が不安定となってしまうという重大な不利益が生じることとなる。そこで、派遣労働の利用を無制約に認めることはできず、その利用を適正化するための法的規制を設ける必要性がある。
[土田道夫・岡村優希 2018年11月19日]
そのため、1985年(昭和60)に労働者派遣法が制定され、派遣可能な業種などが厳しく制限された。ここでは、派遣対象業務を合計16種(13種+3種の追加業務)に限定するポジティブリスト方式(派遣可能な業務を限定列挙する方式)が採用された。これは、体系上、派遣労働を原則として禁止しつつ、対象業務を行う場合に限って派遣労働を例外的に許容することを意味するものであった。そもそも、労働者を供給する旨の契約に基づいて、自らの雇用する労働者を他人の指揮命令下で労働させることは「労働者供給」として禁止されている(職業安定法4条7項・44条参照)。本法は、人材派遣ビジネスの急成長を受け、その禁止を部分的に解放するという趣旨で定められたものであり、このような方式を採用することで派遣労働の利用そのものを強度に規制していた。その後も、規制緩和の流れを受けて1996年(平成8)に労働者派遣法施行令が改正され、派遣可能な業務が比較的専門性の高い26種に拡大したものの、ポジティブリスト方式を採用するという点は基本的に維持されており、あくまでも部分的な改正が行われたにすぎなかった。なお、1994年改正で一部、ネガティブリスト方式(派遣労働が禁止される業務を限定列挙する方式)が採用されたが、これは高齢者の雇用安定を趣旨とする部分的なものにすぎないものであり、基本的には、ポジティブリスト方式による派遣労働の原則的禁止という立場が維持されてきたといえる。加えて、派遣労働を臨時的かつ一時的なものにするため(25条)、同一の場所・業務における派遣期間が合計で3年を超えないように行政指導がなされていた(実質的上限)。
しかし、その後、国際労働機関(ILO)において「民間職業仲介事業所に関する条約」(第181号条約)が1997年に採択され、国家による実施が原則とされていた労働力需給調整サービス業を官民で共存させる方向性が示された。加えて、バブル崩壊後の経済不況に対応すべく、派遣労働の利用拡大を求める経済界の声が大きくなっていた。これらの流れのなかで、本法は1999年に大改正され、従来のポジティブリスト方式がネガティブリスト方式に改められた。これにより、派遣労働の法的位置づけは、例外的に許容されるものから原則として認められるものに抜本的な変更がなされることとなった。もっとも、不安定雇用等の派遣労働の弊害に対処すべく、派遣期間の上限規制(専門26業務は従来どおり実質3年間、その他業務は1年間)、上限規制違反の場合における直接雇用の勧告や、派遣労働者を優先雇用すべき努力義務など、一定の規制が設けられており、派遣労働の利用を適正化することにも注意が払われていた。
その後、規制緩和の流れのなかで、本法は2003年(平成15)にも改正された。本改正は、直接雇用に関する一定の規制(派遣期間満了後も従前の労働者を継続して使用する場合における直接雇用申込み義務等)を導入するなどの規制強化を行いつつも、派遣可能期間の実質的撤廃(専門26業務に関する3年を上限とする行政指導が廃止された)・延長(その他業務については過半数組合の意見聴取等を要件に上限が3年とされた)や、従来禁止業務とされてきた製造業への派遣を解禁するなど、規制緩和を基調とするものであった。
派遣労働は働き方の多様化の表れとして肯定的にもとらえられるが、2008年のリーマン・ショック以降の不況においては、製造業を中心として雇用の安易な調整弁とされることが目だつようになった。とくに、派遣先が派遣元との労働者派遣契約を解約・不更新とすることに伴う失業(派遣切り)の問題が顕著となった。そもそも、日本の雇用システムは、労働者を直接的かつ長期的に雇用することを基本に形成されており、それを前提とした労働者保護の法制度化と相まって安定的な雇用を実現してきた(長期的雇用慣行・労働契約法16条による強力な解雇規制がその典型である)。しかし、派遣労働者は間接的に雇用されるにすぎず(派遣先に直接雇用されているわけではない)、非正規労働であるがゆえに長期雇用も予定されていないため、そのような保護を享受することが困難である。そこで、派遣労働に対する規制を強化し、派遣労働者に法的保護を及ぼす必要性が強調されるようになった。また、前記のような、たび重なる規制緩和によって派遣労働者の数が増大するにつれ、このままなし崩し的に規制緩和が進めば、本来的には常用労働者によって担われるべき仕事が派遣労働者によって本格的に代替され、雇用全体の悪化につながっていくのではないかとの懸念がさらに強められていった。
そこで、2012年、本法は規制強化を基調とする改正を受け、派遣労働者の保護の充実化が図られることになり、また、正式名称も従来の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改められた。具体的には、日雇い派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則的禁止、グループ企業内派遣の8割規制(同一グループ内企業への派遣を全体の8割以下に制限する規制)の導入、離職者派遣の制限(派遣先に直接雇用されていた労働者を、離職後1年以内に元の勤務先に派遣することの原則禁止)、派遣会社のマージン率等の情報提供、有期雇用派遣労働者の無期雇用への転換推進措置の努力義務化や、均衡を考慮した待遇を確保すべき配慮義務の導入など、さまざまな規制が導入された。それらのなかでも、派遣先に対する規制として、労働契約の申込みみなし制度(40条の6)が導入された点はとくに注目される。これは、一定の違法派遣(派遣可能期間の上限を超える派遣や偽装請負など。なお、偽装請負とは、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、派遣法の規制を逃れるために請負形態を偽装して労働者を受け入れることである)が行われた場合に、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものと擬制する(みなす)制度である。この制度によれば、擬制された(みなされた)使用者(派遣先)の申込みに対して、派遣労働者が承諾の意思表示をしさえすれば、労働契約が成立することになる。本来的に、労働契約は使用者と労働者の合意によって成立するのが原則であるが(契約締結自由の原則)、本制度は、このような原則を大きく修正し、使用者側に採用を強制しうるものであり、私法上重要な意義を有する。
もっとも、2012年改正に際しては、登録型派遣や製造業派遣のあり方等について施行後1年経過後をめどに労働政策審議会での議論を開始することや、専門26業務とそれ以外の業務との区分を前提とする派遣制度の見直しを速やかに検討することなどを内容とする附帯決議がなされた。これに加え、政権交代等の政治上の変化もあり、2015年にも改正されることとなった(2018年10月時点では、本改正が現行法である)。ここでは、おもに次のような改正が行われた。
まず、事業区分が廃止された。従来は、登録型派遣を行う事業を一般労働者派遣事業、常用型派遣のみを行う事業を特定労働者派遣事業として類型化し、雇用が不安定となりやすい前者のみを許可制のもとに置いていた。しかし、許可制の対象とならない常用型派遣に移行する事業者が増加したため、本改正は、両者の区分を廃止し、登録型・常用型の双方を許可制とした。
次に、対象業務区分を廃止のうえ、期間制限が再編された。前記のとおり、従来は、専門26業務以外については3年が上限とされ、専門26業務についてはその上限がないものとされていた。しかし、専門26業務に該当するか否かの区別がかならずしも明確ではなく違法派遣の要因となっていること、専門26業務に従事する労働者が相当数に上ることなどから、この区分は廃止された。そのうえで、改正法では、このような業務単位の規制にかえて、事業所と個人を単位とする期間制限が設けられた。まず、派遣可能期間は事業所を単位として3年が上限であるとされる。もっとも、過半数組合・過半数代表からの意見聴取等を要件として、3年ごとの延長が認められている(延長回数の上限はなし)。次に、個人単位の規制として、同一の労働者を派遣先の事業所の同一の組織単位(いわゆる「課」など)に3年を超えて派遣することが禁止されている。この規制は、事業所単位の上限が延長された場合でも解放されず、同一の労働者を前記規制に反して受け入れた場合には、直接雇用の申込みをしたものとみなされることになる。ただし、労働者が無期契約を締結している場合には、雇用が一定程度安定していることから、前記の上限規制の適用は除外される。
そのほかにも、派遣元企業の雇用安定措置の導入義務、教育訓練の実施義務、均衡待遇にかかる説明義務や、派遣先の教育訓練の実施にかかる配慮義務、福利厚生施設の利用にかかる配慮義務、派遣先労働者の賃金水準等に関する情報提供についての配慮義務を定めるなど、さまざまな改正が行われた。
なお、2018年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が成立し、本法の改正が行われることとなった。おもな改正点としては、2012年改正で導入された派遣労働者の均衡待遇にかかる配慮義務が、不合理な待遇等を禁止する強行的な規定に改められることとなったこと(改正法30条の3、30条の4)と、待遇に関する派遣元企業の説明義務が強化されたこと(同31条の2)があげられる。この規定は、2020年4月1日より施行される予定である。
以上のような規制を背景に、日本における派遣労働者の割合は低水準で推移している。もっとも、その絶対数は決して少なくなく、雇用も不安定であるため、どのような規制が適切かについて、引き続き議論を深めていく必要性がある。
[土田道夫・岡村優希 2018年11月19日]